フランス、イギリスなど欧州各国が相次いで、ここ20〜30年の間にガソリン車の販売を禁止する法案を打ち出しました。しかし、クリーンエネルギー時代を実現するためには、まだまだ解決しなければならない課題が山積みです。次世代エコカーの先端をゆくEVについて、インフラや、電力安定供給対策などの取り組み状況を見てみましょう。
2、温室効果ガス削減に向けて進む、欧州主導のEVシフト
クリーンエネルギー自動車という選択
より小さなエネルギーで、かつ発電時にCO2を排出しないエネルギーの活用を進めるにあたって「カギ」となるのが、自動車で使用するエネルギーの種類です。
下の図が示すように、国内の一次エネルギーには石油、石炭、天然ガスといった化石燃料が多く使用されています。最も消費される石油の国内使用用途を見ると、自動車による消費が、全消費量の4割を占めています。
また、自動車を巡る環境問題は、「地球温暖化問題」に加えて、窒素酸化物(NOx)などによる「大気汚染」も深刻化していることから、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)などクリーンエネルギーを使用した自動車へのシフトが急務となっています。
資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」、石油連盟「今日の石油産業」をもとに作成
さらにつけ加えるなら、EVであっても、走行中はCO2排出量はゼロですが、火力発電による電力を使用するかぎり、真の意味でのゼロエミッションとはいえません。再生可能エネルギーによる安定した電力供給というゴールを達成して初めて、EV普及が温暖化対策の救世主となり得るのです。
欧州で始まる、ガソリン車、ディーゼル車の販売禁止
近年、パリやロンドンなどの大都市では窒素酸化物(NOx)による大気汚染が深刻化していて、ディーゼル車に対する課税引き上げや通行料金の値上げが実施されるなど、ディーゼル車に対する風当たりは年々強まっています。
そのような中、2017年7月6日、フランスでは、2040年までに国内でのガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する発表がありました。地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」の目標達成に向けた計画の目玉政策として打ち出されたものです。
次いで26日には、英国で、さらにオランダやノルウェーでも同様の規制を導入する動きがあり、ドイツでも2030年までにガソリン車の販売禁止を目指す法案が審議されています。
2040年には新車の54%がEVの見通し
IEA(国際エネルギー機関)の調査によれば、各国自動車市場における2015年時点でのEVシェアは、他国に先駆けてEV化への名乗りをあげたフランスでさえわずか1.2%にすぎません。そのほか、ドイツ0.7%、アメリカ0.7%、中国0.4%、日本0.6%と、いずれもEV普及への道のりの遠さを感じさせる数字が並びます。
その一方で、今年7月、調査会社のブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスは、2040年に世界の新車販売におけるEV比率が54%に達するとの見通しを発表しました。市場別に見ると、欧州が約67%、米国58%、中国51%と予想され、また世界での保有車両におけるEV比率も33%に達すると予想しています。
日本においても、EV・PHVの登録台数は2011年に26,394台だったものが、2015年には137,641台にまで拡大しています。自動車登録台数に占める割合はまだ微々たるものですが、2016年に政府が発表した「EV・PHVロードマップ」には、2030年におけるEV及びPHVの新車販売におけるシェア20〜30%、保有台数におけるシェア16%という目標が掲げられています。
3、日本におけるEVのある生活
満足度の高さが目立つEV 購入者
ニュースサイトを運営するJ-CASTが行ったEVに対する「不安要素」に関するアンケート調査によれば、「充電スポットが少なく、不便そう」が1位で44%、次いで「長い距離が走れず、遠出ができなさそう」42%、その他「車両価格や充電費用が高そう」9%、「ガソリン車に比べてパワーがなさそう」5%という結果でした。
ところが、実際にEVを購入した人たちからはこうしたマイナスイメージを指摘する声は少なく、「EVは圧倒的にランニングコストが安い」、「バッテリーの値段さえ下がれば、一気に普及する」と、強く訴えるEVオーナーもいます。
その他、「充電に関してはこれまで困った経験はありません。自宅での充電で十分まかなえています」、「EVに乗ってわかったことは、意外に充電する場所がたくさんあること。そして電気代が安いこと」など。また、走行性に満足しているという声も多く聞かれます。
見て触れて、実際に体験するなどリアルな情報に接する機会が増えれば、EVは一気に普及する可能性もあります。
EV普及のカギとなる急速充電設備は約7千箇所に増加
これまでEV普及の最大のネックとなっていたのは、充電インフラの整備が遅れていたことでした。走行中の電欠(充電切れ)を不安視する声が根強く、EV普及の足かせとなっていました。
EVの充電インフラ普及を目指すCHAdeMO(チャデモ)協議会の報告によれば、急速充電施設数は、2009年には95箇所だったものが2015年から急速に伸び、2017年現在で6,935箇所まで増加しています。また、充電池の技術革新も進み、20〜30分で全充電容量の80%まで急速充電が行えるようになっています。
共同住宅における充電設備の環境整備には課題も
急速充電施設設置の普及が進む一方で、共同住宅における電源設備には課題も残ります。現在、EV・PHVオーナーの9割以上は戸建住宅の居住者で、共有住宅の居住者は1割未満といわれます。
しかし、日本では共同住宅が住宅全体の4割以上を占めており、戸数も増加傾向にあります。EV・PHVの普及を目指すためには、共同住宅に居住する消費者もEV・PHVを購入しやすい環境づくりを推進していく必要があり、たとえば神奈川県横須賀市や東京都江東区など、充電器付き駐車場の整備を計画しているマンションの管理組合などを支援するための補助制度を実施する自治体も出てきています。
自宅が一戸建ての場合は、充電設備を設置するための電気工事は比較的簡単ですが、マンションなど共同住宅の場合は、設置場所の確保、費用負担、住民の合意形成など諸々の手続きが必要となり、計画から施工まで1年以上かかってしまうケースもあります。
また、大規模マンションでEVオーナーが複数いる場合は、コストはかかりますが急速充電器を設置する必要があります。急速充電器は非常に大きな電力を必要とするため、マンションの既存の設備では賄いきれないことが多く、直接電力会社から電気を引き込むことになります。
急速充電器の出力が高いほど利用者一人ひとりの滞在時間は少なくてすみますが、電気の基本料金は高くなります。利用者数に合せて急速充電器の出力を決定するなど、綿密な計画が必要になってきます。
EVの普及は、エネルギーを地産地消する時代の始まり
自宅にEV充電器を設置した際、いかにして電気代を抑えるかという課題が出てきます。まず思いつくのは太陽光発電システムでしょう。太陽光発電システムは、機器本体の価格が大きく下がってきたことに加え、2010年から余剰電力の買取制度が導入されたこともあり、急速に普及が進んでいます。
ただ、太陽光発電システムには、天候によって発電量が左右され、また夜間には発電できないという弱点があります。そこで注目されているのが蓄電システムです。昼間に太陽光発電システムで発電した電気を一般家庭向けの小型蓄電池に貯めておき、夜間に使用することができます。自宅で電気をつくり、必要な時に必要な量だけ使う。EVの普及は、エネルギーを地産地消する時代の始まりでもあります。
4、サステナブル社会を実現する住宅のあり方
大和ハウス工業のまちづくり「スマ・エコ タウン 陽だまりの丘」※分譲済み
「スマ・エコ タウン 陽だまりの丘」の特徴は、街の共有設備として「街かど太陽光発電所(100kW)」が設置されていることです。この100kWの太陽光発電システムのうち10kWは、防犯カメラやなどの街の共有設備の電力として活用するとともに、余剰分を売電しています。残りの90kWは、エネルギー会社と20年間の定期賃貸借契約を結び、街に賃料が入ってくる仕組みとなっています。
これらの売電や賃料による収入は、住宅のメンテナンスや生活支援サービスとして住民のみなさまに還元しています。
また、「スマ・エコ タウン 陽だまりの丘」では、全戸にスマートハウス(スマ・エコ ゼロエナジー)を採用し、6.2kWhの家庭用リチウムイオン蓄電池、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム※)、太陽光発電システムを搭載しています。
これらの住宅設備と共有の太陽光発電システムにより、「エコ」と「快適」が両立したネット・ゼロ・エネルギータウンを実現しています。
「スマ・エコ タウン 陽だまりの丘」では、各戸にEV・PHV用充電コンセントが設置されていますが、街にはこのほか、住民共用の超小型の電動モビリティも備え付けられ、住宅地内での移動手段として利用されています。
- ※ 情報通信技術の活用により、人に代わって住宅のエネルギー管理などを支援するシステムのこと。
出典
- 経済産業省
- ・資料 総合エネルギー統計「平成27年度(2015年度)エネルギー需給実績」
- ・資料 平成 28 年度 「エネルギー使用合理化促進基盤整備委託費(EV・PHV の充電インフラに関する調査)」
- 石油連盟
- ・資料「今日の石油産業2016」
- 総務省
- ・資料「平成25年住宅・土地統計調査結果」EV・PHV所有者の居住状況