土地活用ラボレポート 2017年9月 どうなる?旧耐震賃貸住宅物件と賃貸住宅の空室について
公開日:2017/09/29
増える老朽化賃貸住宅
築年数の経った賃貸住宅が日本中で増えてきています。特に西日本でその傾向が強まっています。
建て替えるべきか、リフォームすべきか、色々と議論があるようです。
都道府県別 貸家総数の中で1980年以前に建てられた物件が占める割合
総務省統計局「H25年住宅・土地統計調査」
図1は全国都道府県別の築35年を超える賃貸住宅の割合です。
図1を見ると、30%を超える和歌山県をはじめ、16位までが西日本エリアの都道府県となっています。
西日本は昔から持ち家比率の低い傾向にあり、古くから多くの賃貸住宅が建てられてきました。東京は全国平均とほぼ同じ20%強ですが、東京の中心部では古い賃貸住宅は取り壊しが進み、街が開発されて、いまでは大きなマンションやビルが建っており、こうした再開発が進んで街が一新されているエリアと、再開発が遅れているエリアの二極化がすすんでいます。
築35年ですと建設時期は1981年となり、耐震基準が変更された年になります。この年より以前の物件は旧耐震物件と言われ、耐震基準が現在ほど厳しくなかった時代の建物ということになります。もちろん、旧耐震基準下での物件でも、現在の耐震基準を満たしているような物件も存在しますが、一般的にはここで線が引かれ、敬遠される傾向にあります。
空き家が増える根本的な原因として、相続の問題、除却して更地にすると固定資産税が一気に増えるという税制度、除却にかかる費用負担が大きい、などがその理由として指摘されています。
平成30年度の国土交通省の予算概算要求にも、「市町村が行う空き家の活用や除却等の総合的な支援の推進」という項目が入っており、空き家の除去に対して補助金を出すなどといった支援策が想定されます。
そのため、築年数の古い賃貸住宅は東京都心の駅から近い物件などを除けば、空室率はどうしても高い傾向にあります。
何度か本サイト内の連載でも書きましたが、賃貸住宅の空室率については、各方面から空室率が発表されていますが、その計算方法にはいろいろとあるようです。基本的には、空室の部屋数÷総数で計算しますが、例えば空室の部屋数に、募集停止の部屋(たとえば、リフォーム中等)を含めるか?あるいは、総数をどの範囲まで含めるか?などで率に差がでます。このようなことから、空室率データは、発表する機関によって大きな違いがあります。そのため、空室率がいまどのくらいか?についてはエリアによって大きくことなりますので、色々と調べてみるとおもしろいと思います。
例えば、山間部など、需要が少ないエリアに空室が増えるのは当たり前のことだといえます。一方で需要が一定以上ある場所での賃貸住宅の空室については、その多くは築年数の古い賃貸物件であるようです。
なぜ、築年数の古い賃貸住宅が空室となるのか?
古い賃貸住宅がなぜ空き家(空室)になるのでしょう?
築年数の古い賃貸住宅においては、そもそも斡旋会社を通じた賃借人募集活動をきちんと行っていないというオーナーも多いようです。「賃貸、募集」とだけ書いた看板を外に掲げているだけ、というイメージです。リフォームも行わず、最低限の補修しか行っていない、半ばあきらめているような賃貸物件です。これでは、空室が埋まらないことも仕方ありません。
以降では、賃貸住宅斡旋会社などを通じて「きちんと募集活動」をしているという前提で、「賃貸住宅が空室になる理由」を考えてみましょう。
理由は主に3つ考えられます。
- 1)需要が減少したエリアの賃貸住宅
人口動態の変化が最も大きな要因だと思われますが、例えば行政施設や大きな工場等が移転したため、需要に大きな変化が行ったなども、要因の例とあります。 - 2)賃料が適正でない賃貸住宅
経年により賃料の減少に対する対応です。築年数が経っているのに、高い家賃のままですと、競争力がありません。もちろん、リフォームをするなどと努力すればこうした状況は改善されます。建築時期別 民営借家の1ヶ月あたりの家賃
総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査」より作成」
図2は、民間賃貸住宅における建築時期における家賃をしましたものです。全国平均ですので、各地で異なりますので、実数字はあまり気にせず傾向だけを見ていただきたいと思います。
これを見ると、築年数に応じてなだらかな賃料の下落があります。 - 3)設備、仕様が市場や周辺状況に比べ劣っている
まず冒頭で書いたように、地震の発生確率の高いと言われているエリアはもちろんですが、全国的に旧耐震物件は敬遠される傾向にあります。
また、水回り設備については、取り換えなど適切にリフォームが行われていればいいですが、そうでない物件も多いようです。建築年別 オートロック有の賃貸住宅割合
総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査」より作成」
図3は、賃貸住宅における築年別のオートロック有無の割合です。
上記3)で指摘してように、設備、仕様が大きく劣っていると賃貸住宅の競争力が落ち、入居者が付きにくくなります。近年多くの方が賃貸住宅に求めるものとして、セキュリティーレベルの高さを挙げています。図3をみれば明らかなように、旧耐震基準である昭和56年以前の賃貸住宅においては、セキュリティーの最も基本となるオートロック設備がある物件は10%以下となっており、ほとんどオートロックがないという状況です。2000年以降の物件では、セキュリティーレベルが高くなっていることを考えると、競争力はだいぶん低いと言えるでしょう。
そのため、セキュリティーレベルの低い築年数の経った物件を所有されている方においては、建物的に設置可能でかつ費用等にゆとりがあれば、セキュリティーレベルを高めるリフォームを行うことが競争力向上につながります。
まとめ
旧耐震基準時代に建設された賃貸住宅は、これからますます増えます。
築40年を超えてくると、そろそろ建て替え、もしくは大規模なリフォームを考えないといけない時期に差し掛かります。一定以上の賃貸需要があるエリアでは、建て替えの選択肢が有効だと思います。一方、こうした古い賃貸住宅の売却を考えるオーナーも増えてくるという予想もあります。需要あるエリアでは、いい値段が付く可能性もあると思います。