マンションで進む「2つの老い」
公開日:2024/11/29
経年による住居の老朽化と居住者の高齢化は「2つの老い」と呼ばれ、とくにマンションなどで進行していると言われています。管理組合役員の担い手不足や建て替え時の合意形成の困難さなどの課題が山積しており、国も早急に対策を打つ必要があると判断。専門委員会を再開し対策を協議し始めています。
経年化と高齢化
国土交通省の調査によると、2023年末時点におけるマンションストック総数は約704.3万戸。これに2020年の国勢調査による1世帯当たりの平均人員2.2人をかけると約1500万人となり、国民の1割強がマンションに居住していると推計されています。「ストック」とは居住の有無にかかわらず現存する建築資産の合計のこと。マンションは共同住宅の代表格で、わが国で最も普及している居住建築物のひとつです。
図1
国土交通省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より作成
2023年末現在、築40年以上のマンションは137万戸(国土交通省調査)。10年後に274万戸、20年後の2043年には464万戸となり、経年化が進むと見られています。一方、70歳以上の住戸(マンション入居者の専有部分)の割合は築30年超のマンションで37%、築40年以上で55%。高齢化が顕著になっています。1970年後半から1980年代は比較的順調に経済成長を遂げてきた時代です。こうした調査の数値を見ると、この時代にマンションを購入した世代が40年を経て住宅ローンを完済して高齢になり、終の棲家としてマンションに住んでいる実態が浮き彫りになっています。
マンション住民の居住意識も変化しました。1980年に「いずれは住み替える」と考えていた人は57%、「永住するつもり」と答えた人は21.7%でした。しかし2018年は住み替え派が17.1%、永住派は62.8%と逆転しています(国交省 2020年「今後のマンション対策のあり方に関する検討会とりまとめ」)。
4年半ぶりにマンション小委員会開催
わが国で最も普及している住居であるマンションに関して、国はこれまで様々な対策を講じてきました。議論の中心になったのは、社会資本整備審議会の住宅宅地分科会「マンション政策小委員会」。2019年から2020年にかけて4回の議論を重ねて報告書(とりまとめ)を公表しました。このほど4年半ぶりに小委員会が開催され、「とりまとめ」を土台に議論を再開し、2025年1月~2月頃に新たな報告をまとめる意向です。
今回の検討課題は、①マンション管理適正化を促す仕組みの充実②多様なマンション再生のニーズに対応した事業手法の充実③地方公共団体によるマンション管理適正化・再生円滑化への関与の強化・充実-の3点。2020年にマンション管理法が改正され、一定の基準を満たすマンション管理計画にお墨付きを与える「マンション管理計画認定制度」がスタートしました。2022年4月の改正法施行後、認定実績は2024年9月末時点で1,253件。件数は増えていますが、マンションストック全体に占める割合は1%程度と低水準となっています。
マンション居住者の高齢化は、管理組合役員の担い手不足を生んでいます。このため近年はマンション管理業者が管理者となるケースが増加していますが、管理業者による外注に対しては管理組合と管理業者の利益相反を指摘する向きがあります。大規模修繕などで、マンション側の理事長が自身の経営する工事会社に発注するなどの例をさしますが、こうした利益相反を生まないための第三者監査の導入が検討される模様です。
修繕積立金と区分所有法改正
長期修繕計画を定めて修繕積立金を積み立てているマンションのなかで、現在の修繕積立額の残高が、長期修繕計画の予定積立残高に対して「不足していない」と回答したマンションは約40%にとどまっています。長期修繕計画は5年ごとなど定期的に見直しているマンションが約63%で、約37%は定期的な見直しがされていません。
図2
国土交通省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より作成
マンションは、外壁や通路などの共有部分を修繕する場合、その方法を巡っては「区分所有法」で管理組合の決議によるとされています。共有部分の簡易な修繕は住民の過半数、それが大規模であれば4分の3以上、マンション自体の建て替えになると5分の4という高いハードルが待ち構えています。共有財産であり、居住者の経済的負担は多様ですから致し方ありません。
図3
国土交通省「マンションを巡る現状と最近のマンション政策等の動向」より作成
しかし、こうした高いハードルにより、2023年3月までに建て替えなどが実施されたマンションは、わずか282件。2014年にマンション建て替え円滑法による規制緩和でも年間10件ペースです。そこで区分所有法を見直し、マンション再生の多様なニーズに対応した新たな決議が創設される予定です。例えば、管理組合の会議で出席者の多数決による決議を可能とすることや、一定の要件に該当する場合には決議の多数決割合を引き下げるなど、管理組合法人の設立要件の緩和や建替え決議などの要件緩和が行われる模様です。