CREコラム・トレンド
全国に拡大するスマートシティ事業
公開日:2021/09/30
AIやIoTなどデジタル技術を活用してまちづくりにおける課題を解決し、新たな価値を創り出して生活の質向上を目指す都市計画「スマートシティ」が全国に広がっています。2021年度は新たに5つのモデルプロジェクトの実証実験が国の支援対象に加わりました。
スマートシティとは何か
スマートシティとは、人口減少や高齢化、頻発する災害や感染症リスクなど、今後深刻化すると危惧される多くの社会課題に対し、デジタル技術や各種のデータを駆使して解決に導こうとする都市計画、まちづくり構想のことです。課題解決の過程では物流や医療、教育など多方面で新たな価値が生まれるものと期待されています。端的に言えば、新たな技術を生かして住みやすい都市を作ることです。
都市計画ですから国や自治体などの行政機関が主導的な役割を果たすケースが目立ちますが、スマートシティの実現に向けては、長期的なスパンで時系列に課題とその解決策などを整理しながら段階を追って推進していくことが求められます。そのためには、シンクタンクやコンサルティング会社など都市再開発事業などで知見があり、実績を上げている民間の専門人材の協力や、地域特有の社会課題に取り組んでいる住民団体などとの連携が欠かせません。
内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省の4省で構成する「スマートシティ官民連携プラットフォーム」は、2021年4月にまとめた「スマートシティガイドブック」でスマートシティの進め方として下図のようなチャートを提示しています。
図1:スマートシティの進め方
出典:内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省スマートシティ官民連携プラットフォーム「スマートシティガイドブック(概要版)第1版(ver.1.00)(令和3年4月9日更新)
スマートシティは世界各国で展開されており、行政分野の大半で電子化を推進している北欧のエストニアや、道路交通情報をAIで分析し交通取り締まりや渋滞緩和につなげている中国・杭州の例などがあります。また、スマートシティと類似した都市計画構想に「スーパーシティ」があります。2018年に内閣府が打ち出したスマートシティの1つの類型で、住民が参画し2030年頃に未来社会を実現することを目標にした構想です。2020年の国家戦略特別区域法に基づき、「(1)生活全般にまたがる複数分野の先端的サービスの提供、(2)複数分野間でのデータ連携、(3)大胆な規制改革」を主なポイントとしています。
図2:スーパーシティ構想
出典:内閣府地方創生推進事務局「スーパーシティ」構想について(2021年8月)
スマートシティは物流や医療などの分野で先進技術を活用するものですが、スーパーシティは多くの分野を貫くプラットフォームを作ろうとする構想です。スーパーシティでは都市機能全体の「最適化」を狙いとしているので、AIとデータ連携が重要な要素になります。
国は2019年度からスマートシティ事業の牽引役となる先駆的な取り組みや早期の事業化促進に対して財政支援や直接的なコンサルティングを実施してきました。2021年度はスマートシティの先行モデルプロジェクトに会津若松市など5つの実施地区を選びました。既に22の事業が選定されており、これで27の実施地区が国の支援を受けてスマートシティを推進していくことになります。会津若松市のスマートシティ事業を見てみましょう。
会津若松市のスマートシティ
会津若松市は福島県西部の会津地域の中核都市の一つ。市の調査によれば2021年8月1日現在、人口は116,171人。県内ではいわき市、郡山市、福島市に次いで第4位の人口があります。同市がスマートシティを目指した最も大きな理由は、少子高齢化によって進行する地域の衰退を食い止めて活力ある都市に生まれ変わることにあります。
図3:少子高齢化で会津若松市が抱える課題
出典:会津若松市「スーパーシティ構想への挑戦」(2021年2月12日時点)
市の推計によれば、今のペースで人口が減っていくと2040年には人口10万人を切り、2060年には6万6000人にまで減ると予想しています。その時の高齢化率(65歳以上の人口割合)は46%に達し、2020年4月の高齢化率(約31%)を大きく上回ります。これを企業誘致や市内の会津大学卒業生の就業を推進して生産年齢人口を増やすなどして人口10万人程度の維持を目指しています。
会津若松市は、人口減少に歯止めをかけて地域の活力を維持し、情報通信技術(ICT)をさまざまな分野で活用するスマートシティの取り組みを2013年から展開。「しごとづくり」「利便性向上」「見える化」にわけて取り組んできました。
図4:「スマートシティ会津若松」の目的
出典:会津若松市「スーパーシティ構想への挑戦」(2021年2月12日時点)
「しごとづくり」では2019年4月、ICT関連企業が一堂に会することができる拠点「スマートシティAiCT(アイクト)」を開所。オフィス棟・交流棟を設けてそこに最先端企業を集積させ、地元企業や市民と交流できるようにしました。会津大学は1993年に会津若松市で開学した日本初のコンピュータ理工学専門の公立大学で、大手IT企業への高い就職内定率を誇るなど、近年注目されている大学の一つです。農業分野では2種類の自律飛行型ドローンを使った生育状況診断や肥料・農薬を散布する「栽培支援ドローン」が活躍しています。
「利便性向上」では、母子健康手帳の電子化やオンライン診療、遠隔健康相談などICTの活用が目立ちます。「見える化」では除雪車にGPS端末を搭載して除雪車の稼働状況を知らせます。またスマートフォンやパソコンで路線バスの時刻や乗り継ぎ、運賃の検索などもできるようにしました。
会津若松市のスマートシティ事業においては、大手コンサルティング企業が関与したことにより、国内外のIT大手企業が進出しているようです。地方の自治体では困難な企業誘致に重要な役割を果たしており、スマートシティ事業における官民連携の好事例といえるのではないでしょうか。