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コラム No.136

CREコラム トレンド

機運高まる「ウッド・チェンジ」とは?

公開日:2022/09/30

環境保護や長引くコロナによる生活様式の変化などを背景に、わが国の伝統的な建築手法である「木造」がこのところ大きく見直されています。
高層ビルにも採用され始めており、価格高騰でも注目を浴びている木材の利用への回帰(ウッド・チェンジ)が高まっています。

人工林の過半数が主伐期を迎えている

わが国は国土の6割を森林が占める世界でも有数の森林大国で、木材の生産目的のために人の手で育てられている人工林が約4割、自然の力で生育した約5割の天然林と約1割の竹林などで構成されています。このうち人工林の多くが50年以上を経過し、主伐期(伐採の適齢期)を迎えています。
利用することを前提に育成した人工林は、生育・保護のためには適切な時期に伐採して使い、また植えて育てるサイクルを守ることが不可欠ですが、わが国の人工林は適齢期に刈り取られていないために木が高齢化して大きくなりすぎ、住宅用木材としては太すぎて製材が難しくなっています。このため用途が少なく値崩れを起こし、伐採しても採算が取れないので放置される悪循環に陥っています。
そこで国が率先して公共建築物に木材を利用し林業の持続的な発展を図るため2010年、「公共建築物等木材利用促進法」が施行されました。
この結果、翌年から公共建築物の木造率は低層の公共建築物で20%を超えるようになり、木材利用の取り組みが進んでいます。

図1:公共建築物の木造率の推移

出典:林野庁「森林を活かした都市等のウッド・チェンジ」(ハンドブック ver.3)

木材利用促進で法改正と協議会設立

「公共建築物等木材利用促進法」は、2021年、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改正されました。2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」実現のために着実に間伐( 間引き)を行い、「伐って、使って、植えて、育てる」という資源の循環利用を進め、人工林を再造林して木材利用を拡大することが有効との判断です。
また、森林はCO2を吸収し固定すると同時に、木材として建築物などに利用することで炭素を長期間貯蔵することができます。省エネ資材である木材や木質バイオマスのエネルギー利用などは、CO2排出削減にも寄与します。さらに国(林野庁)は民間の建築物において木材利用を一層拡大させるため、2021年に「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会」(通称:ウッド・チェンジ協議会)を立ち上げました。
ウッド・チェンジとは、身の回りのものを木に変えたり、木を暮らしに取り入れたりすること。または建築物を木造化・木質化するなど、木の利用を通じて持続可能な社会に移行する行動を指します。

注目される木造ハイブリッド建築

もともとわが国の住居は木造が主流でしたが、経済成長とともに欧米風の生活様式が定着して木造住居の良さを忘れてきた感がありました。しかし、環境保護意識の高まりや長引くコロナにより室内で暮らす時間が増えたことで、「木のぬくもり」を再評価する機運が高まってきました。ただ、木材の利用促進のためには、木造率が低いとされる中高層建築物(高さ10メートル以上)や低層非住宅建築物(平屋や2階建ての小規模な店舗や事務所)などの建築物の木造率を高める必要があるといわれています。
近年木造建築の技術開発は急速に進展しており、特に注目を浴びているのがCLT(直交修正板)などを用いたハイブリッド建築です。CLTとは「Cross Laminated Timber」の略で、ひき板を並べた後に木の繊維の方向が直角に交わるように積層接着した木質系材料のこと。厚みのある大きな板で、建築構造材や土木用材、家具などにも使われています。CLTは耐震・耐火のほか断熱性や過熱性、遮音性に優れており、工場内で一部の材料を組み立てて現場に搬入するプレハブ化にも適しています。このため施工工期の短縮に寄与します。

課題はコストと技術開発

CLTを使ったパネル工法はツーバイーフォー以来40年ぶりの新木造工法といわれていますが、一般社団法人日本CLT協会が2017年に作成した「これを読めばわかるCLT」によれば、1m3あたりの価格が150,000円程度で他の材料と比べると割高で、価格競争力の点で見劣りしています。
木材の良さを再認識し普及させる「ウッド・チェンジ」は、国産木材の建築物利用を軸に展開していくと見られますが、利用促進のためには2021年ころから陥っているいわゆる「ウッドショック」を見るまでもなく、木材の高コストを解決しなくてはなりません。森林資源の保護と持続可能性への追及に異を唱える人は少ないはずですが、RC造や鉄骨造と比べて安価で生産性が高いとはいえないでしょう。
またさまざまな「耐久性」の点でも急速に改善されているとはいえ、自然が生んだ材料のため安定的な供給の点では他の材料を凌ぐとはいえません。高強度の樹脂に改良したり、他の材料と組み合わせた「ハイブリッド材料」への模索を続けていく必要があります。

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