CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(18)デュー・デリジェンス
公開日:2018/09/28
不動産証券化は、不動産が生み出す経済的な価値を前提とした金融手段です。それだけに不動産自体をあらゆる角度から的確に調査することが不可欠。今回は、こうした調査を指すデュー・デリジェンスについて考えてみます。
90年代後半から注目を浴びたデューデリ
デュー(due)は「適正な」「正当な」、デリジェンス(diligence)は「努力」「精査」という意味です。デュー・デリジェンスは、直訳すれば「適正評価」となるでしょうか。資産査定という場合もあります。略して「デューデリ」、頭文字を取って「DD」(ディーディー)と呼ぶこともあるようです。不動産証券化では、投資対象となる不動産物件が証券化の実行期間(受益権の発行から償還まで)の間に生み出すキャッシュフロー(賃貸収入などからの収益と、証券化が終了して不動産を売却するときの処分価格)を予測して不動産価格を決定します。つまり、将来の価値予測をして現在価格を決めるわけです。こうした調査をデュー・デリジェンスと呼んでいます。現在では不動産だけでなく企業の買収(M&A)や合併などにおいて、買収価格を決めるために、対象となる企業の価値を詳細に調査することもデュー・デリジェンスといいます。
わが国では1998年、銀行の不良債権処理のために当時の橋本龍太郎内閣が実施した金融政策「金融再生トータルプラン」の中で、デュー・デリジェンスを不良債権処理のための適正評価手続きと訳したのが始まりともいわれています。当時、大手銀行は土地などの不動産を担保に取って巨額の融資をしていましたが、その後のバブル崩壊で地価が下落して担保不動産付きの融資が不良債権化したため、担保対象の土地・不動産を早期に売却して不良債権を減らす必要がありました。デュー・デリジェンスは銀行が保有する不動産の詳細な情報を明らかにし、早期に不動産を売却する必要があったことから登場したのです。
デュー・デリジェンスが登場した背景には、不良債権処理が進む中で外国人投資家の存在感が高まったことも挙げられます。日本では売買契約を結ぶ前に不動産取引の専門家である宅建業者(仲介業者)が不動産における重要事項を調査し、契約の当事者である買い主に詳細な説明を行いますが、米国などでは売買契約を締結した後、一定期間内に買い手がデュー・デリジェンスを実施し、その調査結果によっては契約破棄や価格見直しが行われる場合があります。
デューデリは3つに大別、物理的調査をエンジニアリング・レポートという
デュー・デリジェンスには、大きく分けると3つの調査項目があります。物理的調査と法的調査、経済的調査です。このうち物理的調査はエンジニアリング・レポート(ER)と呼ばれています。
デュー・デリジェンスは3つに別けられる
物理的調査は、土地や建物および環境の状況調査を行います。所在地や地番、地積の調査や隣地との境界はどうなっているのか。土地の下に埋蔵品などの文化財がないかどうか。地質・地盤も調べます。建物の調査も大事です。修繕する場合、費用はいくらかかるのか、建築基準など法令に違反していないかどうか。環境調査は近年最も重要な項目です。アスベストなど有害といわれる物質を含んでいないかどうか。土地や地下水の汚染可能性はないのか、神経を使うところです。法的調査は、権利関係や賃貸借契約の内容、売買契約書のチェック。経済的調査は、市場調査と不動産経営調査を行います。市場調査は不動産市場の詳細調査、不動産経営調査は賃貸収入と運営支出に関する調査の2本立てです。
デュー・デリジェンスは、証券化の過程においては主に発行主体で買主であるSPC(特別目的会社)が実施します。SPCが取得する証券化の対象不動産は、不動産鑑定士による評価が義務付けられていますが、その不動産の収益性を検証する役割を果たすのが、デュー・デリジェンスです。デュー・デリジェンスは広範な調査ですので、専門家の力が不可欠です。不動産鑑定士はもちろん、建築士や弁護士、公認会計士、税理士、環境コンサルタントなどが連携して実施していくことになります。
デューデリそのものがビジネス化している
近年は、少子高齢化や景気の停滞など経済・社会構造の変化により、企業の合併再編が相次いでいます。また新たな事業に着手するための近道として、自ら事業を一から始めるのではなく、その事業を展開している企業を買収(M&A)することが増加しています。こうした動きが加速するにつれて、企業価値を客観的かつ総合的に決めるデュー・デリジェンスは、それ自体が事業として急成長しています。
大手や中堅のゼネコンでは建築診断を新たな事業として位置付けており、これをデュー・デリジェンスと呼ぶことも増えてきました。もともと建設業界では建物の物理的調査であるエンジニアリング・レポートを昔から手掛けていました。また、企業の合併・買収という側面では銀行・証券などの金融機関、法律事務所や経営コンサルタント会社などもデューデリの担い手といえるでしょう。 デュー・デリジェンスは、不動産証券化においては対象物件の内容に関する詳細な情報開示(ディスクロージャー)です。証券化ビジネスが健全な市場として多くの投資家に支持されていくために、より良い情報開示を心掛けていくことが必要です。それだけに、不動産証券化の世界では、デュー・デリジェンスの重要性はますます高まっていくのではないでしょうか。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由