新型コロナウイルス感染拡大により在宅の時間が増えた影響もあり、
今見直されているのが「快適な住まいづくり」。
特にお子さまがいらっしゃるご家庭においては、親子で過ごす時間を、
もっと豊かにしたいと考える方も多いのではないでしょうか。
一方でお子さまが住まいで過ごす時間が増えたことで、
安全面や生活習慣面の不安もより顕在化してきているようです。
親子で安心して過ごせて、褒める機会も多くなり笑顔も増える、
そんな住まい環境をつくることができると、
きっとお子さまの自己肯定感も育まれていくはずです。
そこで今回は、
子育てメディア「LITALICO発達ナビ」の編集長である牟田暁子さんをお招きし、
ダイワハウス ハウジングマイスターの隼田洋平と、
自己肯定感を育む住まいづくりをテーマに対談します。
まず前編では、「LITALICO発達ナビ」に寄せられた
子育てにまつわるお悩みに関する声を牟田さんにご紹介いただきながら、
【お子さまの自己肯定感を育む住まいづくりのために、大切なことは何か?】を考えます。
Profile
牟田 暁子(むたあきこ)
LITALICO発達ナビ編集長
東京都杉並区生まれ。主婦の友社他出版社等を経て、2017年LITALICO入社。高校生の長男、先天性の身体・知的障害のある長女がいる。地元の仲間とともにプレーパークの運営も行っていて、どんな人も地域の中で集い、ともに暮らせる社会をつくっていきたいと考えている。
参考:LITALICO発達ナビ
隼田 洋平(はやたようへい)
京都支社 住宅事業部 設計課 主任
一級建築士、ハウジングマイスター(社内認定)
愛媛県松山市生まれ。一級建築士である父との建築物めぐりを日常として育ち、迷うことなく設計士の道を歩んだ。「住まい=家族が幸せになれる場所」との信念を持つ。家族の時間をより豊かにし、住まう人一人ひとりが快適に暮らせる家――団らんの時間も、プライベートな空間も大切にした、有機的なつながりを創造できる設計を行っている。
家族の心の拠り所となる、住まいの形への第一歩
牟田:私たちの「LITALICO発達ナビ」というメディアには、たくさんの親子から住まいづくりに関する悩みが寄せられます。最近は親子で一緒にいる時間の中でストレスが溜まり、叱ることが増えたなんて声も。こうした中で、お子さまの自己肯定感を育む住まいづくりのために、大切なことはどのようなことでしょうか?
隼田:家はやはり家族が笑顔でいられる、快適に暮らせる空間であって欲しいと思っています。快適さの定義は人それぞれだと思うのですが、暖かい涼しいという身体的なもの以上に、何よりもこの場所が心の拠り所であるということが最も大切なのではないでしょうか。
牟田:家族がつながる心の拠り所であることが大切だと。その上で、前提として安全で心配が少ない住まいであってほしいと願う親御さんが多いようです。お子さまは元気が溢れているので、段差から落ちて怪我をしてしまう、窓やドアからの飛び出しが心配という声をよく耳にします。
隼田:怪我は確かに心配ですが、一方で住まいの全ての面で安全性を最優先してしまうと、お子さんの成長の機会を奪うことにもなりかねないと考えています。例えば多少の段差があったら、それをどう乗り越えるかを考えること自体に成長につながる冒険が隠れています。実際に私も畳コーナーに少し段差をつけて、冒険心を刺激する設計にすることがあります。
牟田:冒険心で言うと、最近は都会の公園で穴を掘ったり、木に登ったりすることが禁止されている場所もあるようです。だからこそ、日々登ったり飛んで跳ねたりできる住まいがあれば、冒険心は元より身体的な成長までも応援することができるはずです。自分の力がどの程度あるのかということを自身で見極められることが、健やかな成長にとって大事なのだと思います。
隼田:親目線で少し危ないと感じることは、お子さまにとっては楽しい活動であるということも多々あります。併せて恐怖心を育むことができると自然と自制心も生まれるため、心配し過ぎないことが大切です。親の目の行き届く範囲で、怪我をしない程度に冒険心を育める設計の形を日々思案しています。
どのように家族のつながりをつくっていくか
牟田:読者からの声でもう一つ多く寄せられるのが、片付け、整理整頓ができるようになってほしいという願いです。毎日「片付けなさい」と怒ってばかりで嫌になるという親御さんもいるのですが、片付けに関して住まいづくりで大切なことはどのようなことでしょうか?
隼田:片付けについて考える際に、何故か親から子という一方通行になる方が多いようです。言葉だけで伝えられても、お子さんはそれを義務として受け取ってしまう可能性があります。そうではなくて、例えば親御さんが片付ける姿をお子さんに見せることができたら、その時にきっと自分なりに片付けの方法を学んでいるはずです。片付けを自然な行動として、一連の動作として、まず親が率先して見せることが大切なのです。そのためには一緒に遊ぶ、一緒に勉強するといった行動も必要になります。そうすれば自然と一緒に片付ける姿を見せることが出来ます。
牟田:その上で片付けやすい場所やポイントをつくってあげれば良いと思います。少しゲーム性も持たせて、片付けるものと片付ける場所が同じ印のシールでマッチングされたりすると楽しめるのではないでしょうか。その時にも、親も楽しみながら一緒に取り組むことが大切です。
隼田:他にも鉛筆一本片付ける際にもペン立てにピタリとはまるようにしてパズル性を持たせるなど、片付けること自体を遊びに変えて様々なチャレンジができると良いですね。
牟田:他には親の片付ける姿や家事をする姿が、自然と目に入る動線設計にするのも良いと考えています。わが家も1年ほど前から家族がワンフロアで生活するようになり、洗濯物を干している様子を子どもが日々目にすることで、私の体調が優れない時は息子が洗濯物を物干しまで運んでくれるようになりました。先日は、私が洗濯物をたたんでいた時に通りかかった娘が、父親の部屋に運んでくれるというコミュニケーションが生まれました。
隼田:それこそまさに私が大切にしている、クリエイティブコネクションハウスという考え方です。それはすなわち、つながりを想像し、つながりをつくり出す設計のこと。例えば有形のものでは如何にストレスのない家事動線をつくるか、そして無形のものでは如何に家族が住まいのどの場所にいても心でつながり安心することができるか、日々考えながら設計しています。
家族のつながりをつくった上で、
一人でいられる場所もつくる
牟田:クリエイティブコネクションハウスは、非常に興味深い考え方です。実際の設計で印象深い事例はどのようなものでしょうか?
隼田:この考え方に強く賛同いただいた方がいて、玄関から寝室に入るまで、ドアを極力排除した住まいを設計したことが印象に残っています。玄関を開ける音、手を洗う音、親子の会話、それらの生活音が家中に響き渡ると安心できますし、顔を見なくてもつながり合うことができます。2階の書斎にいる時でも、吹き抜けを通して1階の気配が感じられる設計にしました。
牟田:家族のつながりを持ちながらも、一方でお子さまにとって集中ができる、切り替えがしやすいような住まいが望ましいと個人的に感じています。それは単純に子ども部屋をつくるという話ではなく、例えばリビングで勉強する時は、部屋の片隅に隠れ家的なへこんだ場所をつくることで、集中して勉強できるのではないか、という仮説を持っています。
隼田:その日の気分や天気により、窓辺や階段の下など、カフェのように勉強できる場所が選べると、お子さまのモチベーションの向上が期待できます。ただ、その時に大切なことは完全には切り離さないということです。無音の空間の中では人は落ち着かないこともあるため、視界は遮られても環境音は多少入る方が、逆に集中しやすい環境になると考えています。扉を閉めても上部が少し開放していて音が聞こえる等の工夫で、違う部屋にいても心はつながっていると感じられる設計を目指しています。
牟田:衝立(ついたて)を用意して空間を区切ることも有効な方法ではないでしょうか。お子さまの個性に合わせて、勉強スペースでは生活音が聞こえた方が良いのか、視界に家族が入らない方が良いのか、いくつかの要因を見極めてパーソナルスペースを用意することが大切だと考えます。一方で家族のつながりをつくった時に、親が子の模範であり続けることが大変であると感じる親御さんもいるかもしれません。
隼田:お子さまに対して常に正しい姿を見せなければいけないと思われるかもしれませんが、時には疲れた姿を見せることも親の役目なのではないでしょうか。お子さまはしっかりと親の行動や考え方を探りながら過ごしているため、もし疲れている時には何か手伝えることはないかと自然に思いやりの心を育むはずです。親子で助け合いながら、「ありがとう」の気持ちを伝え合うことが何より大切で、日々生活する姿を包み隠さず見せることができたら、それ以上のことは必要ないのではと思います。
牟田:その言葉は親御さんにとって心強いものだと思います。家族がつながる設計とパーソナルスペースを両立して整えていく。そこから生まれる家族の対話や絆、心地良さが、お子さんの自己肯定感を育む住まいづくりの土台となっていくはずです。
後編では「子どもの自己肯定感を育む」
プラン提案をします!
牟田さんとの対談を通じて、前編では子どもの自己肯定感を育むために大切なことは何か、そして親として留意すべきポイントが浮かび上がりました。後編では、対談から得られた知見をもとに、いよいよハウジングマイスターの隼田が、子どもの自己肯定感を育むための工夫を盛り込んだ具体的なプランをご提案します。引き続きぜひご覧ください。