震災から10年を経て再検討すべき「賃貸住宅経営の災害対策」
公開日:2021/03/08
「2011年3月11日14時48分18秒」
みなさんは何をされていたでしょうか?
震災から10年の節目となるこの機会に、「賃貸住宅経営から見た災害対策」を改めて考えてみましょう。
あなたが保有する賃貸物件の災害対策は万全?
リスクマネジメントの発想を知ろう!
「地震」「雷」「火事」「オヤジ」は、昔から怖いモノの代名詞。「オヤジ」はその地位から陥落しているかもしれませんが、自然災害の「地震」と「雷」=水害(台風・洪水)、そして、人的災害の代名詞である「火事」は、お持ちの賃貸物件に甚大な被害を及ぼす怖いモノ=「リスク」です。
リスクは日本語で“危険”という意味です。ただ、他にも潜在的な危険の原因を意味するハザード(Hazard)や危険な状態を意味するデンジャー(Danger)も“危険”と訳されます。
また、リスクとは、ある行動に伴って(あるいは行動しないことによって)危険に遭う、または損をする“可能性”を意味します。
ですから、自然災害を予測することはできませんが、リスクは予測できるコトです。ただし、万
人に共通するリスクと個別に影響を受けるリスクに分けられます。
限られた時間やコストの中でしっかりリスクに対処するためには、自分にとって何がリスクで何がリスクでないかを知ること、つまり、「被害に遭いそうな災害は何か?」そして、「どれくらいのダメージを受けるのか?」を認識することが大切で
す。
具体的には、下記のようになります。
- ①どのようなリスクがあるのか?を特定(洗い出)し、
- ②そのリスクの大きさを分析/算定し、
- ③自分自身にどのような損失があるのかを評価(確認)して、
- ④具体的な対応を検討する
まずは、現状認識をしよう!
今回のコラムは「地震」にクローズアップします。
まず、私たち日本人が置かれた立場、地震発生の現状を広い視点で見てみましょう。
国土交通省「河川データブック2020」によると、日本の国土面積は世界の約0.25%にもかかわらず、世界の活火山の約1割があり、世界有数の火山大国となっています。また、図1からわかるように、世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約2割弱が、我が国周辺で発生しているという事実を認識しましょう。
図1:世界のマグニチュード6以上の震源分布とプレート境界
出典:国土交通省「河川データブック2020」
つまり、日本に住まうということは、地震という自然災害と隣り合わせで生活することなのだと認識しましょう。新型コロナウイルスに対応する「新しい生活様式」同様、置かれた環境を受け入れ、上手に付き合っていくしかありません。
被災可能性を分類する「リスクマップ」 を使って、計画的な災害対策をしよう!
そもそも災害対策の目的とは、①「命」を守ること、②「生活」を守ること、③「資産価値」を守ることの3つになります。
この「①命」「②生活」「③資産価値」の3つ
を守る賃貸住宅経営とは何かを考えると、防災上の技術的な条件を満たした賃貸住宅を提供することがとても大切になります。
具体的には、何よりも大切なのは命ですが、入居者にしっかりとした防災関連情報を提供していれば「①命」を守りやすくなります。また、現在の防災計画(特に都市部)は在宅避難を前提に計画されているケースも多いので、災害に強い賃貸住宅を提供することは災害後の「②生活」を守ることにもつながります。また、仮に被災後に土地や建物が毀損しても、生活に支障が無い最低限の損失で済むならば、賃貸住宅経営者様の「③資産価値」を守ることにもなります。
次ページの図2は、危険(このコラムの場合、地震)が「発生する頻度(=確率)」と被害に遭った際の「影響度(=被害度合い)」を縦軸横軸にプロットしたものです。この「リスクマップ」を利用すると、具体的にどのように災害対策を行えばよ
いか、認識することができます。
図2:リスクマップ
引用:© 2013年 樗木裕伸 (株)優益FPオフィス
例えば、発生頻度が高く被害額も大きいのなら、【回避】=「その場所で賃貸住宅経営をするのはやめておきましょう」という行動が大切です。
地盤の弱い土地を選ばない、耐震基準を満たしていない賃貸住宅を購入しないなどです。「先祖伝来の土地だから……」という感情的な話は置いておいて、既にそのような場所を保有し賃貸経営をしていて、甚大な被害が想定されるのであれば、災害対策上安全な物件に買い換えるという選択もあります。
災害の発生頻度は低いけれど、被害額が大きく、被災後のダメージが高くなるケースが【移転(保険)】です。この場合、助け合いの仕組みを利用し、災害が起きた際の損害をより小さくする努力ができればよいということになります。例えば、火災保険や地震保険などに加入したりするということです。
災害の発生頻度は高いが、被害額はさほど大きくない(小さい)のであれば、【損失制御】をし、災害が起きた際の損害をより小さくする努力ができればよいということになります。例えば、土地の地盤を改良したり、建物を耐震補強したりします。
また、被災後を見越して、防災訓練や飲料や食糧の備蓄、発電機の購入や整備などを行うなどです。
発生頻度が低く、被害額も小さい場合は、【保有】=自分自身で対応するということになります。例えば、被災後の復旧費用を目標に積立貯金をしたり、被災時にも活用できる知識を学んだりすることです。
このように、災害対策には【回避】【移転】【損失制御】【保有】という4つの対応方法がありますが、具体的な対応は個々に異なります。情報をたくさん持っている賃貸住宅管理業者に情報提供を求めるなどして決めるとよいでしょう。ご自身で行いたい場合は、賃貸住宅経営されているエリアの状況をこのリスクマップに当てはめれば、どのように災害対策を進めるべきかを考える手立てになります。
事前に確認しておきたい「ハザードマップ」
投資物件が被災しそうな災害を認識するひとつの方法として「ハザードマップ」の利用があります。
ハザードマップとは、被災が想定されるエリアや避難場所の位置等が表示された地図で、自然災害による被害の軽減や、防災のために作られています。洪水・内水、土砂災害、地震など災害ごとに分けられており、実際の災害でもその有効性は認識されています。
投資物件のある地域のハザードマップは、該当地域の市区町村から配布された紙の地図か、もしくは国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で確認することができます。ハザードマップは一定の条件で起きた自然災害を基に作成されたものです。目安として使うにとどめておき、被害予測が微妙な場合は、厳しいほうを認識したうえで災害対策を検討するとよいでしょう。
地震の場合は地盤の強弱が影響します。地盤調査大手のジャパンホームシールド株式会社が公開している「地盤サポートマップ」が参考になります。同社が行った地盤調査のデータを基に、地盤の強さ(地耐力)が地図上に4色のポイントで詳細に表示されています。地形や地震での揺れやすさ、浸水土砂災害なども比較的わかりやすく表示されており、アプリもあります。
やっておきたい! 災害後のためのサポート体制整備
災害対策は、時間軸を意識して次の3つの局面に分けられます。
- ・害発生前に行う「予防(事前対応)」
- ・発生直後に行う避難生活時の「応急(事後対応)」
- ・生活再建に向けて行う「復旧(事後対応)」
ここ数年は官公庁でも「予防(事前対応)」をしっかり行うことにより、早期の「復旧(事後対応)」が見込めるとされています。
「予防(事前対応)」とは、災害が起きる前に対策できることです。
例えば、土地の改良や住宅の耐震工事など大きな費用がかかることから、入居者へ防災情報を事前に提供するなど比較的容易にできることまであります。
「「応急(事後対応)」とは、被災後の困難な状況を悪化させないために行うことです。
災害によるけがや断水などライフラインの停止による生活の支障に対応する必要があります。それらの対応は基本的に入居者自身が行うべきことですが、オーナーとして最低限のサポートができれば、大きな信頼関係が構築でき、その後の賃貸住宅経営がやりやすくなるでしょう。
例えば、被災後の生活で最低限必要になると思われる食料や常備薬の最低限の備蓄や、日頃から入居者やご近所付き合いを欠かさず、「困り事があった際に地域や管理組合の誰に聞けば良いのか?」といったことも、事前に伝えておくとよいでしょう。
「復旧(事後対応)」とは、被災前の元の生活に戻るための対応です。
例えば、災害時に毀損した賃貸住宅の補修や建て直し、収支の改善などです。復旧をスムーズにするためにも、日頃から賃貸物件の保守などを行い、ご自身のライフプランをしっかり把握したうえで、賃貸住宅経営の収支管理や改善を行うとよいでしょう。いざとなったとき、その認識度合いによって、すぐに対処行動が取れるかどうかの差が生まれます。
水害・地震・台風など、災害によってすべきことはさまざまで、すべてに完璧に準備することは難しいことですが、できることから始めましょう。被災後のことを考え、災害に関する知識を身に付けたり、提携している賃貸住宅管理会社と密に交流し情報を収集・整理したり、日々防災を意識して行動することが大切です。