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コラム No.127

CREコラム・トレンド

家屋の被害認定で「迅速化」の動き

公開日:2022/02/28

地震や台風、豪雨で被災した住宅の「被害認定」で、国は不動産鑑定士など専門家の知見を得て罹災証明書を発行する体制づくりを進めるとの報道がありました。近年は大規模自然災害が毎年のように頻発しています。民間と協力して被災の判定が早期に認められれば、被災者の生活再建もより早く実現するのではないでしょうか。

災害支援に不可欠の罹災証明書

自然災害によって被災した家屋を復旧するには相応の経費がかかります。またその間、雨水や土砂、ひび割れなどで生じた住宅周辺の清掃に時間を取られて日常生活は一変。仕事に行けなくなり、資金不足にも陥ります。そこで公的な経済支援を申請することになりますが、被害の程度を判定する罹災証明書が必要になります。

罹災証明書は市区町村が担当する自治事務のひとつとして各自治体が申請を受け付け、1カ月以内に被害調査を実施して被害の程度を記載した証明書を遅滞なく交付すると災害対策基本法に規定されています。罹災証明書は被災者支援策を適用する際の判断材料とされており、給付金や仮設住宅、税の減免など幅広い支援が受けられます。

内閣府「災害に係る住家の被害認定業務実施体制の手引き」より

被災の程度を示す判定区分は2021年時点では全壊から一部半壊まで6段階に分けられています。なお、被害調査では経済的被害を対象とした「損害基準」のほかに住居の損壊や焼失、流出した面積を調べる「損壊基準判定」もあります。また被災者生活支援金は新たに住宅を建設するか、修理するかなど再建手段によって加算金が異なります。

内閣府「災害に係る住家の被害認定」より

内閣府「被災者の住まい再建制度に関する近年の改正について」より

調査は自治体の担当職員が申請のあった家屋を訪問して外部や内部を写真撮影し、調査票に記入して損害の程度を判定します。2011年に発生した東日本大震災以降はスマートフォンで撮影した画像を被災者自身が提出する「自己判定方式」が導入され、また2018年からは自治体の調査で航空写真を活用できるようになりました。これは、自治体の調査員が被災家屋の調査で二次災害に遭わないための措置といわれています。

被災時の対応は自治体だけでは限界

スマートフォン画像や航空写真の導入など罹災証明書の迅速化は進んでいます。2016年の熊本地震や2018年の北海道胆振東部地震でもこうしたデジタルによる迅速化の効果は出ました。しかし十分とは言えない側面もあります。

その一つの原因は、調査にあたる自治体職員の業務負担です。罹災証明書は2013年の災害対策基本法の改正前までは法令上の明確な位置づけはなく、自治体の事務の定めにとどまっていました。しかし2011年の東日本大震災で被災者支援が遅れたことを教訓に、平時から自治体は罹災証明など必要な業務の体制を確保するよう市区町村長の義務として災害対策基本法に明記されました。しかし自治体の財政はどこもひっ迫しており、有事の際の事務に人員を増やす予算はありません。

一方、不動産鑑定士や土地家屋調査士、建築士などの団体やその地域支部は、住居や土地に関する専門家として災害時にボランティアで自治体の被害調査を支援しています。こうした活動は報道で目にすることが少なく、一般にはあまり知られていいないようです。

例えば、東京都不動産鑑定士協会は広報紙「かんてい・TOKYO」(2020年1月発行)のなかで、2019年に発生した「九州北部豪雨災害」などでの支援活動を公表しています。それによると、同年9月に被災者のゾーニングに基づいた調査方針や罹災証明書の発行形式、被災者台帳の整備、職員に対する調査方法や実施体制のレクチャーなど主導的に支援した、と報告しています。

埼玉土地家屋調査士会は2018年9月、埼玉県草加市との間で「災害時における家屋被害認定調査における協定」を結びました。大地震などの災害が発生した場合に、迅速な家屋被害認定調査と罹災証明書の交付に関する市民相談など、罹災証明書のスムーズな交付体制を整備する狙いがあります(草加市ホームページより)。こうした自治体と民間の専門家の協力は各地で見られますが、国としての体制整備は遅れているのが実情です。

罹災証明は専門的な知識が求められます。前述したように、財政が苦しい各自治体で専門人材の育成を図るには限界があります。また被災した人にとって、当面の課題は住居にとどまりません。罹災証明を活用した融資や税金の減免などは税理士や行政書士など仕業の手を借りることができれば、早期の申請および交付に繋がります。いわゆる二重ローンなど債務返済の問題も生じますし、損害保険の手続きも出てきます。被災すれば一気に多くの難題に突き当たります。自治体への相談もまた増えることになります。

自治体が被災時のすべての事務対応を担うことには限界があります。やはり民間の専門家の支援を前提にした枠組みを早急に作る必要があるでしょう。内閣府は東日本大震災以降、2012年から「災害に係る住家の被害認定に関する検討会」で被害認定の迅速化などについて議論しています。近く民間の関係団体との間で協議を行い、自治体の被災時における事務について専門家の知見を導入する具体案を取りまとめていくものと思われます。

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