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2024年3月にリニューアルしました。
連載:5分でわかる!サステナブルニュース
2024.11.29
近年、「男性育休」制度の整備が国を挙げて着実に進められています。男性の育休の取得率は11年連続で上昇し、2023年度は30.1%と、前年度の17.1%から比べても大きく増加しています(厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」より)。
しかし、男性育休は「単に育休制度をつくって終わり」ではありません。誰しも安心して育休を取得し、その取得率を向上させるためには継続的な組織づくりや企業風土づくりが必要です。
では、大和ハウス工業はどのような施策を講じているのでしょうか。グループ会社の大和リースの事例とともに考えます。
2021年6月に改正された育児・介護休業法では、子どもの出生後8週間以内に父親が最長4週間の育休を取得できる「産後パパ育休(出生時育児休業)※1」制度が創設され、翌年2022年10月からスタートしました。
2023年4月からは従業員1000人超の企業に対し、男性社員の育休取得状況の開示も義務付けられ、男性の家事・育児参加を後押ししています。さらに2025年4月からは、300人超の企業に対しても開示義務が拡大されます。
※1 産後パパ育休:子が生まれてから8週間以内に、最大で4週間の育休を2回に分割して取得できる制度。
このような状況の中、大和ハウス工業では現在66.5%(2023年度)である男性社員の育休取得率を、2026年度までに80%まで引き上げる目標を掲げ、グループ内でも多様な取り組みを行っています。
「育児や介護、自身の健康管理など、私たちはさまざまな事情を抱えながら働いています。これからは、一人ひとりの状況に合わせた柔軟な働き方ができる環境づくりが必要です」と話すのは、大和ハウス工業のWell-being推進室DE&I推進グループ主任、池田昇平さんです。
大和ハウス工業は従業員の約80%が男性です。育休だけではなく、男性が日常的に育児に参画することで働き方を見直すことが、時間的制約の有無に関わらずすべての社員が活躍できる職場環境の醸成につながる、というのが池田さんの視点です。
2018年度は32.9%、2019年度から2021年度までは40%前半で推移していた大和ハウス工業の男性育休取得率ですが、2023年度には66.5%まで増加しました。しかし、課題はまだまだ残されています。
「社内調査では、男性社員の80%以上が育休取得を希望しており、この数字が『2026年度までに取得率80%』の根拠となっています。ですが『希望通りの形・期間で育休を取得できそう(できた)』と回答した男性社員は25.4%しかいませんでした。取得率の達成にとどまらず、取得したいと考える社員が望んだ形で制度を利用できる環境を整えていく必要があります」(池田さん)
取得を躊躇する理由として多くあがるのが「上司の理解を得にくい」という声です。ただし、これは育児に対する無理解ではなく「誰かが休むと業務が回らない」という現実的な懸念が背景ではないか、と池田さんは分析します。
「現在は相談窓口の明確化や、上司による育休取得の意向確認など、取得しやすい環境づくりを進めていますが、グループ会社である大和リースは育休を取得する社員のサポートのほか、職場に残る社員に配慮した体制づくりの点で先進的な取り組みをしています。私たちもその実例から学んでいきたいと考えています」(池田さん)
実際、大和リースの男性育休取得率は2023年度で87.3%という高水準に達しています。具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。
大和リースでは、3カ月以上の育休取得で100万円を支給する子育て支援制度「エンジェル奨励金」や、育休取得者の業務をサポートする同僚に報いる「サンキューペイ制度」など、ユニークな施策で取得推進を後押ししています。
2023年4月に支給金額の見直しを行った「エンジェル奨励金」。男性側の育児休業(産後パパ育休含む)取得の合計日数に応じて支給します。
「男性育休に力を入れる一番の目的は女性の活躍推進」と話すのは、大和リースの上席執行役員 人事部長、佐伯佳夫さんです。
「結婚すると家事や子育て、さらには介護といった負担が女性に集中するのが日本の現状です。これでは、女性にどれだけ仕事への意欲や能力があっても時間が足りなくて当然。まずはこの状況を変えなければいけません」(佐伯さん)
そのため大和リースでは、男性育休を「家事・育児をパートナーと担っていくためのプログラム」であると位置づけています。育休取得をきっかけに「育児はふたりで関わるもの」という認識を育むことで、子育て期だけでなく将来起こり得る介護の場面でもパートナー同士が支え合う土台ができる、と考えています。
その第一歩が、「エンジェル奨励金」申請の必須要件となっている「家事・育児シェアシート」の提出です。
「家事・育児シェアシート」の抜粋。夫が育休を取得する場合、①夫が育休に入る前に夫婦で作成・シェアをして奨励金の申請・提出を行う(グリーンの項目)。②夫が休業後、夫婦で作成・シェアをして実績報告として提出する(オレンジの項目)。「他」は夫婦以外の家族が担当、公共・民間サービス利用、時短家電の購入など。
このシートには日常的な家事・育児の項目が記載されています。「食事」以外でも、例えば掃除は玄関、リビング、トイレなどの場所ごとに項目が設定されていますし、洗濯ひとつとっても「洗う」「干す」「たたむ」「片付ける」とタスクが細かく分かれています。「我が家のシェア」では夫婦での家事分担の割合を数値で記入し総括。普段は見えにくい「家事・育児にかかる労力」について、男性側の理解を深める効果もあります。
「多くの場合、男性は家事・育児をやりたくないのではなく、やり方がわからないんです。このシートをきっかけに育休中の2、3カ月間経験を積むことで、『自分にもできる』という自信が生まれるはず。女性にとっても『安心して夫に任せられる』と感じる場面が増えることで、その後の働き方にも良い影響を与えていきます」(佐伯さん)
「エンジェル奨励金」は男性側の育休取得期間に応じて、1カ月未満で30万円、1カ月以上3カ月未満で50万円、3カ月以上で100万円という3段階制です。取り組みの成果として、現在では1カ月以上の取得者が60%、3カ月以上の長期取得者も35%に達しています。
「奨励金を入り口に、取得日数や家事・育児の具体的な分担について、ふたりで話し合う機会となっているのだと思います」(佐伯さん)
男性の育休取得を進める上で、もうひとつの見逃せない課題は、育休取得者が出ると職場に残る社員の業務量が増えることです。同僚の育休取得を応援したくても、現場に不安や不公平感が生まれては育休取得のハードルが上がってしまいます。
そこで大和リースでは、2023年に育休取得者の業務をサポートする同僚に報いる「サンキューペイ制度」を導入しました。育休取得者に支給する予定だった賞与原資を、業務支援に当たる同僚やチームに再分配する仕組みです。
「各部署の上司が、フォローに当たった社員一人ひとりの貢献度を支援の『量』と『質』両面で評価し、分配額に反映する仕組みです。支援の事実に対して公正な評価が行われると同僚らが実感できれば、自然にサポートし合える職場になります」(佐伯さん)
「サンキューペイ制度」で使用する配分表の抜粋。
育児であれ仕事であれ、当事者がひとりで抱え込まない仕組みづくりが重要という観点から、「チーム制営業」も導入しました。
これまで営業職はひとりで顧客を担当し、成果も個人実績として計上するのが基本でしたが、現在は複数のメンバーでチームを組み、例えば3人で担当する場合、受注実績を「3割、3割、4割」というように分配して評価しています。
「この方法であれば時間的制約のある人も活躍できますし、若手は先輩の仕事ぶりから学べます。また個々の得意分野を組み合わせることで、ひとりでは取れなかった案件にもチャレンジできる。人的資本経営とは、一人ひとりの長所を活かすこと。チームでの働き方は、そんな考えを具現化したものなんです」(佐伯さん)
さまざまな施策を展開する中で、「家事・育児は女性だけの仕事ではなく、夫婦で担っていくもの」という社の考え方も浸透してきており、「会社がその方向性を明確に打ち出してくれることで、背中を押されている」という声も社員から上がってきています。
大和リースのこれらの取り組みは、男性の育休取得をきっかけとした働き方改革がもたらす新たな可能性を示しています。グループ会社の先進的な事例をヒントに、進化を目指す大和ハウス工業は今後どのような未来を描いているのでしょうか。
「当社は2055年のグループ創業100周年に向けて、事業のパーパスを"将来の夢"と位置づけ、『生きる歓びを、未来の景色に。』という言葉を掲げています。育休取得も働き方改革も、すべては社員が思い描く豊かな人生を実現するため。これからもグループ全体で学び合いながら多様な選択ができる制度を整えて、"将来の夢"を社員一人ひとりが語り、自分らしく輝いていける職場環境を整えていきたいです」(池田さん)
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