CREコラム
働き方改革のために不動産はどう活用されるべきか(2)生産性を向上させるオフィス環境のあり方
公開日:2018/11/30
働き方改革の大きな目的のひとつとして、業務効率化を実現し生産性を向上することが挙げられます。
図1は、主要国の年間労働時間の平均と労働生産性を比較したものですが、日本は相対的に労働時間は長く、生産性は低くなっています。
オランダ、ドイツなどは、労働時間は約2割程度短いにもかかわらず、労働生産性は5割程度高くなっています。
図1:主要国の年間労働時間と時間当たり労働生産性(2015年)
総務省平成30年版情報通信白書より作成
幸福度合いを高めるオフィス環境が望まれる
昨今、生産性を向上させるには、機能性、合理性の追求だけではなく、働く人たちの多様なワークスタイルやライフスタイルを尊重し、心身ともに健康で働ける充実した毎日にしていくことが重要であるとされています。具体的には、働く人たちが自分に合った働き方やライフスタイルを選択し、場所や時間の制約をなくしていく必要があります。そのためには、企業は働く人たちの本質的なニーズを把握しながら、ICTをはじめとする技術的な進歩を取り入れ、「働き方改革」に取り組み、就労制度を変えていくことが、生産性を向上させるためのひとつの方法となります。
しかし現実は、子どもを持つ女性は「家でできる仕事」、「短時間勤務」などを希望する割合が高い(内閣府による女性のライフプランニング支援に関する調査による)一方で、現在の企業が実施する働き方の選択肢は、必ずしもこのような希望に対応できていない実態があります。
また、「幸福感を判断するのに重視した事項」に関する厚生労働省の調査によると、「家族関係」、「精神的なゆとり」、「自由な時間」、「充実した余暇」、「趣味・社会貢献などの生きがい」などを求める傾向が高まっているようです。
これらの調査結果から見ると、通勤時間の短縮による子育てとの両立やプライベートの時間の充実を図ることができれば、幸福度は高まると思われ、自宅や自宅近くなどで、高いスキルを持つ女性が十分に能力を発揮できる環境を整備することで、優秀な女性の社会進出、社会復帰が進むと考えられます。
昨今、ICT技術の進展によって、テレワークが物理的に可能になってきていますが、総務省の「平成29年通信利用動向調査」によると、我が国の企業におけるテレワークの導入率は13.9%(2017年)であり、内訳としては、在宅勤務の導入率は29.9%、モバイルワークの導入率は56.4%、サテライトオフィスの導入率は12.1%となっています(図2)。
緩やかな上昇傾向であるとはいえ、2015年までの上昇はいったん落ち着き、ここ数年上昇しているとはいえない状況となっています。
図2:企業のテレワーク導入率
総務省の平成29年通信利用動向調査より作成
イノベーションとワークライフバランスを両立させるオフィス
これからのオフィスには、イノベーションを創出する機能とワークライフバランスを両立させる機能が必要になるといえます。今後、労働力人口は減少していくわけですから、企業はこれまで労働参加できなかった層を労働力として確保していく必要があります。さらに労働力の補填だけではなく、成長のためのイノベーションも求められます。そのためにも、働く人たちのワークライフバランスを向上させる、心身ともに良好で働ける環境を提供する必要があります。
国土交通省の「働き方改革を支える今後の不動産のあり方検討会」の資料では、「2030年頃を見据えたこれからの不動産像」として、以下のようなオフィス環境を提言しています。
- ・IT環境の確保、利便性高い立地
- ・オープンでフラットな空間、クリエイティブな空間、時間・場所を選ばないサイバーオフィス
- ・フリーアドレス、リフレッシュスペース、コミュニケーションゾーン、集中ブース、パウダールーム、キッズスペース、仮眠室、カフェテリアの開放
- ・サテライトオフィス、シェアオフィス(学童保育・保育所サービス付き等)、コワーキングプレイス
- ・入退館管理システム、同時通訳ブース
- 「働き方改革を支える今後の不動産のあり方検討会」別紙資料より
また、こうしたビジネスにおける効率性の追求だけではなく、運動スペースや診療所、メンタルヘルス対策、駐輪場確保など、心身の健康に関する施設や設備も、生産性に大きく関与してきます。