CREコラム
今さら聞けない「不動産証券化」(21)出口戦略について
公開日:2018/12/25
不動産証券化は期間を定めて実行しますので、終了するときが来ます。その際に行う資金調達戦略を出口戦略と言います。
投下資本を最大限に回収すること
出口戦略(ExitStrategy)は本来、軍事用語で、戦局が不利な状況にあるとき、被害を最小限に抑えて撤退する方法を検討すること。米国防省がベトナム戦争時に使ったのが始まりとされています。転じて、経営の世界では低迷する市場からの撤退や、経営不振に陥ったときに経済的な損失を最小限に抑えて撤退する戦略を立案する際に使われます。
出口戦略を最もよく使う領域は金融政策。景気低迷の局面では、公共事業を増やす財政支出策を実施したり、経済を活性化させるために企業が設備投資に使う資金を低利で借りられるよう低金利政策を打ち出します。こうした政策が奏功して景気が戻ると、今度は低金利のままでは証券市場が停滞するなど不都合が生じるので、以前の状態に戻すために低金利政策は解除される方向に向かいます。こうした金融緩和策を終了させることを出口戦略と呼んでいます。
不動産証券化は期限を決めて行う「有期」の資金調達手段ですから、証券化の終了時には、SPC(特別目的会社)は証券化が終了すれば清算され、証券化に要した負債を返済するために資金を調達することになります。その手段としては、証券化の対象になっている不動産を売却したり、もう一度資金調達して(リファイナンス)証券化を継続したりする方法などがあります。こうした施策を不動産証券化における「出口戦略」と呼んでいます。出口、という言葉は最終局面を想像しがちですが、対象となる不動産を証券化する時点で有利な売却先をあらかじめ見込んでおいて、証券化の期間中に売却する場合もあります。
不動産売却はディスポジションとも呼ばれる
不動産証券化が終われば、投資家に出資金を償還するため最終的に証券化した不動産を売却処分し、残額は投資家に運用益として分配します。こうした業務はディスポジション(処分)と呼ばれています。
ディスポジションには、保有不動産を売却して最大限の価値を実現するための市場調査が欠かせません。そのためには、売却のタイミングなど日ごろから不動産売買のマーケット動向を注視しておかなくてはいけません。売りたくても買い手が見つからなければ、取引は成立しません。こうした一連の業務は、資産運用会社(アセットマネジメント会社)の主要業務でもあります。
J-REITや私募ファンドへの売却が一般的
不動産の売却先として有力なのは、J-REITといわれています。投資用不動産の売買市場では最大級であり、上場銘柄は2018年11月現在61。時価総額は13兆円を超える巨大市場に成長しています。J-REITには証券化の終了期間が設定されていないので、出口戦略はありません。したがって、J-REITは不動産の追加組み入れのために随時、売却不動産を探している状態にあるといえるのではないでしょうか。またJ-REITは現在のところ、対象不動産の開発(建て替え)は認められていません。したがって、老朽化した物件を売却することがJ-REITの出口戦略といえるかもしれません。
J-REITに匹敵する売却市場は、不動産の私募ファンド(プライベートファンド)でしょう。少数の機関投資家が資金を出して組成した不動産私募ファンドは、ある研究所の調査によれば、2018年6月末時点の市場規模が運用資産額ベースで16.9兆円とJ-REITの時価総額を上回ります。
証券化が終了したのちに改めて資金調達を行うことを、リファイナンスと言います。保有する不動産を証券化してオフバランス化する資産流動化型の証券化では、保有不動産に対する融資であるノンリコースローンの返済や、CMBS(商業用不動産担保証券)の償還資金として再度の資金調達を実施することがあります。
不動産証券化は、「入口」と「出口」が接近している
不動産投資においては、不動産を購入することが「入口」であり、売却することが「出口」です。不動産証券化は、保有不動産を流動化する資産流動化型と、調達した資金で不動産を購入して証券化する資産運用型の2つのパターンがあります。資産流動化型の場合は、本来の不動産の所有者であるオリジネータが買い戻すことも考えられます。
不動産証券化は有期の証券化ですので、売却時期が必ずやってきます。物件をいつ、どのように売却すれば最大級の利益が上がるか。証券化の出口戦略は、通常の不動産投資における出口戦略と変わることはありません。もっと広く捉えれば、投資そのものに入口と出口があると考えることができます。
証券化においても、不動産売却のタイミングは難しいものがあります。証券化が終了したとき、不動産を市場で売却して資金を回収し、金融機関に対する債務(デット)を返済することが重要になります。不動産はJ-REITや私募ファンド市場など大きな市場がありますが、それでも株式や債券のようにすぐに売れる流動性の高いマーケットとは違います。売却できるまでには通常、1年から2年程度の期間を必要とするものです。そのために、証券化を実施する前からめぼしい売却先を見込んでおくという先見性が求められるのです。その意味で、不動産証券化では入口と出口が接近している、といえるのではないでしょうか。
今さら聞けない「不動産証券化」
- (1) 証券化は、こうして始まった
- (2) ABSは証券化の代表選手
- (3) 不動産証券化のメリットとデメリット
- (4) Jリートとはなにか?
- (5) 広がる証券化ビジネス
- (6) なぜ不動産証券化が登場したのか
- (7) 不動産証券化の歴史(1)
- (8) 不動産証券化の歴史(2)
- (9) 不動産証券化の歴史(3)
- (10)資金調達、運用、そして新しいビジネス
- (11)3つのタイプの不動産証券化
- (12)不動産証券化には、どのようなプレーヤーが存在するか
- (13)不動産証券化における資金調達
- (14)倒産隔離と真正売買
- (15)二重課税の回避
- (16)信用補完について
- (17)ノンリコースローンについて
- (18)デュー・デリジェンス
- (19)格付けについて
- (20)利益相反について
- (21)出口戦略について
- (22)セール・アンド・リースバックについて
- (23)不動産鑑定評価について
- (24)不動産証券化に「信託」が利用される理由