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改正物流総合効率化法でモーダルシフトが加速
公開日:2018/02/28
トラックによる貨物輸送から大量輸送が可能な鉄道・海運に転換するモーダルシフトが加速しています。ドライバー不足や交通渋滞の解消のほか、トラックが排出する二酸化炭素を抑制して地球環境を保護する狙いなどがあります。国土交通省はこのほど、2016年に改正物流総合効率化法を施行して以降の1年間の取り組みの成果を公表しました。
拠点整備から事業者連携へ
国土交通省によると、2016年の宅配便の取り扱い個数(トラック輸送分)は38億個を超えました。インターネットショッピングの隆盛で宅配便の取扱量が年々増加し、ドライバー不足が深刻になっています。このためトラック輸送の増大は、交通渋滞や長時間運転による事故、排気ガスによる地球環境の劣化にもつながるなど、物流業界にとって大きな課題になっています。
物流総合効率化法(物効法)は2005年に施行されました。物流を総合的、効率的に実施することでコストを削減し、環境負荷の低減を図る事業者に対して、効率化計画の認定や関連措置を定めました。こうした企業には事業許可の一括取得や営業倉庫などの設備に対する税制の特例といった優遇措置がありました。
しかし、前述したように、ネットショッピングが普及して小口輸送が膨大な数に達するなど、想定以上の事態になったため、国は2016年2月に「人手不足にも負けない便利で効率的な物流を実現する」との方針を打ち出して、法改正を決めたのです。
改正法の骨子は、下記3点です。
- (1)法目的の追加
- (2)一括手続きの拡充
- (3)支援対象の拡大
「流通業務に必要な労働力の確保に支障が生じつつあることへの対応を図ること」を法目的に追加し、国の認定を受けた事業のうち、海上運送法や鉄道事業法の許可が必要なものについて、関係法の許可を受けたものとみなすという行政手続きの特例を追加しました。
また、効率化事業の支援対象を「一定の規模と機能を有する物流施設を中核とすること」を改めて「2以上の者が連携して行うこと」を条件としました。物流拠点の整備から、事業者連携に変わったといえるでしょう。これによって、運輸業者が輸送網を集約したり、共同配送やモーダルシフトに転換するなどの効率化事業が展開しやすくなりました。
物流総合効率化法の概要
出所:国土交通省「総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)の概要」(2017年10月24日)より一部抜粋
効率化計画の過半数がモーダルシフト
国交省は、改正物流総合効率化法の施行から1年が経過したため、同法に基づいて総合効率化計画に認定した優良な取り組みについて、公表しました。
それによると、
- (1)物流総合効率化計画の認定件数は51件で、うち29件がモーダルシフト
- (2)CO₂削減量は約216万本分のスギのCO₂吸収量に相当する「1万9千t-CO₂/年」に達した。
- (3)省力化量は約200人のトラックドライバーに相当する労働力確保になった。(39万6千時間/年)
- (4)効率化計画を実施した事業者は157事業者に上った。
- (5)省力化設備の導入状況では、輸送網集約事業のうち、トラック予約受付システムの導入が10件
となっています。
モーダルシフトが総合効率化計画の56%を占めています。輸送網の集約輸配送の共同化などと比べて、モーダルシフトは荷主と輸送業者の連携が比較的スムーズに行えることを示しているようです。連携した事業者が多い計画の「ベスト5」のうち4件がモーダルシフトとなっています。
このうち、トラックから貨物鉄道への転換が18件(62%)と最多。内航海運が11件(38%)で、このうちフェリーとRORO船(ローローせん)が各5件などとなっています。ちなみにRORO船とは、貨物を積んだままの状態でトラックやトレーラーをそのまま運べる船のこと。船の前後に出入口があり、運転手が乗ったり(ロールオン)降りたり(ロールオフ)することができることから、こう呼ばれています。
発着ルートでは、関東を起点に九州までが21%、近畿間が17%、中部までが10%、北海道までが10%と、関東からのルートだけで58%を占めており、長距離輸送が大半を占め、また荷主が関東を中心に多く存在することを表しています。国交省では、改正物流総合効率化法施行後に中・短距離間でのモーダルシフト事例が出てきた背景として、「ドライバー不足のリスクへの対応とともに、2者以上の連携による取り組みを支援するこの法律が後押しにとなっているのではないか」と法改正に自信を示しています。
1年間で認定した総合効率化計画の実績と効果(モーダルシフト事例の分析)
出所:国土交通省「総合効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)の概要」(2017年10月24日)より一部抜粋
「連携」を法改正の狙いにしただけに、荷主と物流業者とのコラボも重要です。例えば、北海道道東エリアの一部(釧路・根室地区)における同業他社との共同輸配送並びに鉄道へのモーダルシフトでは、日本貨物鉄道、日本通運とアサヒビール、キリンビール、サッポロビール、サントリービールの飲料大手4社の計6社が手を組みました。
荷主・物流事業者の一層の連携が必要
国土交通省は今後の展開として、物流の効率化・省力化を図るためには、物効法の普及と荷主・物流事業者の連携による取り組みの拡大が必要としており、優良な取り組みに対する認定を積み重ねて物流業界における労働力不足や物資の流通で生じる環境負荷の低減を図るための物流効率化の取り組みを支援する方針です。
具体的には、効率化計画の認定を取得する意欲が向上するよう、動機付け(インセンティブ)となる補助金や税制優遇する計画です。また、鉄道に比べて実施件数が少ない内航海運のモーダルシフトの推進や、農産物輸送の効率化など、認定事例を拡大して認定範囲を広げ、法の普及を促す方針です。