不動産証券化資産が堅調に増加~2023年版土地白書が公表~
公開日:2024/07/31
国土交通省は令和6(2024)年版の「土地白書」を公表しました。土地白書は土地に関する動向や政府の基本的な土地政策を示すもので、毎年国会に報告されています。白書が示す不動産投資市場の動向を見ていきます。
2030年までにリート・不動産特定共同事業で40兆円を目標
不動産証券化は、不動産投資信託(リート)や不動産特定共同(不特)事業、資産流動化による特定目的会社方式(TMK)と匿名組合方式(GK-TK)スキームなどがあります。国土交通省では、2030年頃までにリートと不特事業の総額で約40兆円を目標設定していますが、2023年3月末時点で約29兆円(取得価額ベース)となっています。
図1:不特事業とリートの資産総額の推移
出典:令和6年版「土地白書」を元に作成
東京証券取引所に上場している不動産投資信託「Jリート」は2001年に市場が開設されました。当初3年間は売買取引が停滞しましたが、2004年から上昇機運になり、10年後の2014年に10兆円を突破、2023年には22兆円と資産残高は増加しています。2010年に運用開始された私募リートは昨年時点で5兆円台、不特事業は同じく1兆円台とやや伸び悩んでいるようです。
Jリートは2023年12月末現在で58銘柄が東京証券取引所に上場されており、時価総額は約15.4兆円。Jリート市場全体の値動きを示す東証REIT指数の動向は、投資市場全体の動向からも影響を受けるといわれており、2023年は1,800ポイント前後で推移しています。2023年のJリートの売買動向を購入金額割合でみると、「海外投資家」(69.2%)、「投資信託」(11.9%)、「国内個人投資家」(9.1%)、「金融機関」(7.6%)、「事業法人」(1.3%)、「証券会社」(0.6%)、「その他法人など」(0.4%)。海外投資家が7割近くを占めており、彼らの動向がJリート市場に与える影響は大きいものがあります。
取得した不動産資産の用途別割合は、「事務所」(26.1%)、「倉庫」(21.0%)、「住宅」(20.2%)、「商業施設」(10.3%)、「ホテル・旅館」(3.5%)、「ヘルスケア施設」(2.0%)などとなっています。
図2:リートなどの用途別資産取得額の割合
出典:令和6年版「土地白書」
鉄道・ゼネコンが私募リートに参入も
伸び悩んでいる私募リートですが、鉄道会社やゼネコンなど不動産を数多く抱えている企業の一部で、私募リートによる運用事業に参入する動きがあります。不動産価格が上昇していることを受けて、証券会社や信託銀行が新たな収益源を確保したい企業に運用事業を提案しているとの報道があります。
九州地区のある私鉄大手は2024年3月、不動産私募ファンドを組成して資産運用事業に参入。保有する不動産の流動化を目指して私募リートの組成にも乗り出すとの指摘があります。私鉄各社は沿線の不動産開発ノウハウがあり、アセットマネジメント事業に関与していきたい意向のようです。
海外投資家による不動産の購入額を表すインバウンド投資額は、2023年通年で5758億円。前年の8536億円と比べて約33%減少、国内不動産投資額に占めるインバウンド投資額の割合は17%となり、2022年通年の26.1%から縮小しています。2022年における投資家の国別投資額の割合は米国が最も高く、全投資額の34%を占めています。ただ投資額は対前年同期比では21%減少しています。これに対して投資額の対前年同期比では「香港」(324%)、「英国」(251%)、「フランス」(241%)など、一部の国または地域での顕著な増加がみられます。
好不調の波がある不特事業
不動産特定共同(不特)事業は、事業主が複数の投資家から資金を集め不動産売買や賃貸取引で得た収益を投資家に分配するビジネス。少額の資金で不動産投資を始められる不動産投資の手法として、一般の個人投資家からの関心が高まっています。
2022年度の組成案件数は540件、出資額は約2715億円となり、いずれも前年度から増加しています。そのうち、2017年度に創設された電子取引業務を活用した不動産特定共同事業(不動産クラウドファンディング)は2022年度の組成案件数は419件、出資額は約604億円で、いずれも前年度から増加しています。
図3:不動産特定共同事業の新規案件数及びその出資額の推移
出典:令和6年版「土地白書」
不動産クラウドファンディングが解禁された2017年から、不特事業の案件数が急上昇しています。これは不特事業の参入条件が資本金1億円以上から1000万円に大幅に引き下げられ、事業の担い手が増えたためと思われます。これにより不動産商品の小口化に拍車がかかり、出資者を集められる企業が増加しました。ただ小口の出資が多いために、出資額は案件数の増加に比例して伸びてはいないようです。
不動産業向け貸出、2023年に過去最高
銀行などによる不動産業向け新規貸出は、日本銀行「貸出先別貸出金」によると2023年は前年から増加し14兆3755億円。不動産業向け貸出残高は引き続き増加傾向が顕著で、2023年は過去最高の100兆743億円を記録しています。
図4:不動産業向け新規貸出の推移
出典:令和6年版「土地白書」
不動産証券化市場は海外投資家が熱い視線を注ぐJリートが8割近くを占めて牽引。不特事業は好不調の波がありますが、近年は不動産クラウドファンディングにも注目が集まっています。また私募リートは新たな収益源として不動産を多く抱える企業で取り組みが強化され始めています。