2021年4月から本格運用となった不動産売買における「IT重説」を徹底解説
公開日:2021/03/19
POINT!
・不動産売買において、IT重説のようにデジタル化が進んでいる
・IT重説の導入により、来店不要で、日程調整の幅が広がるなど、利便性が向上するため、徐々に定着していくと思われる
不動産売買におけるデジタルシフト
新型コロナウイルスの影響で、各分野において非対面による対応ニーズが高まっています。また、デジタル庁の発足などにより社会的にDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいることもあり、不動産売買取引においても、IT重説(オンライン会議システムなどITを活用した不動産取引における重要事項説明)に代表されるように、オンライン化、デジタル化が進むものと思われます。
ご承知のように、賃貸におけるIT重説は、平成27年8月から平成29年1月までの社会実験を経て、平成29年(2017年)10月から本格運用が始まっており、すでに3年が経過しました。売買取引については、法人間売買は平成27年8月から、個人を含む売買は令和元年(2019年)10月から社会実験が行われ(現在も継続中)、この度令和3年(2021年)4月より、法人間売買、個人を含む売買ともに本格運用されることになりました。
2021年4月から本格運用される売買のIT重説実施の流れ
不動産売買におけるIT重説の大まかな流れは、以下の通りです。
- (1)事前に売主・買主からの同意を得ます。
重要事項を説明する相手方のIT環境の確認を行います。(Zoomなどのオンライン会議やSkypeなどのオンライン電話の環境確認) - (2)そのうえで、重説書面の電子化についてはまだ本格運用前ですので、事前に重要事項説明書を送付します。(現状では、メールでの送付などは認められていません)
ここまでが事前の準備で、ここからはIT重説の実施になります。
- (3)重要事項を説明する宅地建物取引士証の提示を画面上で行います。次に、相手方の本人確認を行います。
- (4)重要事項説明書の中身を説明します。
IT重説のメリット
国土交通省は売買におけるIT重説を導入する前に社会実験を行っています(現在も継続中)が、この実施に際して「IT重説のメリット」について説明しています。
その内容は、以下の4つに集約できますので、簡単に説明します。
- (1)遠隔地顧客の移動の問題解消
国内の遠隔地に住む方の購入はもとより、海外の方による日本の不動産購入実例が増えています。「重要事項説明を聞くためだけに来日」ということもあったようで、利便性が大きく向上します。 - (2)契約に係る費用等の負担軽減
- (3)重要事項説明を行う日程調整の幅が増える
重要事項説明をする側と聞く側の日程調整の幅が広がります。個人の売買では土日に集中しているものが緩和される可能性があります。 - (4)来店などが困難な場合でも本人への説明が可能となる
さまざまな理由で来店が難しい方の利便性が向上します。
IT重説は定着するのか?
現状の社会の流れからするとIT重説は徐々に定着するものと思われますが、いくつかのはハードルがあると思われます。
これまでの社会実験期間に行われたアンケート結果(国土交通省「個人を含む売買取引におけるITを活用した重要事項説明に係る社会実験【結果報告】」令和3年1月公表資料)を見ると、まず1つめは、6割以上は投資目的の物件売買であり、個人の実需(=実際に持ち主が住む)物件で定着するのかどうか。
2つめは、1億円を超える物件が2%程度であり、高額物件でも行われるようになるのか。特に、実需物件の高額物件で定着するのか(本格運用開始時には一定の価格制限を設けるようです)。
3つめは、IT重説の説明相手方の年齢をみると、60歳以上の方は約6%程度に留まり、比較的IT環境に不慣れと思われる世代が相手となり得るのか。
4つめは、重説を行う側(不動産会社側)のITリテラシーの問題も同様のハードルがあると思えます。
昨今の流れで売買においてもIT重説を含めた業界のデジタルシフトは進むものと思われます。デジタルシフトは効率性が増すため、コストの低下につながり、また新しい付加価値を生み出す源泉になります。しかし、いうまでもなく、IT重説ではセキュリティリスクを伴います。そのため、サービスの受け手がこうした恩恵を感じることがなければ、「いまのままでいいのではないか」と思うことにつながりかねないといえるでしょう。