「これから家を建てるのに、その先のリフォームのことまでは考えられない…」
と感じる方は多いかもしれません。
しかし、家を建ててから数十年たてば、子どもは巣立ち、夫婦も年齢を重ねて、
今とはずいぶん異なる立場や環境に身を置いていることでしょう。
予想もつかない人生イベントを乗り越えた先には、
何らかのリフォームを行う必要性が生じているかもしれません。
今回は、設計のプロである大和ハウス工業設計士の石 隆幸と、
数多くのリフォームの現場に立ち会ってきた
大和ハウスリフォームの笹原 恵が「将来のリフォームを想定して、
新築時にやっておくべきこと」をテーマにお話しします。
後から「こうしておけばリフォームがしやすかったのに…」とならないよう、
新築時に気をつけておくべきポイントを解説します。
Profile
大和ハウス工業株式会社 東京本社 住宅事業本部 東日本住宅設計室一課
一級建築士、一級造園施工管理技士、一級建築施工管理技士
石 隆幸
大和ハウスリフォーム株式会社 西日本支社 堺営業所 設計課
二級建築士 インテリアコーディネーター
笹原 恵
「子どもが独立した」「介護を見据えて」…。
先輩オーナーのリフォーム理由とは?
家は建ててから何十年も住み続けていくもの。その間、家族構成やライフスタイルの変化などでリフォームの必要性が生じるケースがあります。
「築20〜30年ほどたつと、多くのオーナーさまがリフォームをしたいという気持ちになるようです。水回りの設備だけを交換する方や使いやすい家事動線へと変更される方、また家族構成が変わって大きく間取りを変更される方もいらっしゃいます」と数多くのリフォームを手掛けた笹原は話します。
先輩オーナーさまが実際にどのような理由でリフォームをしたのか、代表的な例をご紹介します。
家族構成の変化によるリフォーム
- 高齢の親御さまとの同居、オーナーさまご自身の高齢化によるバリアフリー化
- お子さま世帯との同居により、2階に水回りを増設
- お子さまの独立後、空いた部屋をご夫妻の趣味の部屋にリフォーム
- 二世帯同居をしていた親御さまが亡くなり、空いたスペースを賃貸に
快適性を高めるためのリフォーム
老朽化した水回りを最新の設備に交換
→最もご要望が多いのが浴室。同時に洗面室をリフォームするケースも。「掃除のしやすさ」という視点でリフォームをする方が圧倒的に多いです。
家事動線の変更
→年月の経過とともに、家事動線の希望にも変化が生じます。水回りの設備交換と同時に、キッチン⇔洗面室⇔ダイニングの動線を使いやすく変更される方もいらっしゃいます。
エネルギー効率を高めるための
リフォーム
断熱性の高い設備へのリフォーム
→特にご要望が多いのは窓の断熱リフォームです。
3電池(太陽光発電・エネファーム・蓄電池)
システムの導入
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その他、ライフスタイルの変化などによるリフォーム
趣味を楽しむ
→定年後に趣味の時間が増え、釣具やゴルフグッズなどを収納する土間を作るなど
駐車場増設
→お子さまが車を所有するようになり増設のご要望はよくあります。
このようにリフォームを行う理由は多岐にわたります。
「新築の家を建てる時に、将来のリフォームを見越しておくと、リフォームがしやすくなったり、予算が抑えられたりすることは多くあります。リフォームという視点も加えた家づくりが大切になってきます」(笹原)。
新築時に準備しておくと、将来のリフォームがもっと自由に
では、リフォームを想定せずに新築の家を建てた場合、リフォームを行う段階でどのような問題が起きてくるのでしょうか。
「大掛かりな工事になってしまい、想定していたよりもリフォーム費用がかさんでしまうケースはよくあります。さらに、間取りに制限が生じてしまうことも。例えば、リフォームをする時に壊せる壁と壊せない壁があります。筋交いのある壁や耐力壁となっている壁は、構造上壊すことができません。この壁に構造体が入っていなければ、間取りを自由にできたのに…と思う場面は少なくありません」(笹原)
新築住宅の設計を手掛ける大和ハウス工業の設計士、石もこのようにアドバイスします。
「できるだけ間仕切りの中に構造体を入れないように設計しておくと、間取りの変更に柔軟に対応できます。また、それ以外にも新築時に準備しておけることはたくさんあります。30代ご夫妻とお子さま2人のご家族を例に挙げ、将来的に想定されるリフォームと、設計時に考慮しておくといいポイントをご紹介します」(石)
30代夫妻+子ども2人。
30年後にどんなリフォームが想定される?
30代の夫妻・長女6歳・次女3歳のご家族の場合
→30年後…夫妻は60代。2人の子どもは結婚して独立
階段の上り下りが困難に→エレベーター、昇降機の設置
年齢とともに体力が衰えると階段の上り下りが困難になることもあります。
「年齢的に近い将来エレベーターの必要性も有り得る方の場合は、あらかじめエレベーターの空間を確保しておき、最初のうちはそこを納戸として利用するといいでしょう。エレベーターに義務付けられている緊急用の電話配線も引いておきます。吹き抜けなどにエレベーターを設置する工事だと、床面積が増えることになり建築確認申請※の手間が増えてしまいます」(石)
※建築物が基準を満たしているか審査をしてもらうための申請
介護がしやすい家→手すりの設置、通路幅・間取りの検討
「ご家族が要介護状態になり、急遽手すりをつけたオーナーさまがいらっしゃいましたが、壁面に下地が入っていなかったため、クロスを剥がして下地補強を行いました。クロスも張り替えになるので、その分費用がかさんでしまいます」(笹原)
「下地を入れなくても手すりの設置は可能ですが、クロスの上から取り付けると見た目が悪くなってしまうのでオススメしません。手すりの設置が想定される場所には、あらかじめ下地を入れておくと手すりの取り付け工事がスムーズです。車椅子でも通れる通路幅の検討や、将来の介護を想定して寝室の近くに水回りが来るような間取りをご提案することもあります。また、親世帯との同居やオーナーさまご自身が高齢になった時のことを考えて、高低差のある土地を選ばないことも一つの選択です」(石)
老夫婦2人の趣味を楽しむ→居室を拡張、照明の増設など
「お子さまが独立後、使わなくなった部屋をつなげて、趣味の社交ダンスが楽しめる開放的な空間を作ったお客さまもいらっしゃいました。壁を取り払って、広い空間にリフォームしたいというご要望はかなり多いです」(笹原)
「広い間取りにしやすい柱割りを検討し、仕切り壁になるべく構造躯体を入れないようにしておきます。また、照明をダウンライトにリフォームする可能性があるなら、あらかじめ電気の配線を引いておくと設置がスムーズです」(石)
その他のケース
「子世帯と同居の可能性があるなら、2階に水回りを増設しやすいようにプレ配管を入れておくのがおすすめです。水回りを新設する場合、排水、給水、換気の経路を確保する必要があり、後から行おうとすると大掛かりな工事になり費用もかかります」(笹原)
「親世帯との二世帯住宅の場合、親世帯のスペースの活用法を考えておきましょう。行き来できる内ドアを作らない、界壁を検討しておくなど、プライバシーに配慮しておくと賃貸として活用しやすくなります」(石)
「リフォームの段階になってここに窓が欲しいとなっても、壁を壊して窓を作る工事は大掛かりになります。開口部の設計は、将来的なリフォームも視野に入れて検討しておくといいでしょう」(石)
「家を建てた後も外壁の塗り直しは定期的に発生します。住み始めてから予想外の出費とならないよう、メンテンス不要の総タイルにしておくのも一つの選択です」(石)
リフォームには建築確認申請が必要なリフォームと、必要でないリフォームがあります。建築確認申請には費用も時間もかかるので、できるだけ申請を要さないリフォームにできると理想的です。
「手すりの下地をあらかじめ入れておく、将来取り払う可能性のある壁には構造体を入れない、という2つは、それほど費用もかからずにできます。将来的なプランが見通せない方でも、新築時にやっておいて損はないと思います」(石)
人生100年時代。先を見越した長く住まえる家づくりを
このようなリフォームを見越した準備をすれば、その分建築費がかかってくるのも事実です。「新築時にリフォームしやすい家にしておく初期費用と、特に準備をせずにリフォームをした時にかかる費用を比べたうえで、前者を選択されるお客さまも増えてきています。結果的に予算が抑えられるケースも少なくありません」と石は話します。
人生100年時代と言われ、私たちの長寿命化が進んでいます。また、家の構造も長寿命化が進んでいる中で、「暮らしに合わないから建て替える」のではなく、「ライフステージに合わせてリフォームしながら親から子へ、子から孫へと住み継いでいく」のが当たり前になっていくでしょう。
「特に、ダイワハウスのxevoΣは、地震に耐える強靭な構造であることはもちろん、人生設計に合わせてリフォームすることを想定しています。床先張り工法なので、壁を壊しても床が残っているためリフォームしやすいのもメリットです。長持ちする住まいを大切に住み続けていくために、リフォームという視点も加えての家づくりが今後ますます大切になるでしょう」(石)
まとめ
新築時に将来のリフォームを想定して家を建てておくことは、費用面ではもちろん、リフォームの自由度という面でもメリットがあります。さらに、家の構造体を熟知しているハウスメーカーの系列リフォーム会社に依頼すればより安心でしょう。