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「不特法」改正で地方の不動産再生が加速
公開日:2018/01/31
不動産を小口化し投資商品として販売する「不動産特定共同事業法」の改正法が昨年12月1日に施行されました。改正により、地方の小規模不動産業者が不動産証券化を活用して再生事業に参入する道を拓くことになりました。
2度目の改正となった不特法
「不動産特定共同事業法」(以下、不特法)は1995年、銀行の不良債権処理と地価の下落によって不動産売買市場が冷え込み景気低迷が長期化したことから、その打開策として打ち出された不動産市場の活性化策です。盛んな売買が行われるよう、不動産を小口化し投資商品として販売する新たな担い手を育成するために制定されました。
ところが、不動産特定共同事業の許可を受けるには、宅地建物取引業いわゆる宅建免許が必要なことから、不動産証券化の担い手であるSPC(特別目的会社)は事業主体になれませんでした。このため不動産を信託受益権にすることで宅地取引の世界から切り離して金融商品にかたちを変え、不特法の適用を避ける仕組みが取られていました。
2013年にSPCで不動産特定共同事業を営むことができるよう、法改正が行われました。SPCが不動産特定共同事業の免許を持つ会社(宅建免許を持つ会社)と契約を結んで事業を委託し、銀行や信託銀行などの機関投資家を事業参加者として組み入れることなどを条件に特例を認めたのです。
しかし2013年の改正では、銀行などの機関投資家が絡む取引に限定されたSPCだけが不動産特定共同事業に参入できるに過ぎず、大手の不動産業者はこうした特例の恩恵にあずかることはできても、中小の不動産事業者には高い参入障壁として残りました。そこで、2017年の第2次法改正では、小規模の不動産業者に事業参入への道を開け、インターネット時代に即した資金調達手段を認めるなどの措置を講じました。
参入障壁下げる法改正 ポイントは3つ
法改正は、規模の小さい空き家再生などを中小の不動産業者が参入できるよう、取引の範囲と担い手を拡充するのが最も大きな狙いです。また、インターネットによる新しい資金調達手段であるクラウドファンディングの取り扱いを認めました。
不動産特定共同事業法改正 | ||
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改正法の概要 | 1 | 空き家や空き店舗の再生・活用事業に地域の不動産事業者が幅広く参入できるよう、出資総額が一定規模以下の「小規模不動産特定共同事業」を創設。 |
2 | 事業者の資本金要件を緩和するとともに、5年の登録更新制とするなど投資家保護を確保。 | |
3 | 投資家に交付する契約締結前の書面について、インターネット上での手続に関する規定を整備。 | |
4 | インターネットを通じて資金を集める仕組みを取り扱う事業者について、適切な情報提供など必要な業務管理体制にかかる規定を整備。 | |
5 | プロ向け事業の規制の見直し
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効果 ・ 目標 | 1 | 地方の小規模不動産の再生により地方創生を推進するとともに、成長分野での良質な不動産ストックの形成を推進し、都市の競争力の向上を図る。 |
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2 | 地方の不動産会社の新たな参入800社(2017~2022年) | |
3 | 空き家・空き店舗等の再生による新たな投資約500億円(2017~2022年) |
出所:国土交通省資料を一部抜粋
現在、文化的遺産を守ろうとする有志からの資金を活用し、空き家や空き店舗などを活用した宿泊施設や展示館などが全国で増え、地方創生につなげる取り組みが拡大しています。しかし、こうした取り組みが不動産証券化を活用した不動産特定共同事業に該当する場合は、事業の許可にかかる要件が地方の事業者にとってはハードルが高く、見直しが必要との指摘が出ていました。
そこで、観光などの成長分野を中心に質の高い不動産ストックの形成を促進するため、不動産特定共同事業制度の規制の見直しを行いました。地方の小規模の不動産事業者が、再生規模が小さい再生案件を手掛けることができるよう、認可業者の的確要件を下げて再生事業の担い手を増やします。また資金調達面では、不動産特定共同事業は書面での取引しか想定していなかったのを改めて、近年活用が拡大しているクラウドファンディングの利用を認めて電子化対応を図ります。
これまで大手不動産会社を中心に展開されてきた空き家や古民家の再生事業は、地域と担い手の2つの側面ですそ野が拡大することになります。
地方の再生事業は地方銀行の動きにも注目
参入障壁を緩和する不特法の改正で、地方の空き家・空き店舗再生事業は活性化していくことが期待されますが、そのためには地域に貢献する金融サービスを求められている地方銀行が、不動産特定共同事業事業への取り組みをより大きくしていく必要があります。
不特法の改正で地方において新規参入者が増えるとしても、不動産証券化の担い手が不足している地域では、資金調達の面での不安が残ります。インターネットで小口の資金を集めるクラウドファンディングにしても、信頼できる組織体が中心にならなければ事業の進行は危ぶまれます。
全国地方銀行協会では昨年からWebサイト上で「古民家等歴史的資源の活用支援」(http://www.chiginkyo.or.jp/app/story.php?story_id=1201)事例を公表しており、業界を挙げて地方再生に取り組んでいる実情がうかがえます。
地方の再生事業には、事業の参加者を集めて計画を適切に進行させる司令塔が欠かせません。同時に、事業参加者が資金不足に悩むことのないよう、調達面での支援が重要です。再生を事業として形にしたり、地域で完結した資金支援を実現するには、地方銀行の役割は小さくありません。地銀各行で、不動産証券化の専門教育を一層強化することが地方の再生事業では大きな課題となるのではないでしょうか。