秋葉淳一のトークセッション 第2回 イノベーションで創る物流の新たな可能性株式会社ROMS 代表取締役社長 前野 洋介 × 株式会社フレームワークス 会長 秋葉淳一
公開日:2024/11/29
スピードと柔軟性で勝つROMSの自動化戦略
秋葉:私が関わっている会社で「ピボット」という言葉を使う会社がもう1社あり、それは佐々木社長が率いるHacobuです。佐々木社長と会ったのは2015年頃です。最初に会った時、佐々木社長は鞄からデジタコ(デジタル式運行記録計)を出して私に見せました。デジタコの導入に補助金が出るので、デジタコはある意味チャンスではあったのですが、それが広まった後、「ではデジタコでどうするか」という話にどのみちなっていきます。佐々木社長はデジタコを入れる際に集まってきたデータを使って、ピボットさせていくイメージをもっていました。Hacobuの「運ぶを最適化する」という軸はぶらさないでどうしていくかという感覚は、前野社長に近い気がします。Hacobuはデジタコビジネスをどうするかが目的ではないし、ROMSさんも無人店舗が目的ではありませんよね。
前野:ピボットする時や何かを変える時、エンジニアメンバーがそれに適応できるかがキーポイントです。当社の場合、エンジニアリングのヘッドをしているメンバーが、基礎となる自動化の経験を相当持っていて、引き出しが多かったのが大きいです。秋葉さんがおっしゃるように、ROMSは無人店舗が目的の会社ではありません。自動化ソリューションをさまざまな領域にどう適用させていくか、それを以てより効率化させていくことをやりたいわけで、領域が物流であれば物流向けに合ったものを作ろうと、そのエンジニアのメンバーがすぐに賛同してやってくれたことは大きいですね。ピボットは、経営者がタイミングを見て一気に判断してパッとやることが大事ですが、一緒にやってくれるエンジニアがいるかどうかも大きなポイントだと、自分たちの経験から思います。
秋葉:私もさまざまなベンチャー企業とお付き合いしたり、大和ハウス工業のCVCファンドのアドバイザーとして関与したりしています。当たり前ですが、前野さんのようなトップの人間は、目的から外れることなく、柔軟に変革し続けなければいけません。それより重要なのは、一緒にいる主要なメンバーです。その人たちが継続して一緒に事業を続けられる会社かどうかが、私が見ている大きなポイントのひとつです。そこがころころ変わったり、キーだと思っていた人が抜けてしまったりするとそれ自体が怪しい。社長が外でいくら綺麗なことを言おうが、そこは難しいと私は思っています。前野さんの会社には、技術、営業にも良いメンバーが揃っていますね。
前野:全然違う世界から入ってきているメンバーもたくさんいて、この領域を変えていきたいとコミットしてくれているメンバーが揃っています。
秋葉:私が最初に平和島のラボに入った瞬間、衝撃を受けました。案内された物流施設側の扉を開けた瞬間にもう楽しくてしょうがないのです。よく見る自動倉庫のイメージとはまったく違っていて、これはいけると思いましたね。天高がきちんとコントロールできていて、クレーンがサクサク動いている。ステージをサクサク動かすためには高いシャトルを段ごとに入れて走らせるイメージなのに、そうじゃない。すごいなと思って裏に行くと、アームロボットが動いていました。
そこで、アームの動きが少しぎこちないと思って尋ねると、もともとは外部委託していたが、アームのコントローラの開発スピードが合わなかったので自分たちで開発しているということでした。スピード感が合わなければ、自分たちでできますと言って作ってしまう。画像解析もその時点である程度のレベルまで仕上がっていて、エンジニアの方に質問すると答えがぽんぽん返ってくる。これはあっという間に成長すると思いました。すごいメンバーが揃っている会社です。
前野:ROMSの良さのひとつだと思います。
秋葉:メンバーの方々に初めて会ってから、1年と少しの間に、自動化や物流のことをものすごく勉強されています。優秀な方々なので、これまでの自分が持っていた知識や技術で対応しようと思えばやれると思うんです。極端に言うと、2、3年でまた会社を変えることもできるポジションにいる方々ですし。前野さんがあえて説明させたりして勉強させているにせよ、すごいペースです。さらにお客様の言葉も聞き入れて真摯に対応しています。
最初から今のメンバーがいたわけではありませんので、会社のビジョンに共鳴される方が途中から増えてきたのでしょうか。
前野:やはりプロトタイプを作ったことが大きかったと思います。ポーランドメンバーとゼロから作った、プロトタイプである35m2のロボティクスコンビニエンスストアは約10カ月で作って展示しました。プロトタイプだから質が低いということは絶対に許せないと思っていたので、質にはこだわりました。有名なデザイナーの方に入ってもらいUIにもかなりこだわりました。今のメンバーはこのプロトタイプを見て、「これはクレイジーだ!これを10カ月で作ってここに入れるって頭おかしいんじゃない?」と驚いていました。その一員になりたいと思ってもらった、いかにクレイジーになるかというところに魅力を感じてもらったのだと思っています。
秋葉:クレイジーは褒め言葉ですからね。
スピードの話が出ましたが、企画して開発するまでどれくらいかかりますか。
前野:例えば、最新型のケース搬送AGV型自動倉庫「Nano-Stream(ナノ・ストリーム)」は2023年12月頃から構想を始めて、1月、2月にモデルのコンセプトが決まり、エンジニアチームでシミュレーターを回してもらって作れることが分かり、4月に売り出しというスケジュール感です。実導入は今年の12月、1月から始まります。構想設計から始めて実販売して導入まで、10カ月~12カ月ぐらいのサイクルで回しています。
一般的なマテハンメーカーと比較して、開発のタイムラインとコストを見ると、おそらく10分の1から20分の1ぐらいで済んでいるのではないでしょうか。他のマテハンメーカーで当社の製品のようなものを作るとしたら、最低でも2~3年はかかると思います。2~3年かかるものはやらないだろうと判断して、そこを狙いに行っています。
秋葉:そのスピード感はすごいですね。開発に数年以上かかるのならば、その間に新しい技術も出てくる可能性もあります。
前野:せっかくスタートアップに来るのですから、自分が主体的に作り、導入をして、一緒に改善してより良いものを求める。それを自分が当事者になってやるのは本来面白いことです。稟議やチェックに時間がかかり、会社のイメージやブランドの問題を考えなければいけないのは分かりますが、私からすると、それは「イノベーションのジレンマ」そのものです。自分たちのネームバリューに囚われて、新しいものを作ることができなくなってしまいます。だからこそ私たちのような会社はイノベーションのジレンマから逸脱して、イノベーションを起こすことに価値を見出すべきだと思っているので、そこに面白みを感じてもらいたいですね。特に今の日本の環境下では、当社のようなスタートアップが動かないと新しいものが生まれません。先日も、あるマテハンの会社様とお話した時、「次の新しいモデルや新製品の計画がない」とおっしゃっていました。海外製のものを持ってきて代理店販売のようなことをしているわけです。
秋葉:それだと、「ものづくり」を行うメーカーとは言えなくなってしまいますね。
前野:「自社で作ると開発に相当時間がかかってしまうので外から持ってくる」とおっしゃっていて、それって本当に楽しいのだろうかと。
秋葉:ソフトウェア業界でも同じで、それをやりだすと優秀なエンジニアが離れていきます。優秀なエンジニアが離れてしまうと、後で気づいて企画開発しようとしてもできないのです。
前野:おっしゃる通りです。新たなソリューションを作ろうとすれば、優秀なエンジニアが必要です。いなければ雇用しないといけない。しかし、新しいものを開発しないところには来てくれないですよね。そこも含めて当社は今ユニークなポジショニングを作っています。
秋葉:ROMSさんのソリューションの特徴は、導入期間が短く、なおかつ元々細かいものから始めて大きくしているので、言葉として適切ではないかもしれませんが、それぞれのモジュール化がきちんとされていることだと思っています。そのため、設置してから実稼働までの時間を大幅に短縮でき、なおかつ稼働させている間の交換部品のことまですべて考えられています。また、最終的に撤去や移設となった時を考慮しアンカーを30mmしか打っていないため、原状回復の費用が安く済み、早く出ることができます。ということは、床を借りている期間を、より長くお金を生む時間にできるわけです。お金を生んでいる間は無駄な保守費用をあまり払わず、適切な保守費用で済みます。
特徴のもうひとつはフレキシビリティの高さです。先ほど、真っさらな状態から企画開発するとしても、半年あれば売りに出しているというお話でした。例えば棚の高さを少し変えたい、組み合わせを変えたいといった話は企画開発ではないので、お客様の話を聞きながら、「じゃあこうしましょう」「シミュレーション回してみましょう」と言って普通に導入できてしまう。このフレキシビリティの高さは大きいですね。
コスト競争でも基本的には勝つと思います。パフォーマンスの話をすると、シャトルモデル(自動倉庫の搬送装置のひとつで、シャトル台車によって荷物の搬送や保管を行う)も作られていますが、基本的にクレーンモデル(自動倉庫の搬送装置のひとつで、スタッカークレーンによって荷物の搬送や保管を行う)という売り方をしていますよね。これは適切な判断だと思います。シャトルモデルは1台あたりの費用が高くて、フロアごとに入れるとそれだけですごい金額になるので、費用対効果を考えると巨大なジャングルジムを作らないとペイしません。それができる会社のほとんどはすでにオートストア(物流倉庫内に格子状に組まれたグリッドに格納された専用コンテナをロボットが搬送するシステム)などを入れていて、新規ではスカイポッド(物流倉庫内でピッキング作業を自動化するシステム)をどうしようという話をしているわけです。そのサイズは旧来の企業がやっています。そうではないお客様にとってどこが勝ちますかと言ったら、今のROMSのモデルが一番強い。簡単に拡張できるし、新しく発表されたNano-Streamはコンベヤも這わせなくていい。
前野:基本的に大規模倉庫はマテハンのお家芸です。
秋葉:ロボットではなくてマテハンですよね。
前野:私たちのようなベンチャーがあえて大規模にいくのであれば、よほど革新的なことをしない限り、普通に考えて規模の経済が働く大企業が勝ちます。そのような中であえて大型を志向しなければいけないシステムは打ち出さそうとはしないです。マーケットがそうなっていることももともと理解していますから。例えば、オートストアやスカイポッドがすでにある中で、あえて同じコンセプトでやる必要はないと思っています。
保管効率を優先しているお客様には迷わずオートストアをおすすめしています。ただ、そうすると、もっと搬送能力を出したい、もっとコンパクトに行きたいなどの要望が出てきます。
そう考えると、意外とコンパクトな小型、中型のニーズがたくさんあるわけです。大型を入れているところでも、小型、中型を志向されることもあります。大型を入れてきた大企業様にも、大型は入れられなかった中堅・中小企業様にも、ROMSの中・小型自動化システムのニーズはあると感じています。
顧客と共に創る物流の未来
秋葉:目の前にあるROMSの製品を見て使い方を限定するのではなく、「これをこうしたらこんなことができないか」という発想を持って、ROMSさんのチームと会話をしてくれたらとても面白いですね。お弁当用の製品が工場の工具入れや次の部品を入れる容器になるような発想です。
前野:私が平和島にラボを置いた理由もそこにあります。見てもらって着想を得てもらいたい。いろいろな会社の方々が実際に動いているものを見て、「これってこうできないの?」と言ってもらうことがすごく大事です。その話をしたうえで、私たちが「こうしたらいけるのではないか」と提案することに大きな価値があります。
新型モデルNano-Streamは、固定設備は棚のみで、クレーンは棚に取り付け、コンベヤをAGVに置き換えて、入出庫ステーションもAGVの経路の変更や追加をすることで簡単に増減できるシステムです。コンベヤをなくしてケース搬送AGVに変えたのも、大手3PLの方が平和島ラボにいらっしゃった時、「コンベヤがあると出口がそこに限定されてしまうので、出口のステーション1個だけになりますよね。繁忙期に合わせて出口を2個、3個に増やすことはできませんか」と言われたことから着想を得ました。
見ていただいて、ディスカッションしていく中で出てきたことが、実はわれわれにとって次のソリューションの糧になっているし、たくさんのヒントが隠されています。ですから、一緒に作っていくことがとても大事です。既製品をぽんと置くだけではこれからは難しいと思うのです。いろいろな場所でいろいろなやり方がある中で、既製品であり続けること自体があまり価値を生み出さなくなってきているのも事実です。そのような形でお客様に合わせたモデルに組み合わせていくことが、これからは必要になっていくと思っています。
秋葉:2015年頃からロボティクスの話が出てきて、それから10年近くが経ちます。物流に関わる人たちはいろいろなロボット、いろいろな導入事例を見たし、自分たちも検討しろと言われる中で、知識のレベルも上がってきました。そうすると、それまで海外から持ってきたものをそのまま入れたり、旧来からのものを導入したりしていたのが、だんだんと「こうしたいああしたい」「もうちょっとこうならないか」という会話ができるようになってきたと思うのです。
その時に会話できる相手としてROMSがいます。今Nano-Streamのお話が出ましたが、これを作るのに小さなAGVの開発も自分たちでされていますよね。どちらかというと今までは保管する側、仕分ける側にカテゴライズされていたROMSの事業領域が、この製品によって搬送系にも出てくる印象を受けました。ただし搬送もさまざまなので、どうしていくかというのは当然あるでしょうけど、すごく面白いと思いました。
前野:物流領域に入ってまだ1年くらいなので、やはり大和ハウス工業さんやフレームワークさんのような会社、物流でやってきて、物流を理解している方々と手を組みながら、どのようなことができるか考えるのはとても大事だと考えています。メンバーにも言っていることなのですが、謙虚に何でも聞いて、分からないことは分からないとはっきり言う。いろいろ聞いたうえで、どういうものを作ったほうがいいのか、入れたほうがいいのか、どこにアクセスしたらいいのかというところを最速で切り開いていく。そうしないと時間がなくなってしまいます。限られた時間の中でいかに最大限の効果を発揮するかを考えると、何でもいいからいろいろな人を頼って、いろいろなやり方をしたほうがいい。そのお願いをする相手として誰が最適か考えた時、秋葉さんや大和ハウス工業の方々と話したほうが早いと思いました。そこが一番大きいポイントだと思います。