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マルサ漆器製造所

“暮らす森”を知ろう

SLOWNER WEB MAGAZINE

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文化・歴史

「型にはまらない」という、伝統を重ね続ける

ロイヤルシティ裏磐梯リゾート/2024.09.27

マルサ漆器製造所

ロイヤルシティ裏磐梯リゾートがある福島県北塩原村や、その西隣の喜多方市は、古くから会津漆器づくりが盛んな場所です。会津に漆工芸が根付いたのは安土桃山時代。当時の領主、蒲生氏郷(がもううじさと)が漆工芸を産業として推奨し、木地師や塗り師の職人やその技術が近江からもたらされました。山々に囲まれ、漆の木や木材が調達しやすい環境のなかで、長きにわたって多くの職人が切磋琢磨し、会津漆器を日本を代表する伝統工芸へと高めていきました。

江戸時代建立の塗蔵を店舗にしたマルサ漆器製造所。1階は展示スペース、2階は工房になっている

喜多方の町には、江戸時代から明治、大正時代にかけて建てられた蔵が数多く残り、今も生活の一部としてその役割を果たしています。明治時代に起きた大火で、焼け野原になった町には蔵の姿だけが残り、地元の人々を勇気づけました。座敷や物置など住まいの一部に使われた蔵から、酒蔵、醤油蔵、味噌蔵など地場産業に結びついた蔵までその用途は幅広く、その中には漆器を保管する漆器蔵や漆器職人の作業場である「塗蔵」などもあります。1912年(大正元年)創業のマルサ漆器製造所でも、江戸時代末期に建立した塗蔵が、今も商品の展示スペースとして使われています。

「地元の漆を積極的につくって、使っていければ、職人にとっても日本にとっても誇りになると思います。お茶の世界で黒漆が最上級として扱われるように、漆の黒は昔から特別なもの。これからもっと黒漆が脚光を浴びてほしいですね」と語る4代目の佐藤達夫さん

マルサ漆器製造所の創業者、幾太郎氏は1908年(明治41年)、12歳の頃に新潟県津川町から喜多方の塗り師のもとに弟子入り。現在の場所で塗り師として独立を果たし、現在4代目の佐藤達夫さんまで漆器づくり一筋に追求されています。蒔絵など華美な工芸品よりも、日常的に使われる食器が盛んにつくられてきた喜多方。マルサ漆器製造所でも、祝い膳に並ぶ蓋付き椀「揃椀」が製作の中心だったといいます。婚礼や生活スタイルの変化に合わせ、達夫さんの父3代目の故・信夫さんは、自らケヤキやトチノキなどの木材を仕入れ、木地にも着手。コーヒーやビールの口当たりを良くする「馬上杯」をはじめ、木地師と一緒にオリジナルの形づくりから始めているのがマルサ漆器製造所の特徴です。

(写真左上)漆の仕入れは主に茨城から。漆は砂鉄を加え、水分を抜いていくと鼠色から透明になるという
(写真右上)塗り刷毛には女性の毛髪が、蒔絵用の筆にはタヌキや猫の毛が使われている。近年、筆や刷毛をつくる職人も激減しているとか
(写真左下)制作途中の塗り箸。漆が垂れないようにタイマーで10〜15分おきに反転させている
(写真右下)塗り板に乗せて行われる乾燥工程。マルサ漆器製造所では、修理の依頼にも対応している

守るべきは守り、未知なるものにも挑む

漆器づくりは、木地づくり、漆の塗り、蒔絵や螺鈿を施す加飾まで、分業制で行われてきました。マルサ漆器製造所ではあくまでも塗りが中心ですが、木地づくりから加飾まですべてを行いながら、マルサ漆器製造所独自の漆器をつくり続けています。達夫さんは作品づくりにも精力的で、日本伝統工芸展では8回入選。一般的な商品をつくる上でも、作品出展はプラスに作用し、盃や馬上杯、盛り付け用途の幅広い長角皿まで、さまざまなデザインの漆器をつくるようになったと語る達夫さん。お店には、マルサ漆器製造所ならではの漆器を楽しみたいというファンも遠方から訪れるそうです。

(写真左上)筍や桜など、一つひとつに季節を描いた「絵付石目塗盃」
(写真右上)先代が色漆を塗り重ね、研ぎ出しして磨いた大椀。桐の木目を感じる
(写真左下)ヤコウガイ薄貝や金粉で、水と風を表現した「螺鈿(らでん)蒔絵片口酒器」
(写真右下)豪華な朝顔文様の箱。蒔絵や螺鈿の技術を駆使している

漆は、植樹から15年経たないと採取できない非常に貴重なもの。特に日本で採れた漆は塗った後も劣化しにくく、長く使うほど器自体を硬くする作用があるとか。木地の木目をより美しく見せ、黒や赤の色に深みや透明感を持たせ、蒔絵などの装飾をさらに見栄え良くする。何度も塗り重ねる作業に、職人の腕が試されます。「一つひとつ階段をのぼるように、ミスをしないように確認しながらやっていかないといけない仕事。偶然の産物は期待できないので、丁寧な仕事を重ねていくだけです」と達夫さんは語ります。

取材撮影/2024年7月30日

マルサ漆器製造所[現地から約33.8km]

マルサ漆器製造所[現地から約33.8km]
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