ライドシェア事業解禁がもたらす不動産への変化とは?
公開日:2024/06/28
一般のドライバーが自家用車で送迎する「日本版ライドシェア」事業が4月、一部の地域で解禁されました。新型コロナウイルス感染症の5類移行後、インバウンド需要が急回復、観光地ではタクシー供給が不足しています。地方では少子高齢化で公共交通事業が低迷して移動の足が奪われています。バス・タクシーのドライバー不足解消の一助として創設されたライドシェア事業は不動産業界にも影響を与えるとの指摘が出ています。
2015年に実証実験がスタートしていた
配車アプリを使って利用者を目的にまで送り届けるライドシェアの歴史は、アメリカの新興IT企業であるウーバー・テクノロジーズが2010年にサービスを開始。タクシーに比べて割安な運賃が受けて、世界的に普及していきました。わが国では2015年に福岡市で実証実験が始まりましたが、無許可のタクシー事業行為は道路交通法に違反する恐れがあるとして国土交通省が中止するよう指導し、実験は停止しました。その後も各地で実証実験がありましたが、自家用車を有償で活用するライドシェア事業は解禁には至りませんでした。
しかし、行動制限緩和後のドライバー不足や公共交通機関の少ない過疎地での交通サービス網対策、さらには大阪万博(2025年開催)における移動の足を確保したい大阪府の意向などを背景に注目度が増しました。また菅義偉前首相の後押しもあって、昨年から急速にライドシェア事業の解禁がクローズアップされました。そして2023年12月、政府のデジタル行財政改革会議でライドシェアの一部解禁を促す戦略が盛り込まれ、今年4月に一部解禁の運びとなりました。
都市部と地方部では制度の立て付けが異なる
わが国のライドシェア事業は、都市部と地方部で事業認可における法律や制度の立て付けが異なります。都市部では、東京や神奈川など一部の地域で限られた時間帯でサービスが始まっていますが、これは道路交通法で「公共の福祉を確保するためにやむを得ない場合に限って行う措置」(第78条第3号)のもとに「自家用車活用事業」を創設したものです。タクシー運転手に義務付けられている地理試験と初任研修の期間要件を廃止し、タクシー事業者の管理下でライドシェアのドライバーを育てる仕組みです。
もうひとつは地方の交通空白地における「自家用車有償旅客制度」です。NPOなどが運営主体になり、バス・タクシー事業者に委託して送迎サービスを行います。この制度は従来からありますが、昨年にタクシー運賃の約8割まで徴求できるようになり、今年4月からは時間や状況に応じて、上限と下限を5割とするダイナミックプライシング制(変動料金制度)が導入できるようになりました。
そして6月、デジタル行財政改革会議は日本版ライドシェアに関して今後、IT事業者などに参入を認めるかどうかなど「全面解禁」については検討していくと明らかにしています。
駅近賃貸住宅の価格に異変、ライドシェア付帯の賃貸物件登場も
日本版ライドシェアは、今後本格化すれば多くの業界に影響を与える可能性があります。不動産賃貸施設は、利便性の観点から駅からの距離によって賃料に差が生まれます。駅に近い部屋ほど賃料は高く、遠くなるにしたがって割安な家賃になります。しかしライドシェアが恒常的に利用できれば、駅からの所要時間が短縮されて、遠い物件でも、「より利便性が高まる施設」になる可能性があります。また、ライドシェアによって不動産賃貸住宅の利便性が向上すれば不動産投資としての魅力が高まり、不動産投資にとって追い風となるかもしれません。ライドシェア利用が付帯した不動産賃貸住宅が登場する可能性もあります。
前述したように、わが国のライドシェア事業は、都市部では既存のタクシー業界との共存を目指しての事業展開になりますが、ライドシェア事業への参入条件が緩和されれば、不動産関連企業がタクシー会社と業務提携してライドシェア事業を運営することも考えられます。地方におけるライドシェア事業は、自家用車有償旅客制度を活用する仕組みですが、過疎地特有の空き家物件を有効活用するため、ライドシェアを利活用したリノベーションが始まる可能性もあるでしょう。
また、ライドシェアが普及すれば自動車の保有者が減少し、駐車場の需要が低下して遊休不動産が増加、不動産開発に刺激を与える可能性もあります。シェアリングエコノミーは徐々に進んでおり、ライドシェア事業が広範囲に展開されれば、不動産開発計画に少なからず影響を与えることは間違いありません。
今後ライドシェア事業の解禁では、参入事業者の拡大が焦点の一つになります。不動産関連の事業者が新規参入できるようになれば、不動産業界で新たなビジネスの潮流が生まれる可能性があるのではないでしょうか。