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コラム vol.391
  • 不動産市況を読み解く

これからの賃貸住宅のトレンドと2022年の貸家着工戸数の見込み

公開日:2022/03/31

POINT!

・2021年の貸家の新設住宅着工戸数は前年比+4.8%に留まり、完全回復とはならなかった

・賃貸住宅の性能が進化し、使いやすさのレベルも向上、新たなテクノロジーも導入されている

・2022年は、大きな金利上昇があれば、回復基調に水を差す可能性がある

賃貸住宅は、近年どんどん進化しています。室内環境レベル、外観の豪華さ、防音レベルという住宅性能の向上という観点だけでなく、時代のニーズに合わせた間取りや間取りの可変性など、つねに変化し続けています。また、環境に配慮した賃貸住宅も増えてきました。昨年(2021年)の貸家(賃貸用住宅)の着工戸数状況を振り返りつつ、2022年以降の賃貸住宅のトレンド解説、そして2022年の貸家着工戸数の予測を行ってみようと思います。

2021年の貸家着工件数の分析

国土交通省の建築着工統計調査報告(令和3年計分)によると、2021年の新設住宅着工戸数の総数は、856,484戸となりました。新型コロナウイルス感染症の影響で大きく落ち込んだ2020年からはプラス5%で、反動増がもう少しあると予測していましたが、やはり新型コロナウイルス感染症の収束にまだ時間がかかるとの判断から、完全回復とはなっていません。また、すでに新型コロナウイルス感染症の影響は2年以上におよび、生活スタイルが変わった方、変えようとしている方も増えていると思われますので、回復はそう簡単ではないと予測されます。以下、カテゴリー別に見てみましょう。

「持ち家」の新設住宅着工戸数は285,575戸となり、昨年から9.4%のプラスとなり、おおむね 新型コロナウイルス感染症拡大前の数字に戻りました。

「貸家」の新設住宅着工戸数は321,376戸となりました。2020年は2019年に比べて10%を超 える減少となり、その反動増が期待されましたが、2019年の342,289戸までは回復せず、2020年 比でプラス4.8%となり、市況の盛り上がりは完全回復とは言えない状況となっています。

「分譲住宅(マンションと戸建の合計)」は243,944戸でした。2020年は他のカテゴリー同様 前年比マイナス10.2%でしたが、2021年は前年比プラス1.5%に留まりました。需要はかなり旺盛 で、価格などを見ていると市況的にはかなり好調と言えます。
しかし、分譲マンション適地や戸建用地が不足しており、需要に供給が追い付かず、「建てようと思っても思うように建てられない」という不動産の宿命とも言える状況となっています。そのため、大都市部における新築分譲マンション、郊外の分譲戸建の価格上昇が続いている状況で す。

図1:利用関係別 新設住宅着工戸数の推移(全国)

国土交通省「住宅着工統計」より作成

今後の賃貸住宅のスタンダードになるもの

冒頭で述べたように、賃貸住宅の性能はどんどんよくなり、使いやすさのレベルも向上、新たなテクノロジーも導入されています。製品の進化は、通常の過程で起こるものもあれば、大きな出来事がトリガーとなり起こるものもあります。例えば、賃貸住宅においては、リモートワークが広がることで、自宅をオフィスの一部として使用する機会が増えました。そのため、リモートワークしやすい間取りや、共働き世帯が2人でリモートワークできる間取りの賃貸住宅が増えました。
また、東日本大震災を経てのエネルギーの見直し、そして世界的な脱炭素社会への移行などを契機に、ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)住宅、賃貸住宅においてもZEH-M(ゼッチ・マンション)が増えています。ZEH-Mとは、「賃貸住宅やマンションで使うエネルギーを少なく抑えることができ、かつ再生可能エネルギーとで正味でゼロにすることができる集合住宅を指す」とされており、これにより、従来に比べてCO2排出量を削減することが可能になります。
大和ハウス工業でもZEH-M仕様賃貸住宅を推進しています。

また、今後増える可能性の高い機能としては、顔認証賃貸住宅があげられます。エントランスや 住戸、あるいは共有スペースを開錠するための鍵が不要で、「登録された自らの顔」が鍵になる 仕組みです。スマートキーの一歩進んだテクノロジーを導入する賃貸住宅も増えることでしょう。

2022年の貸家着工戸数の見通し

最後に2022年の貸家(賃貸住宅)着工戸数の見込みについてですが、国土交通省の2022年1月住宅着工統計の状況を見ていると、昨年秋ごろから好調な数字が続いており、順調に回復していると言えそうです。執筆時点(3月10日)で最新の2022年1月分の数字を見ると、貸家の着工戸数は23,083戸(前年同月比16.6%増、11カ月連続の増加)となっています。とくに、民間資金による貸家は21,580戸(前年同月比19.6%増、12カ月連続の増加)となっています。(差分は、公的資金による貸家)
このように、だいぶ回復してきている賃貸住宅の建築数ですが、気になるのは今後の金利の行方です。「賃貸住宅における繰り上げ返済は行うべきか?」ででも述べましたが、足元では国債金利が上昇し、住宅ローンの固定金利の上昇がみられます。この傾向が続くのか一時的なものかは現時点では分かりませんが、もし大きな金利上昇があるならば、回復基調の新設住宅着工戸数に水を差す形となるかもしれません。

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