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建築家と住識者の「いい家つくろう会議」vol.2-3人の本質に合わせた、
生活機能の研究が重要な課題。

建築家 木村文雄教授をホストに、
様々な業界の第一人者と「いい家づくり」について語り合うトークセッション。
vol.2の最終回となる今回は、建築家と医師としてのそれぞれの視点から、
人が快適に暮らしていくための機能や考え方について梶本修身先生と意見を交わしました。

眠ることが脳を回復させる一番の方法

木村 文雄(以下、木村):梶本先生のお話の中に、脳を休息させるという話題がありましたが、実際に脳を回復させようと思ったら、何をすればいいのでしょうか。

梶本 修身(以下、梶本):それはすごく簡単で、眠ることが脳を回復させる一番の方法です。でも、最近では自宅での生活が長くなって、睡眠の質が落ちてきていると私は思っています。

木村:そうなんですか。家にいるのが長くなると、おのずと睡眠も多く取れそうですが。

梶本:一番大きいのは生活リズムの変化です。簡単なところでいうと、首都圏で働く人が往復で2時間は通勤に使っていたとしましょう。これがなくなるのですから、余った時間を何に使うかというと、例えば映画鑑賞やネットサーフィンだったりするわけです。

梶本:これまで6時に起きていたものが、7時や8時でもよくなりました。夜も比較的早く寝ていたのが、深夜まで起きるようになる。そうすると、生活のリズムが変わってくるので、睡眠習慣の時間と質が変わってきているんです。家にいると人の活動量も減りますから、寝つきが悪くなるということもありますね。

木村:なるほど。ずっと過ごしてきたリズムや習慣が、実はとても大事だったんですね。では、梶本先生ご自身が、睡眠で気をつけていることなどがあれば教えてもらっていいですか。

梶本:それが、私自身が睡眠には雑な方でして…(笑)。仕事で就寝時刻が変わることも多いですから。でも、入浴から入眠までのルーティンは変えないようにしています。入眠まで寝つきが悪い方は自律神経が疲れているあるいは交感神経が緊張していることが原因なので、本を読んだりストレッチをしたり「入眠儀式」と言われるような寝る前のルーティーンを確立して、毎日、同じようにしっかり行うことをお勧めします。人は同じ作業をくり返すことで安心を感じますから。自律神経の働きをうまく助けてあげれば睡眠も変わると思います。

木村:私も仕事の関係で、あっちこっちで寝泊まりしているので、睡眠の質はそれほどいい方ではありませんね。自分の家の寝室で安心して眠れるというのが大事ということをいつも実感しています。

梶本:あと、住環境的には「頭寒足熱」が理想です。部屋は涼しく布団は暖かくというものですが、布団の中は暖かくして、脳は深部体温を下げると、代謝が下がって脳を休めることができるんです。夏もエアコンで部屋の温度を下げながら、冬の布団で寝るのが熟睡できるんですよ。

木村:それは面白い。一般的に寝室はプランニングの最後の方になることが多いんですよ。寝室の位置は道路から離すとか、パブリックなスペースの近くに設けないとか、基本的な考え方はあるのですが、これからの時代は眠ることにもっと向き合って考えないといけませんね。

梶本:先生もご存じだと思いますが、最近は寝室の新しい知見がたくさん出てきていますね。入眠前にはメラトニンという物質が体内でつくられるんですが、照明の光の照度と色味がこの生成に影響するので、間接照明を使って夕焼け照明というような優しい光をつくるのがいいという話もあります。

木村:あと考えたいのは、中途覚醒の時間。高齢になると寝ている間にトイレに行くことが増えますが、その時にもう一度入眠しやすいかどうかが大事なんです。まぶしい光が入ると目が覚めるので、足元に常夜灯を配置するとか、目に優しい有機ELを利用するのもいいと思います。

梶本:できれば、寝室のカーテンは100%遮光にしてほしいですね。あと、私は太陽の光で起きることを推奨しているのですが、自動で少しずつ開いていくカーテンがあるんですけど、それを機能性住宅の基本性能として取り入れてくれたらうれしいですね。

眠りの質にこだわった心地よく開放的なベッドルーム。一人がけの椅子などを用意すれば、就寝前のルーティンにも便利。カーテンは上下開閉で、自動で少しずつ開閉する。

木村:寝室のクオリティは、まだ一歩も二歩も前進できそうですよね。やれることはまだまだあると思います。実際に、若い時はどこでも、どうやっても眠れますから(笑)。40歳を超えてからは本当に大事で、住環境ももちろんですが、個人としても睡眠の質を高めてほしいですね。

生きるための意味のある設計デザインが、これからは大切

木村:先生の朝の光で起きるというのは、私もとてもいいことだと思います。自然界の「揺らぎ」を利用できればいいですが、有機ELを使えば人工的な「揺らぎ」もできますし、両方をミックスすることもできます。私としては山形大学のスマート未来ハウスで実験を重ねていこうと考えていて、効果的なエビデンスをどんどんとっていけたらと思っています。

梶本:人の五感にいかにタッチしていくかという課題ですよね。自動車メーカーなどでもその研究はしていて、どう車内環境をコントロールすれば事故が減少するかを追究されています。「事故が減る=疲れを少なくする」という考え方で車内温度や湿度、風を揺るがせるのですが、変化を与えた方が集中力が持続するという結果が出ています。

木村:いろいろな企業や研究機関が取り組んでいるんですね。先生のホワイトノイズの話や、先ほどの自動開閉のカーテンなど、人の過ごす環境はまだまだ進化しそうですね。

梶本:そうですね。でも、住まいの環境と五感がリンクするとなるとまだまだ開発分野です。人体や脳、空間まで考えると、ものすごく課題が多いと思います。

木村:そんな幅広い知見を持っている梶本先生は、どんな家に住みたいと考えているのですか。

梶本:う~ん、広すぎるのも落ち着かないですし、窮屈なのも避けたい感じですね。パーソナルスペースってあるじゃないですか。もちろん人によって変わるものなんですけど、ちょうどいい心地よい広さに住みたいです。その空間に合わせて、天井の高さも考えたいですし、全体を含めたプロポーションが大事かなぁ。

木村:これから住まいはどう変わっていくんでしょうね。時代が変わるにつれて想像もしなかったことが起きるので、その時々のニーズに合わせた臨機応変な設計が必要ですよね。

梶本:私としては、豪華さを競っていた時代から機能性を競う時代に変わってきたと思っています。車も開発当初は大きさを競っていましたが、今はむしろ機能ですから。家も大きさも大事ですが、機能を優先できる大きさにするのがいいと思います。

木村:確かに温度や湿度をコントロールすることなどは重要ですね。結露やカビなどはそのまま健康に関わりますからね。「揺らぎ」などでも話をしましたが、内部空間と外部空間の中間領域をうまくつくることが重要なポイントになると私は思っています。あとは梶本先生のような医学分野の方とコラボレーションして、デザインだけではなく、生きるための意味のある設計デザインを考えていきたいですね。

「揺らぎ」を住まいに取り入れるためには、内と外の中間領域をつくるのがポイント。室内の延長であり、屋外と融合したスペースは、四季の移ろいや日差し、空気の揺らぎを室内に招く。

梶本:そうですね。最近はモニタリングの技術が進んでいるので、これまでとは違った面からアプローチできると思います。IT技術を活用しながら居住者の状態をモニタリングして、人にとっての理想的な環境とはどういうものなんだろう、ということを私はもっと知りたいですね。

木村:家の質もまだまだ変わっていきそうですね。

梶本:人って実は高齢になるほど快適だと思える環境の幅が狭くなるんです。若い時はある程度幅があって、上下で4、5度温度が違ってもあまり問題になりません。でも、高齢者だと少し温度が外れただけで、熱中症になったり風邪をひいたりしてしまいます。理想的な環境を研究していくと、人の状態によって異なるので、理想はないんじゃないかという答えに至っています(笑)。

木村:かなり難しい話になってきましたね(笑)。家はその人その人に合わせた本質的なところを大事にすることが必要ということですね。やっぱり、先生のような医学的な考えを持つ方が家の設計を変えていくと思うので、これからもぜひコラボレーションさせてください。今回はありがとうございました。

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