和室がない住まいが増えている一方で、「懐かしい」「落ち着く」など、
少なからず和室に魅力を感じている20・30代がいることが、
和室・畳コーナーに関するアンケートコラムで明らかとなりました。
そこで、改めて令和の和室空間について考えてみるべく、
My House Palette制作会社の和室好きな4名(20~40代)に
集まっていただき座談会を実施。和室の魅力をひもとくとともに、
導入のハードルとなっている背景や現代の暮らしに応じた
和室のアイデアについて検討してみました。
Profile
Iさん(賃貸・和室あり)
築40年の賃貸2LDKマンションにパートナーと二人暮らし。夜は寝室、昼はリモートワークスペースと、フレキシブルに和室を使用している。
Uさん(賃貸・和室なし)
賃貸ワンルームマンションに一人暮らし。和モダンインテリアに憧れ、和室がある物件を探したがかなわず、イ草小物で和を取り入れている。
Tさん(持ち家・畳スペースあり)
分譲住宅に妻と二人暮らし。畳タイプのロフトがあり、隠れ家的なリラックス空間として活用中。
Kさん(持ち家・和室なし)
築5年の注文住宅に妻・娘と三人暮らし。和室の導入を検討したものの、広さやメンテナンスの都合で断念。
自然とゴロゴロしてしまう…和室・畳の魔力
――皆さんは、和室や畳のどんなところに魅力を感じているのでしょうか?
- Tさんわが家には、5畳ほどのロフトに半畳タイプの琉球畳を敷いた畳スペースがあります。大人が立つと頭がついてしまうくらいの天井高ですが、狭くて落ち着く隠れ家的な雰囲気で、ゴロゴロしたり漫画を読んだりと、くつろぎスペースとして重宝しています。
Tさんのご自宅にある畳スペース
- 私はパートナーの希望で和室ありの物件を選びましたが、和室に布団を敷いて寝るとすごくリラックスでき、よく眠れるので和室がある物件を選んで良かったなと思っています。Iさん
Iさんのご自宅にある和室
- 私は家を建てるときに、リビングの一角に小上がりの和室をつくることを提案されましたが、間取りの都合上、和室をつくりませんでした。和室でゴロゴロしたかったのですが、仕方なく硬いフローリングの上で寝転んでいます(笑)。和室がないと、気軽にゴロゴロできないのは確かですね。Kさん
- Uさん和室と洋室では振る舞いが変わりますよね。畳があると、自然とゴロゴロしてしまう…。
- 正座をしたりあぐらをかいたり、寝転がったり。逆にヨガとかの運動スペースにもなったりしますね。和室や畳はどんな過ごし方も受け止めてくれる懐の広さを感じます。こういったところがやはり、和室ないしは、畳の最大の魅力なんでしょうね。Kさん
視覚、嗅覚、触覚…和室は五感を刺激する?
- 親戚の家がお寺で、幼少期から和室が身近にあったのも和室が好きな理由かもしれません。イ草の香りはホッとすると同時に、背筋がシャキッとするような心地よさも感じます。Iさん
- Uさんわかります。自然にはリラックス効果があるといわれますが、和室も畳、障子、襖と、自然由来のもので構成されているので、それを五感を通して感じることで心地よさを感じ取っているのかも。特に、私は畳の香りや寝そべったときの感触が好きで、残念ながら和室の導入はかなわなかった分、イ草のスリッパで代用しています(笑)。
Uさんお気に入りのイ草のスリッパ
- Tさんフローリングでは基本的にスリッパを履いて、ソファやダイニングチェアに座って過ごしますが、和室や畳スペースなどの畳空間ではマナーとしてスリッパを脱ぎますよね。そのため畳空間では、足裏で直接畳に触れることになりますが、僕はそれが気持ち良くて、洋室よりもリラックス度が高い気がします。家でははだしでくつろぎたい自分にとって、自宅の畳スペースは最高の癒やし空間ですね。
- Uさん障子も良い要素になっていると思います。障子は日差しを完全に遮光するわけではなく、柔らかな光として家の中に届けてくれるので程よく明るく、そして暖かい。和室のほっこりしたイメージは光と暖かさにゆえんしているような気がします。
- あと、これは完全に個人の体験に基づいた感覚なのですが、和室や畳って、みんながワイワイ集まって楽しく過ごしている場所というか、昔の、時間がゆっくり流れていた頃の良き思い出が、香りや感触とひもづいているような気がして。和室や畳に対するポジティブなイメージが、日本人のDNAには刻み込まれているんじゃないかって思いますね。Iさん
「和室はあったらいいけど、なくても困らない」が本音
――以前、My House Palette メールマガジン会員の方を対象に行ったアンケートでは、和室や畳に好感は持っているものの、20代以下では約3割が「設置したくない」と回答していました。このように、和室や畳への好意とは裏腹に、和室の導入が妨げられてしまっている要因とは何だと思いますか?
- Uさん私は和モダンな雰囲気が好きで和室ありの物件を探したのですが、他の条件との兼ね合いもあり…最終的には和室がない物件に住んでいます。そもそも最近は、賃貸の築浅物件にはほぼ和室がないですし、築古物件でもリフォームをする際には和室をなくしてしまうケースが多いですよね。分譲住宅にも和室がない間取りが多く、一般的には洋室のニーズが高いのだと感じています。
- 確かに、和室じゃないと困ることって実はそれほどなくて、大抵のことはフローリングで事足りてしまうな、というのがわが家の実感です。Kさん
そして、和室をつくる上で気になったのはメンテナンスの問題。畳を干したり替えたりは誰がするのか?というデメリットをてんびんにかけた結果、リビングのスペースを割いてまで和室はいらないのかなという決断に至りました。 - Tさん都市部では狭い敷地をどう使うか、切実な問題ですからね。その中で必要最低限の居室を確保していくと、「和室をつくるならその分リビングを広くしたい」と思うのは自然な流れかもしれませんね。
- Uさん私の場合、和室は「インテリアの一要素」を担うものとして取り入れたいと考えていたので、言ってみれば和室は+αの要望なんです。アンケートコラムでも「必要性を感じない」を理由に挙げる方が多数だったように、予算が決まっていて間取りや設備…と譲れない要素がある中で「必要性」にフォーカスすると、和室導入の優先度は下がってしまうのもわかる気がします。
和室の「余白」をどう捉えるか?がカギ
- 和室は、畳に跡がつくので据え置きの家具が置きにくいのもあり、決まった使い方がないですよね。ダイニングだったら、テーブルと椅子があるから、もうそこに座るしかない。動作が決められてしまっているんですけど、和室はそれがないから、自由であり、それが同時に持て余す理由にもなる。Kさん
- Tさん加えて、誰かがそこで過ごしたり、誰かの部屋になったりするわけではなく、家族の共用スペースみたいな位置付けになってしまうから、優先度が低くなるというのも一理ある気がしますね。
- 一方で、フローリングに比べると何かと制約はありますが、和室のメリットは必要なときに家具や布団を出して、使わないときは畳んで片付けることで部屋を広く使えるところかなと。一長一短があるので、何を重視するかは、住む人の価値観次第ですね。Iさん
- 和室はフレキシブルに使える住まいの「余白」のような位置付けだと思っています。「子育て中は和室があると便利」といわれるのも、子どもの遊び場、寝室、洗濯物を畳む・アイロン掛けをする家事スペース、客間、こたつを置けば団らんの場、と汎用(はんよう)性の高さゆえですよね。Kさん
- Tさんわが家の場合はロフトというある意味おまけのような空間が畳スペースになっているので、「部屋を有効活用する」という視点がないんです。非日常的なくつろぎの場に特化しているので、満足度はとても高いですね。
- なるほど。機能面にフォーカスするとどうしても「必要性がない」と切り捨てられがちな和室も、余白とか汎用性、あるいは我々が本来魅力を感じている和室の情緒的な面からみるとまだまだ存在意義があるように感じますね。Kさん
暮らしの豊かさを感じられる令和の和室のカタチとは?
――最後に「令和の和室空間のあり方」についても考えてみたいと思います。これまでの話を踏まえ、現代の暮らしにフィットする和室や畳の取り入れ方としてどんなアイデアがあるでしょうか?
アイデア1.「和風インテリア」にこだわりすぎない
- まずインテリアの問題ですが、モダンなしつらえなら、リビングとシームレスにつながってインテリアともマッチしそうです。リビングと和室が分断されないので広々と感じられそうですし。Iさん
- Uさん障子や襖のある伝統的な和室もすてきですが、隣接したリビングになじませるのは難易度が高いと思うので、畳を取り入れた和モダンな雰囲気に仕上げるのがいい気がします。人気の縁なし畳なら、いかにも「和」という感じになりませんし、北欧風のインテリアとの相性も良さそうだなと思います。
- 和室はアジアンテイストとも相性がいいので、ラタン素材の小物を取り入れるのも良さそう。工夫次第で、和と洋をなじませることはできそうな気がします。Iさん
アイデア2. 用途や暮らしに合わせた高低差で変化をつける
- 和室といえば掘りごたつにも憧れます。和室はくつろげますが、正座やあぐらが苦手という方は結構多いですよね。掘りごたつなら和と洋のいいとこどりで、リモートワークをするのにも良さそうですね。Kさん
- Tさん和室の掘りごたつで家族団らんの時間を過ごすと、より親密になる気がしませんか? それって天井高もポイントだと思うんです。和室の天井高が洋室よりも低くつくられているのは、座ったときの目線に合わせているからだと聞いたことがあります。人は天井高の高い空間では気持ちが高揚し、低い空間では落ち着いた気分になるそうなので、和室が落ち着くのはそういう理由もあるのかもしれません。わが家の畳スペースがあるロフトも、大人が立つと頭がつくくらいの高さで、おこもり感が抜群です。
座談会で使用した駒沢展示場の畳コーナー。リビングと一続きになっている畳コーナーを折り下げ天井&小上がりにすることでリビングと緩やかにつながりつつ、落ち着きのある雰囲気をつくり出している。
アイデア3. 和室の要素を部分的に取り入れる
- UさんTさんの「非日常的な空間としての和室」はこれからの和室を考えるヒントになると感じました。スペースの都合で和室をつくれない方でも「暮らしを豊かにする」という観点で、家の中の余白となる部分に和室のエッセンスを取り入れるのも一つのアイデアだと思います。リビングの窓側にベンチをつくり、座面を畳にして縁側感覚のくつろぎの場所にしたり、階段の踊り場に畳を敷いたりするのもいいなと思います。
- Tさんいいですね! あとはウォークインクローゼットの床材を畳にするのはどうでしょう? 玄関を上がったところが畳というのも、旅館みたいでくつろげそうです。先日泊まった旅館ではフローリングにベッドが置かれていたのですが、床の一部に畳が埋め込まれていて、落ち着いた雰囲気を醸し出していました。寝室に畳をあしらうのもいいアイデアだなと思いました。
- Uさん従来の和室の形式にとらわれず、「和室はこうであるべき」といった固定概念を取り払ってみると取り入れる方法はたくさんありそうですね。ライフスタイルの変化によって住まいのあり方も変わってきたように、和室だって住まう人に合わせて自由にカスタマイズして良いのかもしれません。そうすれば、和室の情緒的な良さと暮らしやすさを両立した住まいのあり方も見つかるのでは、と感じました。
※発言はあくまで座談会参加者の意見です。
まとめ
現代の家に機能性だけを求めると、和室は削除対象になってしまうのかもしれません。しかし、和室にはくつろぎとやすらぎを感じる情緒的な魅力があります。畳の香りや感触に癒やされ、スリッパを脱いでごろんとくつろぐひとときは、洋風の暮らしでは味わえない和室ならではのぜいたくな時間。今では、従来の和室の形式にとらわれない、多様な取り入れ方も充実しており、それぞれのご家族に合ったスタイルを追求しやすくなっています。和暮らしに興味があり、新築住宅の購入を検討されている方は、現代の暮らしに調和する和の取り入れ方も含め、ぜひ専門家にご相談してみてはいかがでしょうか。