「特例事業承継税制」シリーズ(1)株式を無税で後継者に引き継げる「特例事業承継税制」の提出期限が2年延長
公開日:2019/01/30
企業経営者の年齢のピークは、 2000年に50〜54歳であったのに対して、2022年には50〜74歳までの幅広い年齢に分散するなど、これまでピークを形成していた団塊世代の経営者が事業承継や廃業などにより経営者を引退していることがうかがわれる事態となっています(※)。
そこで平成30年度の税制改革において、従来の事業承継制を改良した「特例事業承継税制」が創設され、さらに令和6年度の税制改正により、特例承継計画の提出期限が2年延長されました。この特例税制を利用して、自社の早期経営改善計画を立案し会社の永続的発展につなげることが期待されます。そのポイントを6回にわたって紹介します。まずは「特例事業承継税制」の概要と適用条件を紹介します。
※中⼩企業庁 財務課「事業承継・引継ぎの推進に向けて」内「経営者の⾼齢化と後継者不在率の⾼⽌まり」より
特例事業承継税制のポイント
特例事業承継税制では、一定の手続きによって一括で贈与等をした非上場株式等の贈与税額が全額納税猶予されます。贈与者死亡の際には贈与時の評価額が相続税の課税対象とされるなど、次の3つがポイントになります。
- 1)非上場株式等を贈与された際の贈与税は全額納税猶予される:先代経営者が代表権を後継者に譲り後継者が代表権を持った後に、先代経営者が所有する非上場株式等を一括して贈与すると、贈与税額の全額が納税猶予されます。
- 2)猶予贈与税額は先代経営者の死亡によって免除:贈与された株式の評価額の100%に基づいて暦年課税または相続時積算課税により計算した贈与税額全額が納税猶予されます。また、贈与者が死亡したときに一定の手続きにより納税猶予税額は免除され、贈与時点の評価額が相続税の課税価格に算入されて相続税が計算されます。
設例:総株主等議決権数12万株(評価額6億円)。全株式を先代経営者が保有、後継者(先代経営者の長男)に全株式を贈与
贈与税額:(1)暦年課税(6億円―110万円)×55%-640万円=3億2,299万5,000円
(2)相続時積算課税(6億円―2,500万円)×20%=1億1,500万円
- 3)相続税の納税猶予税額:株式以外の相続資産が2億円、相続人は長男と次男の2名、長男は相続で財産を取得せず、次男が2億円の財産を相続した場合の相続税額は次の通りになります。
●相続税額
((6億円+2億円)―(3,000万円+600万円×2))÷2=3億7,900万円
(3億7,900万円×50%―4,200万円=1億4,750万円)×2=2億9,500万円
●各人の相続税額
長男2億9,500万円×6億円/8億円=2億2,155万円(全額納税猶予される)
次男2億9,500万円×2億円/8億円=7,375万円
贈与から相続までの流れ
特例事業承継税制による相続税の特例納付猶予の適用を受ける流れは次のようになります。
- 1)「特例承継計画」を都道府県庁に提出する:認定経営革新等支援機関の指導および助言を受けて作成した「特例承継計画」を令和8年3月31日までに都道府県庁に提出します。
- 2)「特例承継計画」の提出前に先代経営者が死亡した場合:「特例承継計画」を提出しなくとも、平成30年4月1日から令和8年3月31日までの間に先代経営者が死亡した場合には、死亡後に一定の手続きをすることにより特例事業承継税制の適用を受けることができます。また、この期間内であれば、贈与した後に「特例承継計画」を提出することができます。
- 3)適用を受けるには一定の要件を満たす必要がある:「中小企業であること」「風俗営業をしていないこと」「資産管理会社(資産保有型会社または資産運用型会社)でないこと」などの要件を満たしている必要があります。
- 4)「特例承継計画」未提出で令和8年4月1日以降に先代経営者が死亡した場合:一定の要件をすべて満たしていれば、一般事業承継税制で、総株主等議決権数の3分の2の評価額の80%に対応する相続税額のみが猶予の対象となります。
- 5)「特例承継計画」を提出した場合でも令和9年12月31日までに贈与しなければならない:先代経営者が特例期間中に非上場株式等を贈与する前に死亡しても、納税猶予を受けることができます。
- 6)「特例承継計画」を提出せずに令和8年4月1日以降に贈与した場合:必要な要件を満たしていても一般事業承継税制の適用のみとなります。
- 7)令和9年12月31日までの贈与等に対応する相続にも特例事業承継背姿勢を適用:期間内に「特例承継計画」を提出し、令和9年12月31日までに贈与して特例事業承継税制の適用を受けた場合、令和10年1月1に日以後であっても贈与した先代経営者が死亡した際には、贈与時点の非上場株式等の評価額を相続財産と見なして相続税の全額が納税猶予されます。
(図1)特例承継計画の提出・認定・贈与・相続の関係図
「特例事業承継税制」と「一般事業承継税制」の違い
一般事業承継税制は、総株主等議決権数の3分の2までが納税猶予の適用対象で、残りの3分の1は適用対象外です。さらに、相続の際の納税猶予の対象となるのはその評価額の80%に対応する相続税額です。また、適用を受けてから5年間の事業継続要件、特に雇用確保要件が大きなリスクとなっていました。特例事業承継税制では、こうしたリスクや不便が解消されました。
- 1)対象株式が100%に
一般事業承継税制の対象株式は、総株主等議決権の3分2ですが、特例事業承継では総株主等議決権のすべて対象となります。 - 2)相続時の納税猶予適用対象が株式評価額の100%に
一般事業承継税制の相続税の納税猶予額の計算対象は、一般事業承継税制では適用対象となる株式等の評価額の80%に相当する金額に対応する相続税額でしたが、特例事業承継税制では適用対象となる株式等の評価額の100%に相当する金額に対応した相続税額が猶予されます。 - 3)雇用確保要件は実質撤廃
特例事業承継税制では、一般事業承継税制にある雇用確保要件(5編平均の従業員数贈与時又は相続時の従業員数が80%を下回らないこと)が撤廃されました。 - 4)複数の株式所有者からの贈与も可能に
一般事業承継税制では、代表者だった同族関係者間で筆頭株主である先代経営者からの贈与に限られていましたが、特例事業承継税制では、先代経営者からの一括贈与を条件に複数の株式所有者からの贈与も可能になります。 - 5)受講者の適用拡大
一般事業承継税制では適用対象となる後継者は筆頭株主である代表者に限られていましたが、特例制度では総株主等議決権の10%以上を有することとなる上位2名または3名が対象となります。 - 6)特定相続人以外でも相続時精算課税の適用を受けることが可能に
- 7)経営承継期間経過後の減免
特例制度では、譲渡時、合併・株式交換時による消滅時・および解散時に減免制度が導入され、一部減免されます。譲渡や合併・株式交換等による削減等の場合や、株式交換等による子会社になったときには相続税評価額の50%を下限として計算します。 - 8)特例承継計画の提出
特例事業承継の適用を受けられる可能性があるならが、令和8年3月31日に間に合うよう「特例承継計画」を作成しましょう。
(表1)特例事業承継税制」と「一般事業承継税制」の違い
項目 | 一般事業承継税制 | 特例事業承継税制 |
---|---|---|
対象株式 | 総株主等決議数の3分2 | 全株式 |
相続時の猶予対象表価額 | 80% | 100% |
雇用確保要件 | 5年平均80%維持 | 実質撤廃 |
贈与等を行う者 | 改正前:先代経営者のみ 改正後:複数株主可 |
複数株主可 |
後継者 | 後継経営者1人のみ | 後継経営者3名まで (10%以上の特殊要件) |
相続時精算課税 | 推定相続人等後継者のみ | 推定相続人等以外も適用可 |
経営承継期間後の 減免要件 |
民事再生・会社更生時にその時点の評価額を再計算し、超える部分の猶予税額を免除 | 左欄の内容に譲渡・合併・株式交換等による消滅等・解散時が加わる |
特別承継計画の提出 | 不要 | 要 |
提出期間 | - | 令和8年3月31日まで |
先代経営者からの 贈与の期間 |
なし | 令和9年12月31日まで |