CREコラム
不動産テック入門(12)「マッチング」
公開日:2020/07/30
不動産は「建てる」「売買する」「貸借する」など多くの仕事が発生する裾野の広い業種で、そこには数多くの専門家(業者)が携わっています。不動産テックでは、こうした専門人材と顧客を結び付ける多様な業務が登場しています。
オークションから直接取引まで売買方式が多様化
不動産テックのマッチング領域では売買サイトが目立ちます。不動産の売買はこれまで、不動産仲介の専門業者が売り手と買い手の間に入って取引を仲介するのが一般的でした。不動産の仲介は、複数の業者に依頼する「一般媒介」、1社の仲介業者に依頼する「専任媒介」「専属専任媒介」がありますが、しかしインターネットが普及するにつれ、一般媒介はポータルサイトを経由してより多くの依頼ができるようになりました。
専用のポータルサイトが胴元になり、不動産仲介業者を集めてオークション形式で入札を行い、売り主との交渉に入る仕組みを展開しているテック企業があります。入札に参加する仲介業者にはオークションを開催するサイトがIDとパスワードを発行し情報の漏洩を防止しています。仮にオークションが成立しなかった場合、オークション開催サイトが不動産会社に営業をかけて物件売却します。
売り主と買い主を直接結び付けるサイトもあります。物件のオーナーが大手のインターネットポータルサイト系列の不動産サイトに物件情報を掲載し、購入希望者が見学の予約や問い合わせをすることでマッチングが成立します。手数料はかかりません。このサービスのメリットは、所有している物件をオーナーが自ら売り込むことができる点にあります。売却価格を自由に設定でき、物件の画像やPRのコメントもオリジナルなものにできます。
ただ、そうはいっても不動産売買はプロの仕事。売却時にはサイトが指定する専門業者と専任媒介契約を結んで交渉を代行してもらうことになります。また、売却価格もサイトが提携している大手の不動産会社に無料査定してもらうことができます。
出退店ニーズを引き合わせる
流通・小売業界の新規出店では、立地が生命線。採算の取れる好立地をいち早く見つけて新店を開設し、早期に軌道に乗せることが求められます。開店後1年を経過した店舗は既存店として括られ、企業業績の土台を形成していきます。
しかし不採算店舗は必ず出てきます。スクラップビルドを繰り返し、店舗活性化を図るには出退店の見極めが重要です。そこで近年注目されているのが、出店テナントと退店テナントをマッチングさせるサイト。どの企業もいち早く他社に先んじて好物件を手にしたいので、こうしたサービスの多くはクローズ型サイトで会員制になっています。
図1:スクラップ&ビルドの流通・小売業界で威力発揮
こうしたサイトが登場したのは、競合他社に知られずに物件探しをしたいとのニーズがもともと高かったからです。このサービスを国内で初めて開始した不動産会社は、流通大手の店舗管理をしていた経験からこのサービスのアイデアを発想したともいわれています。手数料は成功報酬で月額基本料金(50万円~)のほか、出店サイトは家賃の1か月分支払い、退店テナントはキャッシュバックがあります。
出退店マッチングの「居抜き物件」バージョンも登場しています。これは主にオフィスの入居希望企業と退居希望の会社を引き合わせるサービス。入居サイドは設備や備品がそのまま残っているので入居時のコストが軽減できます。退去したい会社は原状回復のための費用が少なく済むので、こちらも退去コストが低減可能です。
プロを探す 業務支援もOK
住居建築やオフィス内装では建築業者の効力なしには実現不可能です。大工や塗装、配管工、親方、工事会社など多くのプロが参集します。これは見方を変えるとそれぞれが独立して存在しているともいえます。大工などの職人を社員として抱えるところもありますが、塗装工や配管工などは工事案件ごとに親方から招集されて現場に向かいます。
こうした動きに威力を発揮するのがマッチングサイト。親方はこうした職人たちに声をかけて仕事をしてきましたが、不動産テックではその人集めを代行するだけでなく、職人への日当をマッチングサイトが立て替えることで相互の関係を構築していることに特徴があります。職人たちはサイトに登録することで自己PRができ、収入増に繋がります。
図2:専門業者サイトも活況
物件のメンテナンスを代行する業者のマッチングサイトもあります。賃貸物件であるアパートや戸建て住宅マンションの清掃や除草、配水管の洗浄さらには賃貸物件のサイト広告業務の支援など、不動産管理と賃貸業務の支援を行うマッチングサイトは今後の需要の高まりが予想されます。
賃貸物件のサイトなどでは、募集している広告の更新は面倒な仕事のひとつ。成約すればその広告は削除して消し込む作業が必要になりますが、忘れがちになることも。故意に更新しないところもありますが、こうした業務を代行してくれる会社は重宝です。またサイトにアップしたと勘違いして掲載し忘れたということも少なくありません。サイトに掲載する物件の図面制作も素人では厳しいものがあります。こうした、不動産業としては派生的な業務を代行するテック企業のサービスは、インターネット広告に消極的だった街中の不動産屋さんにとって朗報ではないでしょうか。