2022年度の証券化不動産資産は約53兆円~国土交通省が実態調査
公開日:2023/08/31
国土交通省は2023年6月末に2022年度の「不動産証券化の実態調査」の結果を公表しました。それによると、証券化された不動産や信託受益権の資産総額は約53.3兆円で、前年度に比べて約13.9%増加しました。用途別に見ると、「オフィス」「倉庫」「ヘルスケア」が減少し、「住宅」「商業施設」「ホテル・旅館」「複合施設」が増加しています(資産額の割合から見た証券化の対象となった不動産の取得実績)。2020年に本格化した新型コロナウイルス感染拡大、2021年開催の東京五輪、高齢化社会の進展など、不動産証券化が世相を反映していることを示すものといえそうです。
図1:証券化の対象となった不動産の資産総額推移
資産額(兆円)
国土交通省「不動産証券化の実態調査」(3月末時点、不動産証券化協会「ARES J-REIT Databook」 「私募リート・クォータリー」(3月末及び12月末時点)
「オフィス」「倉庫」「ヘルスケア」が減少
証券化によって取得された不動産は、賃貸収入を得ることで高い収益を期待できるオフィスビルを筆頭に様々な施設となって社会に貢献しています。しかし2022年度は「オフィス」のシェアは前年度と比べて6.5ポイント低下しています。わが国で新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した2020年から下がり続けており、自宅勤務によるテレワークが普及してオフィス需要が回復していないことが背景にあると思われます。オフィスに次いで前期比マイナスが大きいのが倉庫で、マイナス1.3ポイントと微減。2020年を境に減り続けています。
「ヘルスケア」もマイナス0.4ポイントを記録。やはり国内でコロナがまん延した2020年以降、減少傾向にあります。厚生労働省が2021年末に公表した「社会福祉施設等調査」では、有料老人ホームは16,724施設で前年に比べて4.8%増加していますが、資金力が求められる不動産証券化による用地確保は進んでいないと思われます。介護業界は一部の大手を除いて中小零細の事業者が多く、担い手不足が深刻といわれています。大手のヘルスケア業者による証券化の活用が待たれるところです。
図2:証券化の対象となる用途別の不動産取得実績の推移(用途別資産額比率)
出典:国土交通省 令和4年度「不動産証券化の実態調査」
多目的の「複合施設」が増加
複合商業施設と聞けば、ショッピングセンター(モール)を思い浮かべます。では単に複合施設という場合、どのような施設を指すのでしょうか。一般的には、一定の敷地内に商業・住居・文化など異なる機能を持った施設がある場合を指すようです。ショッピングモールも含まれますが、近年増加しているのは、例えば図書館が付設されている駅ビルやマンションなどです。
こうした複合施設が増加しているのは、図書館の場合ではアクセスと運営主体、利用者層の3つの問題があります。電車やバスなど公共交通機関を使っても時間がかかる図書館では、利用者は増えません。おもに自治体が運営している公立図書館では近年、書店大手などの民間企業に運営を委託するケースが増えています。民間の運営業者は委託された図書館に付加価値を付けて利用者を増やし、図書館の魅力を基に集客力を高めて利益を追求しようとしています。
老幼複合施設、という言葉が最近聞かれるようになりました。保育所などの児童向け施設と高齢者用の老人ホームなどが同じ敷地内にある施設を指します。子育てを経験した高齢者が幼児と触れ合うことで異なる世代の交流を促進させる狙いがあります。同じ敷地の中に異なる施設を建てることで建設コストを低減できるメリットがあり、全国各地で建設が進みつつあります。
取得件数は過去最高を記録 IR推進が今後のカギ?
リート(私募リートを含む)と不動産特定共同事業で取得した件数は1,097件と5年連続で過去最高を更新。コロナ禍にもかかわらず東京都を中心に大阪府、神奈川県、千葉県、愛知県などの大都市圏の証券化は活発な展開を見せています。
図3:都道府県別の取得実績の推移
出典:国土交通省 令和4年度「不動産証券化の実態調査」
しかし東京五輪の開催が決まった2013年度以降は東京集中のウエートは徐々に下がり、「首都圏頼み」だった証券化も様変わりを見せています。2011年には東京都における証券化取得不動産のシェアは67%とピークだったものが、翌年度には約45%に激減。2013年度の「五輪特需」を境に下降線を辿っています。訪日外国人の東京一極集中が薄れ、地方の観光スポット人気を当て込んだ宿泊施設ニーズがもたらしたのかもしれません。
2018年に成立したIR整備法を受けて統合型リゾート施設の推進が今後の不動産証券化に大きな影響を与えると思われましたが、会場となる大阪府の証券化不動産の取得は2021年までの3年間は伸び悩み、昨年ようやく大幅増に転じています。カジノや国際会議場などを誘致して税収増を狙う自治体はいずれも不動産証券化が活発な地域です。神奈川県横浜市は不動産証券化の件数が増えることも予想されましたが、誘致の白紙撤回を掲げた首長が当選するなど、IRを巡る動きに変化が見られます。2025年に万博の開催が予定されており、さらに4年後の2029年にカジノ開業を目指している大阪での不動産証券化に注目が集まります。