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COLUMN コラム サステナブルな暮らし

サステナブルな暮らし

再生可能エネルギー100%の暮らしをつくろう
〜再生可能エネルギー100%利用は世界が目指す気候変動の解決策〜

日本の太陽光発電の導入量は、2018年度に5337万kWに。222万kWだった2008年度から、10年で24倍と大幅に増加した。
写真提供:自然電力

2021.01.29

昨夏(2020年6~8月)の北半球は1880年以降の観測史上で最も暑く、地球の他の地域に比べ2倍以上の速さで温暖化が進む北極圏では顕著な高温が続き、大規模な氷の融解や森林火災が生じていたことが、米海洋大気局より報告されています。また、日本でも以前とは進路の異なる台風やゲリラ豪雨がひんぱんに各地を襲うなど、地球規模の気候変動が私たちの暮らしを変え始めています。”気候危機”とも呼ばれるようになったこの問題を解決する切り札として、ますます普及の機運が高まっているのが再生可能エネルギーです。太陽光や風力、水力や地熱などが石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料に取って代わることで、温室効果ガスの排出を約8割カットを目指せるからです。

日本の温室効果ガス排出量 2018年度 総排出量1240百万トン 再生可能エネルギーに転換することで、温室効果ガス8割カット

2018年度国立環境研究所温室効果ガスインベントリ、総合エネルギー統計、エネルギー白書より

菅義偉内閣総理大臣は2020年10月末、2050年までの温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを宣言し、再生可能エネルギーの主力電源化を目指して導入を最大限進める方針を示しました。民間では、事業運営に要する電力を100%再生可能エネルギーで調達する目標を掲げる国際イニシアティブ「RE100」に世界284社が加盟(2020年12月時点)。日本からは、大和ハウスグループなど、加盟基準を満たす大手企業が名を連ねています。

大きな潮流となりつつある脱炭素・再生可能エネルギーシフトは、私たちの暮らしをどんなふうに変えるのか。また、どうすればよりよい方向にシフトできるのか。自然電力株式会社代表取締役の磯野謙さんにお話を伺いました。

お話を伺った方

磯野謙 さん

自然電力株式会社 代表取締役
2011年6月に自然電力株式会社を設立し、代表取締役に就任。民間発の再生可能エネルギー専業ベンチャーとして、再生可能エネルギー発電所の開発・発電・小売事業を行い、自治体や企業と協業した再生可能エネルギー発電所運営の仕組みづくりを推進する。元米国副大統領アル・ゴア氏が手がけるClimate Reality Leadership Corps 東京Training(2019年度)にスピーカーとして登壇。プライベートでは、屋久島に太陽光発電と薪ボイラーでエネルギーを100%自給できるオフグリッドハウスを建設中。

暮らしの展望1暮らしの展望1再生可能エネルギーの使用で、電気代がお得になってゆく?

2019年度の日本の再生可能エネルギー比率は、家庭やオフィス、工場、輸送などで消費されたすべてのエネルギー(灯油・ガソリン等含む)のうちの9.3%(※1)。100%には遠く及ばない今ですが、それでも5.3%だった2010年度と比較して飛躍的に進歩しています。

「太陽光パネルの価格は、この10年で約10分の1になったといわれています(※2)。また、家庭の電気代に関しては、太陽光パネルを設置して10年使えば、トータルで電力会社から電力を買うよりも安くなっています。」

通常、電力会社から買う電力は、大規模な発電所で石油や天然ガス、石炭といった化石燃料を燃やした熱で蒸気をつくりタービンを回すことで発電しています。そのため、化石燃料は燃やす時にCO2を排出するのに対して、太陽光パネルは発電時にCO2を排出しません。こうした環境面での価値に、家計に優しい経済的な価値も加わり、生活者にとっての魅力が増しています。ただし、これはもともと家庭向けの電気料金が高いからこそ。法人向けの電気を安く買っている企業にとっては、再生可能エネルギーはまだまだ割高です。

タイの日本企業の工場屋根上に設置された1MWの太陽光発電所。再生可能エネルギー電力を、工場に直接供給する。
写真提供:自然電力

「電力自由化が影響し、中小企業にとっても電気料金が安くなり始めていますが、多量の電気を使っている日本の大企業が、再生可能エネルギーを割安に使うのは今はまだ難しい。ただ、世界を見渡せば日射量が多く太陽光発電由来の電気のほうが安い場所も出てきました。最近、当社ではタイに工場を持つ日本企業向けにと、工場の屋根に太陽光パネルを設置し、電力を直接供給するプロジェクトを始めました。タイは日射がよく、現地の工事コストが比較的安いため、工場は今購入しているよりも安い価格で月々の電気を購入できます。」

※1 (出典)資源エネルギー庁総合エネルギー統計速報 (参考5)一次エネルギー国内供給

※2 (出典)BloombergNEF

暮らしの展望2暮らしの展望2再生可能エネルギーを主力電源にする場合は、
余った電気を蓄電池や水素に変換して貯蔵する構想

自然の恵みを豊かに受け取れる場所では、再生可能エネルギーでつくった電気が低価格で手に入ると話す磯野さん。ただ、再生可能エネルギーの普及を今以上に進めるためには、価格のほかにも乗り越えなければならないハードルがあると言います。

「まず、風力発電や太陽光発電は、火力発電と違って発電量とタイミングを人の手でコントロールできません。このため、コントロールできることを前提に構築されてきた送配電網にとっては、需給バランスの安定を脅かすやっかい者です。ただ、これは火力や原子力が主力電源で再生可能エネルギーが”おまけ”だったこれまでの常識。再生可能エネルギーを主力電源にするなら、発電量が需要を上回る時に蓄電して、下回る時に放電する蓄電池を大量導入するなど、風力発電や太陽光発電が不安定であることを前提にした送配電網につくりかえる必要があります。そうでないと、送配電網の制約を受けて、再生可能エネルギーの導入量が増やせなくなってしまいます。」

これに加えて、再生可能エネルギー100%の世界をつくるには、自動車など電力以外のかたちで使われているエネルギーをなるべく電化すること。さらに、飛行機や船舶など電気ではパワーが足りない用途は、需要を上回って発電された再生可能エネルギーからの電力で水を電気分解してつくった水素エネルギーを活用するという構想も始まっています。

欧州では、ガソリン車・ディーゼル車が近い将来販売禁止になることが決まり、また、2020年の世界の自動車販売台数に占めるEVの割合が過去最高の3%に達するとみられているなど(※3)、磯野さんが話すイノベーションは日進月歩で進んでいます。

※3 (出典)一般財団法人環境イノベーション情報機構

暮らしの展望3暮らしの展望3荒廃農地に太陽光パネル、海の上に風力発電。
イメージしたい未来の街

「2050年に向けて語られる『脱炭素』『カーボンニュートラル』『CO2ゼロ』といった言葉は、基本的に化石燃料をやめましょう、と言っています。産業革命以来、文明が依って立ってきたエネルギーを変えるのだから、非常に難しい。難しいチャレンジですが、やる意義があると思います」と壮大なビジョンを語る磯野さん。

日本で2019年の電力需要量(8,771億 kWh)をすべて風力発電で賄おうとすると1.5MW風車が約29万基必要になります。2019年12月時点で国内に導入されている風車の数はまだ2,414基(※4)。環境省による再生可能エネルギーの導入ポテンシャル推計結果によれば、陸上風力だけで年間6,859億kWh、洋上風力ではなんと32,956億kWhものポテンシャルがあるとされています(※5)。また、日本の荒廃農地28万ha(※6)は、 太陽光発電所約250GW分(年間予測発電量は約25万GWh)に相当します。利用されていない土地を活用することで、森林伐採などを極力抑えて、化石燃料に頼らない暮らしを実現する道もあります。

利活用が難しかった焼却場跡地に設置した太陽光発電所。
写真提供:自然電力

2050年のカーボンニュートラルに向かうこれからの10年、20年で、私たちが暮らす街の景色は大きく変わっていきそうです。

※4 JWPA HPより

※5 「わが国の再生可能エネルギーの導入ポテンシャル 」(2020年3月)環境省地球温暖化対策課調

※6 農林水産省HPより試算 

暮らしの展望4暮らしの展望4エネルギーの地産地消で地域経済が循環する未来

再生可能エネルギーの普及は、街の経済や仕事にも変化をもたらします。

「2018年の実績で、化石燃料の輸入に約5.7兆円が使われていますが、再生可能エネルギーの使用量が増加すれば、その分、化石燃料による発電が減り、燃料の輸入も減ります。同時に再生可能エネルギー発電所の建設・運営にかかるお金が地域で使われます。海外に流出する化石燃料費は、使えばそれきりですが、地域内で使われたお金は地域に住む人の収入になり、それが地域内の別の消費に使われることで、循環していきます。」

地域の電力会社を選ぶと地域のつながりが豊かになる エネルギーの地産 まちづくり事業 エネルギーの地消「地域でお金が循環する」「地域で雇用」

こうしたビジョンをもとに、自然電力株式会社は、長野県上高井郡にある小布施町と地元のケーブルテレビ会社の3者で地域エネルギー会社「ながの電力」を設立。地域の自然の恵みで発電した小水力発電所からの電力を地域内に届ける事業を始めました。

地域電力会社「ながの電力」の小水力発電機。
写真提供:自然電力

「地元の八十二銀行さんに融資いただき、工事も地元の会社に発注しました。まだ金額は小さいですが、このモデルの一部は実現し始めています。」

磯野さんはまた、再生可能エネルギー事業にお金の還流に留まらない価値を見ています。新しく社会的価値の高い仕事が生まれることで、主体的に未来を見据えて行動し、新しい風を吹き込める若者が地域に流入する「人材流入モデル」と呼ぶ価値です。

「自然電力は発電事業の売り上げの1%を地域還元する1% for communityという活動を通して、高校生向けの環境教育プログラムも実施しています。高校生に、自分の地域で再生可能エネルギーをどう展開させていけそうかを考えてもらう実践的な授業を行うと、気候変動を自分ごとと捉えている人が、われわれ世代と比べて如実に多いことを実感します。再生可能エネルギー事業は、彼らのような意識や感性が一歩先に行っている若者に必然性や創造性が高い魅力的な仕事として、世の中に広がっていくと思っています。」

若い世代の意識や感性でつくる次世代の価値観と、再生可能エネルギーの普及との両輪で未来をつくる。磯野さんのお話から、そんな希望を感じました。ここまでは再生可能エネルギーで変わっていく暮らしの風景を紹介しました。続いて、大和ハウス工業が取り組んだ、千葉県船橋市で始まった再生可能エネルギー100%のまちをお伝えします。

再生可能エネルギー100%のまちづくりのテクノロジー

2020年に入居が始まった「船橋グランオアシス」は、「施工」から「暮らし」までを、実質再生可能エネルギー100%で賄うまちづくり。約5.7ヘクタールの事業面積に立ち並ぶ分譲マンション・賃貸住宅・戸建住宅で暮らす859世帯が、敷地内に設置された太陽光発電と、岐阜県飛騨市の菅沼水力発電所で発電された電気など大和ハウスグループで発電した再生可能エネルギーを活用して暮らしています。

「船橋塚田プロジェクト(船橋グランオアシス)」(千葉県船橋市)

特に先進的なのは、屋根に太陽光発電パネルを載せた戸建住宅同士をマイクログリッドと呼ばれる超小規模送配電網で結び、発電した電気を余っている世帯から足りない世帯へと細かく融通しあうテクノロジーが搭載されていること。この技術が普及すると、蓄電池や水素貯蔵とは別のアプローチで、送配電網への負担を軽減することができます。

「住まわれている方はなにも気にすることなく、数軒のグループ内で発電量と電気の消費量のアップダウンを吸収しあって、太陽光発電で起こりがちな突発的な増減を起こしにくくするシステムを実装しました。地域単位で電力の地産地消がしやすくなるので、災害対策にも有効な技術です」と話すのは、大和ハウス工業の渡邊大吾です。

お話を聞いた方

渡邊大吾

大和ハウス工業株式会社
東京都市開発部企画統括部まちづくりグループ

マイクログリッドの普及は、磯野さんが話す「送配電網の制約」という課題の有効な解決策です。政府も後押しする新しい技術を、先陣を切って実現しています。

「国全体を再生可能エネルギー100%にするまでの道のりは遠いですが、地域単位、企業単位で積み上げていけば実現も見えてくる。政府には、より具体的な目標を掲げてほしいという思いもありますが、住む街を選んだり、弊社や大和ハウス工業さんのように、再生可能エネルギーで電気をつくりながら販売もしている会社から電気を買うなど、個人ができる選択もあります。」(磯野さん)

私たち一人一人の選択が、再生可能エネルギー100%への歩みそのものなのかもしれません。

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