続・建設工事費は近年どれくらい上昇しているのか?新型コロナウイルスの影響は?
公開日:2020/11/30
2018年8月に、本サイトで「建設工事費は、どれくらい上昇しているのか?」について紹介させていただいたところ、多くの方々にお読みいただきました。土地活用を行うオーナー様や業界関係者の方々の関心の高さがうかがえます。現在のコロナ禍において、状況はどのように変化したのか、本稿では、それ以降の「建設工事費はどうなっているのか?」について考察してみます。
全国に広がる再開発。オリンピック関連建設は一段落
近年、東京都心に加えて地方都市での再開発も盛んになりました。東京都心の再開発は、東京オリンピック開催決定が一つのトリガーになったようですが、地方都市の再開発も福岡天神エリアや札幌などでも行われています。それに引っ張られるように、ここ数年の公示地価や基準地価の推移を見てみると、大都市部よりも地方中心都市の方が上昇率は大きくなっています。
東京都心では、品川や高輪(泉岳寺)周辺、八重洲周辺、麻布台周辺などは、まだまだこれからという段階ですが、渋谷エリアや虎ノ門エリアでは再開発がかなり進んでいます。オリンピック関連建設に加えて、こうした状況が続いているため、近年建設工事費の上昇は続いていました。
工事費デフレーターの推移
建設工事費については、「工事費デフレーター」のデータを見るのが分かりやすいと思います。工事費デフレーターについての解説は、コラム「建設工事費は、どれくらい上昇しているのか?」に詳しく書きましたので、こちらをご覧いただきたいと思います。
図:工事費デフレーターの推移(2011年度基準)
国土交通省発表資料より作成
図は、2008年からの工事費デフレーターの推移を示しています。(注:国土交通省発表に基づいて、2011年度を基準としています。)
これをみると、2011年には東日本大震災の復興工事需要が高まり工事費が上昇しました。その後、東京オリンピック開催決定を受けて、オリンピック関連施設の建設が決まり、工事が一気に増え、それに伴い人件費の高騰、鋼材等原価の上昇と相まって、2013年以降は右肩上がりで上昇しました(赤い矢印)。2019年年度中にはこうした特需も落ち着きを見せて、2020年に入り工事費上昇は横ばい~やや上昇に留まっています(緑の矢印)。
建設工事費の現状。現場の声は?
では、新型コロナウイルスの影響はどうだったのでしょうか?
工事費デフレーターの数字だけをみると、2020年4月以降わずかに減少した月もありますが、概ね横ばいといった状況です。
現場の声を聞いてみると、新型コロナウイルスによる、数字には見えない影響は少なからずあるようです。
大手ゼネコン関係者に聞いてみると、「実際の工事原価は、このところ横ばい~微増という感じだが、発注側(注:デベロッパー等)からのプレッシャーは強くなっている。他の大手ゼネコンとの会話のなかでも同様の声が聞こえる」ということのようです。
特に新規オフィスビルや商業施設などでは、新型コロナウイルスの影響により空室の確率が高くなり、それにともない想定利回りが悪くなる見込みになっています。こうした状況はしばらく続くと予測され、短期的には回復が見込めないために、「なんとか企画段階の利回りを維持するためにも、工事費を下げられないか」という声が出ているようです。
しかし、現実的には、労働力不足や建築資材価格の背景が考慮され、工事原価は、横ばい~微増にとどまっていると思われます。
この先の見通し
さて、この先の工事費の見通しですが、建設工事需要は都市部、地方都市ともしばらく高止まりが続きそうです。2025年~27年頃までの計画は既に発表されているものも多いため、景気が大幅に悪化することは予想しにくく、計画通りに進むものと思われます。これまで述べたような状況から考えると、しばらくは横ばい~微増で推移するものと思われます。新型コロナウイルスの影響は多少残るかもしれませんが、ワクチンの開発が進んでいることや投資マネーが活発に動いている現状を考えると、工事費にそれほど大きな影響はないものと思われます。