世界最大規模の家具見本市ミラノサローネで、
洗練されたデザインや巧みな素材使いが
高い評価を得ている日本の家具ブランド、リッツウェル。
秀作の数々を手掛けるのはデザイナーであり経営者でもある宮本晋作社長です。
今回は宮本社長の美学や家具に込める思いについて、
ダイワハウスのインテリアコーディネーター鱸(すずき)麻理がお話を伺いました。
―国内外で高い評価を受けているリッツウェルですが、始まりから現在に至るまでどのような道のりを歩んできたのでしょうか。
1992年に先代の社長(宮本敏明現会長)が福岡で創業した当社は、椅子を中心としたオリジナル家具の企画・開発、販売を行ってきました。モットーは「永く使うほどに愛着が湧き、使う人がだんだん好きになる」家具づくりです。当時は大量生産・大量消費が当たり前でしたが、時代の流れに逆行して職人によるハンドメイドにこだわりました。ものづくりに対する考え方が一貫した生産体制を整え、国内の自社工場と協力工場でのみつくり上げています。
自身のデザイン観について語る宮本社長
素材は木や皮革、ファブリックなどの自然由来のものを使用しています。理由は家具に唯一無二の風合いが生まれるからです。職人の技を駆使し知恵を絞って、一つとして同じものがない自然物の特性を生かしています。
オリジナルを追求するものづくりを続けること10年、世界に発信する基盤を築くために2003年に東京でショールームを開設しました。そして、2008年には目標だったミラノサローネ初出展を果たしました。
―その後は毎年のように出展されていますね。2016年には世界の一流ブランドがしのぎを削るメイン会場HALL5に、アジアのブランドとして初めて出展されました。
出展を重ねるごとにリッツウェルというブランドが家具の本場イタリアで浸透し始めた手応えを感じます。今後も、世界に名を馳せる家具ブランドを目指して挑戦を続けます。
―宮本社長は現在、デザインの大半を手掛けていると伺いました。均整のとれた美しい家具を生み出すデザイン力はどこで培われたのでしょうか。
特に知見を深めたのはイタリアです。大学卒業後、飛騨での家具づくりの修業を経て渡伊しました。慣れない海外生活は苦しい時期もありましたが、イタリアの職人と一緒に働いた経験は人生の大きな糧です。幼少期から美しい景観や芸術作品を見てきた彼らは、優れた美的感覚を有しています。そんな彼らがBELLO(イタリア語で「美しい」)と呼ぶのは、きめ細やかな表現よりも俯瞰(ふかん)で見て均整がとれたものです。この美意識に、私のデザイン観は大きな影響を受けました。
―私もイタリアに2度行きました。建築物などの美しさに、カルチャーショックを受けました。
イタリアの美には圧倒されるものがありましたね。その一方で、自国の文化を見つめ直す良い機会になりました。帰国後、あらためて京都のお寺を巡ってみると、その美しさはミラノの大聖堂ドゥオモと遜色ありません。イタリアでの2年間を経て、欧州文化に対する敬意をより深めながら、日本の文化の素晴らしさを再認識しました。 海外のお客さまに「リッツウェルの家具は日本の香りがする」と言っていただけるのを、私は誇りに思います。この独創性はイタリアでの経験なしには生まれなかったでしょう。
優雅に広がる座面が上質な座り心地をもたらすリーワイズ エクスクルーシブ モデュラーソファ。高さを抑えたフォルムは床座の習慣がある私たちの暮らしによくなじみます
―リッツウェルのコンセプトに“たたずまいが美しい家具”という言葉があります。どのような思いが込められているのでしょうか
“たたずまい”という言葉から私が連想するのは後ろ姿です。人は写真に撮られる時や鏡の前に立つ時に正面を意識しますが、後ろ姿は自意識の執着から解放されます。その自然な姿に私は美を感じるのです。家具をつくる際、私は後ろ姿のデザインに魂を込めます。空間の調和を崩さないささやかで奥ゆかしい美が、家具に宿るように設計しています。
―無駄を省いた美しさのためでしょうか、貴社の家具はどんなインテリア空間にもなじみます。
当社は、国籍やインテリアのカテゴリーなどあらゆる枠組みを超越する家具を目指してきました。流行に合わせず、私自身の内側から自然と湧き出るイメージをもとにデザインしています。
私の理想は1950年代の名作家具のように、時代の波を乗り越えられるデザインです。長年使っていただけるようなタイムレスでボーダレスな家具を目指します。
―他方で、時間の流れとともに住宅建築の技術は進歩し、ダイワハウスでは天井が高くて柱の少ない大空間が可能になっています。
その空間には個性豊かな家具を置いても調和がとれるので、絵になるでしょう。ぜひ私たちの家具を合わせていただきたいです。
大阪のショールーム内にはリビングに見立てた空間展示も。手前のソファ「ライトフィールド」は背面のデザインにもこだわっています
―リッツウェルの家具は、デザインはもちろん、手ざわりや座り心地も素晴らしいですね。
家具はアート作品ではなく、あくまで道具。快適に使っていただいてこそ価値があるので実用性に磨きをかけています。また、人間は五感すべてを使って心地良さを認識するので審美性も同時に追求しなければなりません。さらに、上質な素材に真心を込めてきめ細かい手仕事を施し、心から安らげる温もりを提供します。
―実用性、審美性、温もり。これらすべてを同様に実現するとなると、制作過程でのご苦労も多いのではないでしょうか。
おっしゃる通りです。特に職人と私の打ち合わせは妥協することがありません。まず、完成前のデザイン案を職人に提示して、イメージを共有し、全体像をつかめたところで一緒に細部を詰めていきます。例えば、ジャバラAVボードでは、引き戸に使われる木材の幅や天板の厚さをミリ単位で議論しました。「社長ほど面倒くさい人はいない」と職人から言われますが、私は納得するまで徹底的に追求します。
―そのこだわりが世界的な評価につながるのですね。
そう言っていただけるとうれしいです。ものづくりの醍醐味は仲間と議論を交わしてアイデアに磨きをかけている瞬間です。限界までユーザビリティを突き詰めた新作は、その時点での最高傑作だと毎回胸を張って言えます。
背の部分が三日月状なので、背当たりが良く疲れにくいマルセルチェア
職人の手仕事により一本一本細く切り分けられ、表面に丸みを持たせたジャバラ AVボード。引き戸を開ける動作も日常のささやかな楽しみになります
―貴社は今年で27周年を迎えます。多くの方に家具を届けてこられたと思いますが、特に印象的だったお客さまの声はありますか。
あるご高齢女性のエピソードには、仕事への気持ちが一層引き締まりました。病気を患っていたその女性は、ある日当社のソファをたまたま目にし、いたく気に入ったそうです。彼女は早速購入して、自宅で愛用し始めました。それからというもの、不思議と病状が改善し、お元気になられたそうです。病は気からといいますが、お気に入りの家具を暮らしに取り入れることでとても気持ちが晴れたのでしょう。この話を聞いて、家具には人生を変える力があるのかもしれないと思いました。秘められた家具の可能性を探究し、さらに世の中に貢献したいです。
―ありがとうございました。
絶妙にそりが施されたイビサフォルテ リビングテーブルは寺社仏閣の屋根を彷彿させます
細いステンレスフレームに厚革を巻いたシンプルな構造のイビサフォルテ チェア。牛一頭丸ごと使った革は、職人の手によって美しく丁寧に縫われています
大阪ショールームは2019年6月にリニューアルオープン。調和のとれた心地良い空間を体感できます
九州産業大学建築学科を卒業後、飛騨とイタリアで修業を積み、2005年に株式会社リッツウェルに入社。2018年1月に代表取締役社長に就任。
インテリアコーディネーター、二級建築士、キッチンスペシャリスト、照明コンサルタント
Ritzwell 大阪ショールーム
- 住所/
- 〒553-0003
大阪府大阪市福島区福島1-1-17 堂島リバーフォーラム2F - TEL/
- 06-4256-5970
取材協力/株式会社リッツウェル
2019年8月現在の情報となります。