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コロナ禍の「ニューノーマル」指摘 ~国土の長期展望で中間とりまとめ~
公開日:2020/11/30
「コロナ禍においては、3密を避ける行動が求められており、今後、このような生活様式がニューノーマルとなる可能性がある」
国土交通省は2020年10月に、30年後(2050年)における国土や暮らしの変化と、そこで生じる課題の解決に向けての方向性などをまとめた中間報告書を公表しました。想定外だったコロナ禍での新しい暮らしと働き方、いわゆる「ニューノーマル」に関して言及しているのが注目されます。
テレワークが背を押す「新常態」
国交省の国土審議会が10月にまとめた中間報告書は、審議会内に設置された「国土の長期展望専門委員会」での1年間に渡る議論がベースになっています。このため、新型コロナウイルスの感染拡大に関する項目は今年に入ってからの新たなテーマとなり、想定外の追加項目になりました。
報告書は人口減少や少子高齢化、気候変動と自然災害、技術革新などの外部要因を通じて変化する暮らしや働き方を見きわめ、将来の国土形成に役立てるものです。とりわけ今回は2020年3月以降に国内で顕在化した感染拡大による生活の変化に言及していることが大きな特徴になっています。
国は5月に「新しい生活様式の実践例」として、手洗いや消毒、密集・密接・密閉の「3密」回避の徹底を国民に要請。新たな日常、いわゆる「ニューノーマル」に向けた生活の具体例を示しました。働き方の新しいスタイルとして、テレワークやローテーション勤務、時差出勤など、オンラインの活用の具体例を挙げました。これにより、都心部を中心とした企業の多くが出社を避けて在宅勤務にシフトさせました。
図1:全国及び東京圏の平均テレワーク利用率
国交省「国土の長期展望」中間とりまとめ参考資料より
図2:企業規模別のテレワーク利用率の推移
国交省「国土の長期展望」中間とりまとめ参考資料より
図2は、テレワーク(在宅勤務)利用率の2020年前半における変化を示しています。4月の緊急事態宣言以降、全国的にテレワークの利用率が跳ね上がり、宣言解除後は下火になっていることがわかります。また従業員数で見た企業規模別のテレワーク利用率では、500人以上の企業が高く30人以下の小規模企業は導入が少なくなっています。
テレワークの問題点と課題
4月から5月にかけてテレワークの導入がピークを迎えたころ、ビデオ通信によるネットワーク会議が各企業で盛んになりました。家電量販店でネットワークカメラが売り切れ、価格が上昇しました。各地の販売店で品切れが続出。ネット通販でもネットワークカメラの価格は昨年と比較して2倍、3倍。Wi-Fiなどの無線通信機器も品薄状態でした。
以下のグラフは、テレワークにおける課題について、5月と7月で比較したものです。(1)専用の部屋や机、椅子などの物理的環境(2)通信環境の整備(3)職場に行かないと閲覧できない資料などのネット上の共有化(4)オーバーワークを回避する仕組み、などの課題がありましたが、2か月後になるとそうした課題は解消されたと感じている人が増えているようです。
図1:テレワークの課題
国交省「国土の長期展望」中間とりまとめ参考資料より
また、今回のようなウイルスの感染拡大に遭遇した経験が少ないため、不測の事態と想定しづらく、近年導入企業が増えたといわれるBCP(事業継続計画)の中にも、今回のような事態を想定することが難しいとの意見があります。
地方移住は進むのか?
テレワークの成果については当初、懐疑的な意見を持つ人は少なくありませんでした。しかし、導入してみると意外にも仕事ははかどるものだとの感想を抱いた人もまた少なくありません。「想像以上にできるじゃないか。これなら、コロナが終息しても、しばらく継続してみよう」と考える人は増えているのではないでしょうか。
そうなると、仕事のために通勤圏内に住まいを持っている人たちは、都心部に住む必要性を感じなくなり、地方への移住を望む人が増加するとの観測が浮上してきました。以下のグラフはコロナの前後で仕事や住まいに対する考えの変化を聞いた回答ですが、テレワーク経験者ほど、生活を重視するとの見方に変化する人が増加しています。
図4
国交省「国土の長期展望」中間とりまとめ参考資料より
また地方移住への関心度合いはテレワーク経験者ほど高く、転職や副業など就業、就労の希望を望んでいることがわかりました。
不動産への影響は大きい
コロナ禍によるテレワークの増加によって、不動産に対する意識がかなり変わり、影響は決して小さくありません。賃貸不動産では、営業自粛要請による休業や時短営業を強いられているテナントも少なくなく、今後、状況が大きく変わる可能性もあります。入居者のオーナーに対する家賃減免の要請や在宅勤務の増加に伴う稼働率の低下も出てくるでしょう。
テレワークの普及は地方移住を促す可能性がありますが、その一方で都心部のオフィスビルや商業施設では空室が長期化するとの懸念も生まれています。コロナを機に出てきた新たな生活様式「ニューノーマル」の行方が、今後の不動産業界の動向を左右しそうです。