ESG不動産等投資活性化のために国も環境整備を強化国土交通省が不動産におけるESG投資を促すための評価項目を整理
公開日:2022/06/22
ESG投資への関心が高まる
ESG投資への関心が高まる環境や社会におけるさまざまな課題が山積する中で、「ESG投資」への関心が高まっています。ESG投資とは、従来の財務情報だけでなくEnvironmen(t 環境)、Socia(l 社会)、Governance(ガバナンス)の3つの観点からも企業を分析・評価して投資先を選定することで、長期的により良い社会を目指す投資方法です。
日本証券業協会が公表する「SDGs債の発行状況」によれば、日本国内で公募されたSDGs債の発行額・発行件数の推移(図1)は、発行額・発行件数ともに増加傾向にあります。(編注:SDGs債とESG債はほとんど同義で使用される場合が多いため、参考数値としています)
投資家が投資先に対してESG要素への配慮を求める動きが年々増加していることを物語っており、ESG投資は、もはや世界的な潮流とも言える状況です。日本の不動産においては、Environment(環境)分野では異常気象や気候変動など、Socia(l 社会)分野では、少子高齢化への対応や自然災害への備え、地域活性化、多様な働き方・暮らし方の実現など、日本固有の課題も多く、ESG投資によってさまざまな取り組みが広がり、これらの課題を解決することにつながることが期待されます。
図1:日本国内で公募されたSDGs債の発行額・発行件数の推移
出典:出典:国土交通省「不動産分野の社会的課題に対応するESG 投資促進検討会 中間とりまとめ」(令和4 年3月30日)
日本証券業協会「SDGs 債の発行状況」
評価や情報開示の仕組み等の環境整備が必要
不動産投資を行う場合、リスクとリターンという2つの視点から比較検討して投資物件を選定するやり方が大半ですが、ESG投資の考え方は、この2つの視点に加えて第3の視点「社会的なインパクト」についても投資家が意識すべきであるとする考え方です。
2021年(令和3年)3月に公表された、国土交通省の「不動産鑑定評価におけるESG配慮に係る評価に関する検討業務」においても、「不動産へのESG投資に当たっても、短期的なリスク・リターンを踏まえた投資から、ESGの内容である社会的なインパクトという、中長期的に生み出す価値を基本に判断することが求められている」と提言し、「国際社会のESG投資の動向に即し、日本の不動産市場の安定的かつ持続的な拡大に向けて、国内外の投資家に受け入れられる不動産投資市場の実現を目指す」としています。
不動産は、ESGのEnvironment(環境)、Socia(l 社会)、Governance(ガバナンス)のうち、特に「Social(社会)」と密接に関連しています。 不動産は、地域社会や人々の働き方・暮らし方などに大きく関わり、大きな影響を与えます。ですから、ESG不動産投資によって、持続可能な社会づくりや人々のウェルビーイングの実現といった社会課題の解決に貢献することが可能です。 しかし、この「Social(社会)」分野については、「Environment(環境)」分野と比較して、インパクトについての評価方法や評価対象、情報開示の仕組みが十分に整理されているとは言えず、社会課題に貢献する取り組みを促進するためには、事業者が取り組みやすく、投資家や金融機関などにとっても投資判断がしやすい、評価や情報開示の仕組みなどの環境整備が必要となります。
また、不動産分野を取り巻く環境(人口減少、遊休不動産の増加、自然災害の脅威など)も大きく変化しています。例えば、新型コロナウイルスの感染拡大によって、社会的配慮(S分野)が重要であると回答したアセットマネージャーの割合がコロナ禍前と比較して20ポイントも増加したようです(BNPパリバ・アセットマネジメントの市場調査による)。
このような社会背景、環境の変化を受け、国土交通省は、より多くの資金が「Social(社会)」分野の解決につながる取り組みに投資されるように環境を整備する必要があると考え、不動産の「Social(社会)」分野における評価項目等について検討を行いました。
具体的には、少子高齢化や自然災害への備え、地域活性化などの従来からある社会課題に加えて、テレワークの進展や二拠点居住などによる多様な働き方・暮らし方といった新しい課題に対する評価項目も含まれています。
不動産分野における課題整理
国土交通省「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会 中間とりまとめ」の中で、不動産に関する利害関係者とそれぞれの課題を以下(図2)のように整理しています。 利用者となるテナント、そこで働く人々、居住者においては、多様な働き方や快適さ、災害や防犯対策などのさまざまな課題があり、地域社会にとっては、経済・文化の活性化、魅力向上などの課題があります。これらの課題に対して、不動産オーナーや事業者、投資家などが、ESG投資によって、課題解決のためのインパクトを生み出すということになります。
図2:不動産に関する便益の受益者と不動産に関連する社会課題
出典:国土交通省「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会中間とりまとめ」(令和4年3月30日)
不動産にESG投資を促すために国土交通省が評価項目を整理
国土交通省は不動産の「Socia(l 社会)」分野における評価項目などの検討を行い、2022年(令和4年)3月、「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」による中間とりまとめを公表しました。
この中で、持続可能な社会、人々のウェルビーイングの実現に向けて、①安全・尊厳、②心身の健康、③豊かな経済、④魅力のある地域の4つの段階を設定し、各段階で解決すべき社会課題が整理されました。そして社会課題を軸に、個別不動産が対応可能な取り組みについて、合計約80の評価項目が整理されました。
国土交通省が評価項目を整理するにあたっては、以下の内容を参考にしています。
- ・CASBEE、LEEDをはじめとする建築物を評価する認証制度や都市空間を評価する指標など
- ・ESG評価機関である、「MSCI」「FTSERussel」の評価基準や「SASB」の開示基準
- ・不動産企業を中心とした各社の具体的な取り組み(帰宅困難者の受け入れ施設の整備、オールジェンダーを意識したトイレの設置、震災・水害等の対策、テナント参加型防災訓練の実施、スタートアップ向けオフィスの整備、障がい者雇用の支援・情報発信施設の運営、ワーケーション施設の整備、エリアマネジメント組織によるコミュニティ活性化、健康増進プログラムを提供するシニア向け賃貸住宅の整備等)
また、方針として、不動産事業者、投資家、双方の立場から検討すること、評価の対象は、個別不動産の整備、運営、利活用に伴う取り組みであり、その利用者、地域社会やまちづくりに与える効果も考慮すること、評価項目は投資におけるインパクトだけではなく、社会課題の解決に向けた取り組みを評価する際にも活用可能とすること、などをあげています。
4つのテーマとテーマごとの評価分野は以下の表の通りです。この評価分野ごとに、合計約80個の評価項目が整理されています。
例えば、「自然災害への備え」については、「耐震性の確保」「水害への備え」「災害時エネルギー供給・確保」「防災設備の整備」「災害時の情報発信・共有」「建物周辺の電柱地中化やプロパンガスの集中供給施設の整備」「避難者・帰宅困難者の受入体制の整備」「テナントや地域事業者等と連携したBCPの策定や防災訓練等の実施」が評価項目として整理されています。
詳しい内容は、こちらの国土交通省の資料「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会 中間とりまとめ 概要」をご覧ください。
持続可能な社会・ウェルビーイングの実現に向けた取り組みステージ | 不動産のS分野における評価分野 |
---|---|
①安全・尊厳(命や暮らし、尊厳が守られる社会) | 自然災害への備え(レジリエンスの確保) 防犯性の向上 人権への配慮 多様性と包摂性(ユニバーサルデザイン化を含む) 子育て支援 高齢者支援 |
②心身の健康(身体的・精神的・社会的に良好な状態を維持できる社会) | 健康及び安全衛生の確保 安全な水の確保 感染症対策 心身ともに良好な状態の実現 利便性の向上 |
③豊かな経済(意欲や能力を発揮できる、経済的に豊かな社会) | 多様な働き方を実現する職場・住環境の整備 生産性向上を図るための職場環境の整備 雇用機会の創出と地域産業の活性化 イノベーションや地域産業の創出 地域資源の活用 |
④魅力のある地域(地域の魅力や特色が活かされた将来にわたって活力ある社会) | 地域のまちづくりへの貢献 魅力ある景観の形成 歴史・文化の保護・継承・発展 地域交流の形成・促進 教育環境の整備 交通利便性の向上 歩行・自転車移動がしやすい環境づくり |
まとめ
ESG不動産投資は、投資である以上、利益をもたらすものでなければなりませんが、国土交通省の資料にある、ハンブルク大学とドイチェ・アセット・マネジメントによる調査によれば、1970年代以降に公表された2,250以上のESG投資に関する研究結果を総合的に分析した結果、研究事例の62.6%において、ESGと企業財務パフォーマンスとの間にポジティブな相関関係が見られたとのことでした。
不動産が社会に貢献できる分野は、経済の発展にとどまらず、多岐にわたります。長期的に人がより良い暮らしを営むために必要なことであり、地域の文化的な発展に寄与する可能性もあります。
今後国土交通省は、今回整理された「不動産の社会課題、評価テーマ、評価分野、評価項目(アクティビティ)」を踏まえて、評価方法の検討、情報開示にあたっての留意事項の検討を進めるとしています。