CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(17)ノンリコースローンについて
公開日:2018/08/30
不動産証券化は、主にSPC(特別目的会社)を設立して実行しますが、設立当初は資金が不足しているので、事業を開始するための軍資金を集める必要があります。SPCはできるだけコストをかけずに有利な条件で資金を調達しようとします。今回はその資金調達手段の一つである「ノンリコースローン」を取り上げます。
遡及しない融資?
ノンリコースローンの「リコース」は、「遡及する」という意味です。過去のある時点までさかのぼって、法律や条件を適用したり当てはめたりすること。ここではローン(融資)に係わっているため、否定の接頭語である「ノン」を付ければ「遡らない融資」の意味になります。しかし、これでは何のことかわかりません。
わが国では通常、銀行融資は差し出した担保を売却しても返済金が残っていれば、返済は終わりません。完済するまで返済を迫られます。こうした形の貸付方法は「リコースローン」といいます。遡及する融資です。つまり、通常のローンは、借りた人や会社の全財産が返済の原資になっているのです。これに対して「ノンリコースローン」は、返済原資を限定しています。不動産証券化における「ノンリコースローン」は、SPCを設立する際の出資金やオリジネーターの保有する不動産を購入するための代金を調達する際に利用されます。
ノンリコースローンの仕組み
SPCの独立性を認めるローン
不動産証券化は、オリジネーターの財務状況にかかわらず、保有不動産の価値が生み出す収益に着目した金融手段です。SPCは銀行などの金融機関とノンリコースローン契約を結びますが、銀行はSPCが万が一倒産しても、そのリスクをオリジネーターに負担するよう要求する( 遡及する)ことはできません。このことからわかるように、ノンリコースローンは対象となる不動産(モノ)に対する融資、SPCを借り入れ主体とした不動産証券化という「仕組み」に対する貸付と解釈できます。ノンリコースローンが「仕組み金融」(ストラクチャードファイナンス)の一つといわれるのは、こうした性質があるからです。
ノンリコースローンはSPCの存在を認めることで成り立っている金融ツール、と言い換えることもできるでしょう。しかしSPCの独立性が前提になっている融資ですが、同時に一定の制約も受けます。ノンリコースローンを受けている期間中は、借入先銀行の同意がないままに解散することはできませんし、不動産の管理方式を勝手に変更することはできません。このため、SPCの役員は借入先に対して(SPCの)倒産を申し立てないという誓約書の提出を求められます。これは、SPCがリスクを負わないようにするための倒産隔離策の一環です。
また、銀行などの借入先はSPCに対して融資を行う際に、一定の条件を付けます。モニタリングをするために決算書を毎期ごとに提出してもらったり、純資産を一定額は保持するよう求めたりします。こうした財務上の制限条項を「コベナンツ(Covenants)」といいます。コベナンツは契約する、誓うという意味です。
ノンリコースローンのメリットとデメリット
ノンリコースローンは、不動産という「モノ」に対する融資で、結果的にSPCを通じて資金を調達したいオリジネーターにとっても、財務状況に左右されることがないので、実現可能性の高い資金調達手段といえます。また万が一、融資対象で担保である不動産の価値が下がり収益性が低下した場合でも、追加の返済は発生しないメリットがあります。つまり、残債がある状態の「オーバーローン」にはならないというわけです。反面、ノンリコースローンは返済原資を限定するので、対象となる不動産の価値を算定する目は厳しくなる点がデメリットです。物件に対するデューデリジェンス(資産査定)によって、金利は高くも低くもなります。銀行サイドから見れば、返済原資は物件の収益力にあるわけですから、当然です。一般的に、ノンリコースローンはリコースローンと比較して金利は割高でしょう。
リーマン・ショックの引き金にもなった
不動産証券化が今後拡大・発展していくためには、ノンリコースローンの普及が欠かせないでしょう。それは、証券化が不動産の価値に着目して実行される資金の運用・調達手段であり、ノンリコースローンは証券化の特性を最大限に生かした融資商品だからです。近年、メガバンクなど大手の銀行は、貸付先の減少に苦しんでいますが、その解決策の一環としてノンリコースローンをはじめ「仕組み金融」(ストラクチャードファイナンス)を個人分野にまで広げてきています。
ただ、ノンリコースローンは適切に扱わなければなりません。それは、過去に苦い経験を味わっているからです。2008 年に起きたリーマン・ショックは、米国のサブプライムローンが発端でした。低所得者用の住宅ローンであるサブプライムローンは回収リスクが高いため、高いローン金利でした。仮に返済できなくても、担保になっている土地の価格が上がれば返済可能だとして売り出されたのが、サブプライムローンです。
この高金利のサブプライムローンの債権を担保にして証券化されたのが資産担保証券で、CMBS(Commercial Mortgage BackedSecurities=商業不動産担保証券)といわれるものでした。つまり、サブプライムローンは一種のノンリコースローンであり、ノンリコースローンをファンド化した証券化商品がCMBSなのです。
CMBSはそこから次々と錬金術のように、サブプライムローンで担保になっていた土地を媒介として重層的に新たなCMBSを作り出し、最後には商品の担保が迷路のように複雑に入り混じって債権債務関係が修復不能になり、紙くずと化しました。CMBSはリーマン・ショック以降、現在ではほとんど姿を消しているといわれますが、ノンリコースローンも乱発して不動産市場を混乱に陥れることのないよう、適切な運用が求められます。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由