高齢者などの住宅確保で支援強化が加速
公開日:2023/07/31
高齢者や障がい者、低所得者、外国人など住宅を借りるのが難しい人を支援する仕組みづくりの議論が始まりました。住宅確保に配慮が要る人のニーズに対応し、賃貸住宅オーナーが安心して貸せる環境整備について検討を重ね、2023年秋にも中間報告を求めるもようです。
住宅確保要配慮者とは
国土交通省と厚生労働省、法務省の3省は7月3日、「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」の初会合を開きました。住宅確保要配慮者とは、読んで字のごとく、生活拠点となる住宅を借りるのが難しい人を指します。2007年施行の「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(住宅セーフティネット法)や国土交通省の省令などで、①低額所得者(月収15.8万円以下)、②被災者(発災後3年以内)、③高齢者、④障がい者、⑤子育て世帯、⑥外国人などと定められています。
2020年の国勢調査(2021年11月30日公表)によると、単独世帯(世帯人員が1人の世帯)は、2015年と比べて14.8%増となっており、一般世帯に占める割合は34.6%から38.1%に上昇しています。国土交通省の資料によれば、2030年に単身の高齢者世帯は約800万世帯に迫る勢いであり、高齢世帯の単独世帯は低収入が多く、年収300万円未満が8割を占めていると指摘しています。
図1: 一般世帯の家族類型別割合の推移
注)2005年の数値は,2010年以降の家族類型の定義に合わせて組み替えて集計している。
総務省統計局「令和2年国勢調査」より作成
図2:世帯の年間収入階級
出典:国土交通省「住宅セーフティネット制度の現状について」(令和5年7月)
※国土交通省「平成30 年度住宅・土地統計調査」
終身建物賃貸借事業
わが国では、高齢者や障がい者などに対する生活支援策の一環として、これまで賃貸住宅への入居などの政策を展開してきました。しかし高齢や障がい、低所得で部屋を借りられない人だけでなく、生活スタイルの変化や子育て世帯、在住外国人の増加など、住宅確保の支援対象となる人の類型が様変わりしています。
国土交通省の住宅セーフティネット制度のほか、厚生労働省の生活困窮者支援制度による居住支援など、部屋を借りたくても借りられない人への支援が行われてきました。生活困窮者などに対して、全国の自治体は安い家賃の公営住宅を提供等を行っていますが、今後高齢の単身者が増加し、少子化で労働者不足に陥れば、外国人労働者の流入も高まるでしょう。このため、公営住宅だけでなく民間の賃貸住宅をさらに増やす必要があります。
単身の高齢者や夫婦世帯などが生涯安心して賃貸住宅に居住できる仕組みとして、「終身建物賃借事業」という制度があります。借りる人が生きている限り存続し、死亡した時に終了する制度です。借りる人一代限りの借家契約で、高齢者に対して住宅を賃貸することができます。2001年に創設され、2016年までの実績は約1万戸。2018年には申請手続きを簡素化したり、既存の建物を活用する場合のバリアフリー基準を緩和するなど、使いやすい制度に改正されましたが、知名度は今ひとつのようです。
オーナーの拒否感は小さくない
住宅確保要配慮者に対して部屋を提供する側では、入居後に孤独死したり、入居しても所有物を残したまま突然退去したりするケースもあり、賃貸住宅オーナーの入居人に対する拒否感が高まっている、との指摘があります。最近では、生活保護を受けている人に部屋を提供したところ、数週間の間にいくつもの部屋がもぬけの殻になってしまったという事例もあったようです。国から支給される生活保護費を当て込んで、複数の不動産業者がオーナーをだまし組織的に入居、転居を繰り返している疑いがあるとのことでした。
7月3日に開催された第1回の検討会では、住宅を提供する側から「賃貸住宅オーナーも高齢化しているため、コストをかけずに貸したい気持ちが強い。また、高齢者や外国人に貸すことに躊躇がある」との意見が出ました。
図3:住宅確保要配慮者の入居に対する賃貸人(大家等)の意識
出典:国土交通省「住宅セーフティネット制度の現状について」(令和5年7月)
※(公財)日本賃貸住宅管理協会の賃貸住宅管理業に携わる会員を対象にアンケート調査を実施(回答者数:187団体)
図4:賃貸人(大家等)の入居制限の理由
出典:国土交通省「住宅セーフティネット制度の現状について」(令和5年7月)
※(公財)日本賃貸住宅管理協会の賃貸住宅管理業に携わる会員のうち、入居制限を行っている団体を対象に入居制限の理由を複数回答
オーナーにとって、障がい者や外国人に対して、生活習慣の違いやコミュケーションの取りづらさなどからくる不安感が先行しているのかもしれません。高齢者にとっては、賃貸住宅を借りづらい現実があるようです。年金収入だけでは家賃が払えなくなるリスクがあること、高齢者による火の不始末など火災のリスクも高まることが理由といわれています。また老人の孤独死など、その後の稼働率に少なからず影響する事案に対して回避したいという思いもあるのかもしれません。
今後高齢化がますます進展していくわが国で、生活拠点がより確保しにくくなれば、大きな社会問題になるのは避けられません。さらに、高齢者などに対する住宅確保に配慮が必要な側面がある一方で、空き家問題も深刻になっています。住みたい人がいるのに空いている住居があるという需給のミスマッチが起きていることにも注目すべきではないでしょうか。
住宅確保要配慮といえば借りる人を救済する措置と思われがちですが、賃貸住宅オーナーに対する配慮も必要不可欠。検討会で学識経験者のひとりは、「大家が安心して貸せる市場の確立」「死後の残置処理などの新たな制度」にも言及しました。検討会では今後5回の議論を経て、今秋にも中間報告をとりまとめる予定です。