待ったなし「物流の2024年問題」
公開日:2023/03/31
建設・医療などとともに時間外労働の上限規制猶予の対象だった物流業界は、2024年4月から規制の適用を受けることになります。慢性的なドライバー不足に悩む業界における「残業」規制は、荷主や一般の利用者にも影響が及ぶと考えられており、その行方が注目されています。
働き方改革による待遇の是正と改善
2019年4月に施行された「働き方改革関連法」は、①労働時間の是正、②正規・非正規間の格差解消、③多様で柔軟な働き方の実現、を3本柱に据えています。少子高齢化が進んで労働人口が減少すれば生産性が低下して経済が停滞しかねない、との懸念があるからです。
このため国は長時間労働を減らし、就業形態による格差をなくして仕事と生活のバランスを保つことで、生きがいを感じる働き方を推進することにしました。
全産業の中でも中小零細企業数が多い建設業や人命に関わる業務で専門知識を要求される医療業界、担い手不足の物流業界は、長時間労働が恒常化していることから、一気に是正するのは困難だとして猶予期間が設けられていました。その猶予期間が1年後に失効するため、是正に向けての課題がいま浮き彫りになっており、「物流の2024年問題」と呼ばれています。
具体的には、自動車運転業務は2024年4月から年間の時間外労働に960時間の上限規制が適用されます。一般的な時間外労働の上限は年間720時間ですから、ドライバーの労働時間がいかに長いかが分かります。ただ関連法は「付則」で、ドライバーも将来は720時間規制に移行する可能性を示唆しています。また、月間60時間超の時間外労働に対しては50%の割増賃金が課せられます。1日換算で約2.7時間。「年間960時間規制」では1日3.6時間以上の時間外労働は法令違反で許されないうえに、1日3時間弱の残業に従来比1.5倍の手当の支給が義務化されるのは、物流会社など関係者にとっては悩ましい問題です。
高い平均年齢 EC市場拡大で混沌
こうした働き方改革は運転手の雇用環境改善につながりますが、一方で労働時間削減によって収入減が生じ、ひいては離職率が高まるのとの指摘があります。そうなるとドライバー確保のため給与など待遇面をさらに向上させるため、その原資を捻出する狙いで運賃値上げに繋がり、荷主はそのコストを最終消費者に価格転嫁して送料が高くなる、という循環に陥る可能性があります。
図1
出典:国土交通省 第2回持続可能な物流の実現に向けた検討会
資料:「トラック運送業界の2024年問題について」(2022年10月6日 公益社団法人 全日本トラック協会)
トラック業界の年間平均所得(図1)は、2021年度で大型車は463万円、中小型車で431万円。全産業平均(489万円)と比べるとそれぞれ26万円、58万円低くなっています。年間労働時間で見ると、大型車のドライバーは全産業平均の約1.2倍、運転手の平均年齢は他の産業と比べて3歳から6歳程度高くなっています。
ドライバーの待遇が上向かない原因のひとつは運賃にあります。1990年に貨物運送事業法ができ、規制緩和によって物流業者が一気に増えました(図2)。競争の激化により運賃のダンピングが始まります。運賃値下げのあおりを受けたのが運転手。さらにコロナ禍でのインターネット通販による宅配便の激増で、再配達などの重労働化にも拍車がかかりました。一般貨物はコロナ禍で荷量が落ちていましたが、その後復調の気配を見せており、EC市場は今後も拡大発展が見込まれるなど、物流業界は宅配便を中心に混沌とした状況にあります。
図2
出典:経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取り組み状況」(2022年9月2日)
最大の解決策は送料無料「信仰」をなくすこと
物流業界は建設業界同様、重層的な下請け構造になっています。近年は物流の総合的な業務委託である3PL(Third Party Logistics)が普及しはじめて、荷主と物流会社の間に多くの協力会社が介在し複雑な取引構造になっています。多くの業者が関係するため業者間の対話は生まれにくく、賃金改定の余地が少ないのが実情です。
荷待ち、荷役作業の問題も避けて通れません。ドライバーは荷主や物流施設の都合で待機時間があります。荷物の積み下ろし待ちや指示待ちの時間も含まれており、ドライバーの長時間労働の一因になっています。
物流2024問題を一気に解決する妙案はありません。まずは業務効率化を促進することが求められます。例えば物流センターの荷待ち時間解消として、バース予約管理システムの導入が挙げられます。「バース」は荷下ろしする場所のことで、物流施設において多くのトラックが待機する場所。長時間労働を生み、輸送コストを引き上げる一因になっています。バースへの入庫をシステム管理してスムーズな積み卸しを実現し、コスト軽減を図ります。また、海陸併用のモーダルシフトや効率的な良い積み付け計画システム、パレット輸送の採用なども物流業界で検討されています。
しかし最大の解決方法は、消費者自身が「送料」に対する考え方を変えることだという意見もあります。買ったものが届くまでのコストは、流通経路においてそれぞれの当時者が応分に負担するべきではないかということです。送料無料は荷受け側にとっては嬉しいことですが、物流が滞るようになっては元も子もありません。