相続時に大切な財産を守るために。注目を集める信託とは
公開日:2022/09/30
POINT!
・信託契約を活用することで、通常の遺言や後見人制度とは異なるメリットを享受することができる
・大和リビング信託のハイブリッド信託は、商事信託と家族信託の両方の信託を活用する仕組み
・信託の受益者は、益だけではなくリスクを負う場面もあることを正しく認識しておく必要がある
相続時の「信託」が注目されている
財産を相続する際、信託という手法に注目が集まっています。信託とは信じて託すこと。下図のように、AさんがBさんを信頼して、所有する不動産などの財産をBさんに信託譲渡し、Aさんが指定したCさんの利益のために管理・運用・売却などの処理を「信じて託す」ことです。
この信託契約を活用することで、通常の遺言や後見人制度とは異なるメリットを享受することができます。たとえば、Aさんが信託契約しておくことで、Aさんが認知症になってしまったとしても、Bさんは、Cさんのために財産を活用したり売却したりすることができます。ただし、大和リビング信託の場合は、代理人が必要になります。
また、お子様がいない夫婦で、先祖代々財産を受けついできた夫が亡くなり、財産を相続した妻が亡くなった後、財産は妻の親族ではなく夫の家系へ戻したい場合にも、信託を活用することで解決できます。
図1:信託の仕組み
大和リビング信託ホームページより
親世代、子世代、それぞれのニーズに応える
信託は、親世代、子世代それぞれのニーズに応えることができます。親世代からのニーズとは、自分が亡くなった後に、お子様がきちんと生活が送れるようにしたいというニーズです。大和リビング信託の三本木氏は、実際にあった相談として次のようなケースがあると言います。
「お子様に障がいがあるなど、将来自立して生活していくのが難しいような場合、収益不動産を持つ親が、お子様の安定的な生活資金確保のために信託を利用するケースもあります。
収益不動産の管理・運営は信託会社に委託し、利益はお子様に渡るように設定します。また、お子様が海外にいるなど、近くにいない場合に信託を活用されるケースもあります。お子様が遠方に行ったままいつ帰ってくるか分からないとき、自分にもしものことがあっても、不動産をきちんと管理し、自分の次にお子様がその利益を受けられるようにしてほしいというケースもありました」
また、お子様世代からの視点としては、親に対する心配です。親本人は大丈夫だと言っていても、将来認知症になったり、病に倒れたりするかもしれないと、お子様が心配するケースです。
親が認知症などで判断能力が低下・喪失すると、預金や不動産などの財産を家族が自由に活用することができなくなります。こうしたことへの対策として、親が元気なうちに信託の活用を検討する人が増加しているようです。
この場合、信託会社を受託者とする「商事信託」に加え、ご家族様を受託者とする「家族信託」の事例も増えているようです。
成年後見制度、遺言と信託の違い
親が認知症になったとしても、後見人制度を活用すればいいと考える人もいるかもしれません。
しかし、成年後見制度では、家庭裁判所が独自に成年後見人を選任するケースが多く、親族が選任されるとは限りません。本人が元気なうちは、自分の意思で財産を自由にできますが、後見人が立ってしまうと、「本人の財産をなるべく減らさない」ための運用が家庭裁判所から指導されるため、本人の財産は守られますが、ご家族様にお金が渡りにくくなります。家庭裁判所は原則として「本人の生活維持に必要最低限の出費・財産の売却」しか認めないため、家族のためにお金を使うことは、難しくなると考えられます。
遺言は承継先の指定が次の代しかできません。
例えば、子どもがいないケースでは、夫から妻に渡るところまでしか指定できません。そうなると、妻が亡くなったとき、遺言に「自分の後は、夫側のきょうだいやその子に渡す」と書かないかぎり、財産は妻側の親族に渡ります。このようなときに信託を使えば、何代先でも受益権の承継先を決めておくことができますので、妻が亡くなった後も夫側の家系に財産を戻すことができます。ただし、信託法により適用期間の制限(信託後30年間)がありますので、注意が必要です。これらが成年後見制度、遺言と信託との大きな違いです。「財産は自分の家系で代々残していきたい」あるいは「自分が相続前に意思能力をなくしてしまったとき、不動産経営に関してはある程度自由に家族の意思が反映できるようにしたい」というような場合には、信託の方が、自由度が高くなるでしょう。
商事信託と家族信託(民事信託)
「家族信託」や「民事信託」という言葉もよく耳にします。また「商事信託」という信託もありますが、これらはどう違うのでしょうか。
簡単に言えば、財産を預かって管理する人が、信託会社など専門の会社であるのが商事信託で、家族や個人であるのが家族信託(民事信託)です。
信託会社はオーナー(受益者)または指定された家族(受益者代理人)からの指示がなければ管理・運用行為ができないため、安心して財産を託すことができますし、通常の管理業務は信託会社がすべて行いますので、受益者の手間はほとんどかかりません。
ただし商事信託のデメリットとして、一つの信託会社で扱える財産は限られます。信託会社では、信託銀行のように、現金、有価証券から不動産まで、全部の財産を預かって運用するということはできません。そのため、いろいろな種類の財産を持っている場合、家族信託と商事信託を組み合わせたり、自身で信託会社を使い分けたりする必要があります。信託会社一社だけではなく、他の信託会社や家族信託、あるいは遺言等を組み合わせることで網羅的な対策になります。
図2:大和リビング信託「不動産管理信託の流れ」
大和リビング信託ホームページより
民事信託の一種である家族信託は、家族が受託者になりますから、財産は何でも扱うことができ、個人で手続きを進めることが可能です。しかし実際は、契約書を作成して公正証書にするなど、複雑な手続きやその後の管理、運営、決算書の作成などがありますので、司法書士や弁護士、税理士に相談し、サポートを受けながら進めていくことになるでしょう。その際、不動産財産が多い場合、受託者として管理するのは大きな負担になることもありますので、専門の信託会社の活用も検討したほうが良いでしょう。
商事信託は法人で、金融庁の監督下に置かれ、免許や登録が必要になりますが、民事信託には監督官庁がなく、資格や審査がありません。
そのため、実務経験の少ない担当者に依頼してしまった場合、スムーズな運用ができなくなってしまうこともあります。ですから、信頼できるパートナーを選ぶことがとても重要です。
商事信託と家族信託のハイブリッド
大和リビング信託では、商事信託と家族信託の両方の信託を活用する仕組みをハイブリッド信託と呼び、お客様により良いソリューションとなるように設計しています。大和リビング信託の三本木氏は、ハイブリッド信託について次のように紹介します。
「当社では、家族信託と商事信託のハイブリッドを提唱しています。例えば、お客様が認知症になってしまった場合、賃貸住宅経営そのものは代理人の方の指示で回していくことができますが、その賃貸住宅経営から上がってくる利益は、原則として本人にしか渡すことができません。ところが、認知症になっている方の口座にお金を送っても、そこから先に動かせなくなってしまいます。それを避けるため、本人が元気なうちに、家族信託で口座を作ります。例えば、父親のお金であっても、口座は息子が管理し、受益者を父親にすれば、その口座に信託会社が不動産の配当を送り、家族信託の受託者である息子がそれを受け取って、生活費、介護費用、施設の入所費用など、父親のために使うことができます。家族信託と商事信託が補完関係となり、ご家族にとって使い勝手のいい信託になるような提案もいたします」
一つの信託ですべての財産を管理することはできないことを踏まえ、様々な方法を組み合わせることが望ましいと言えますので、さらに次のように提案しています。
「財産によっては、任意後見人を立てたり、金融財産であれば遺言書を書くことをおすすめしています。当社にご相談いただければ、その方にとってのより良いプランニングをご提案します。不動産管理信託は一つの手法であり、それですべて解決するというものではありません。お客様目線に立って考えることを心掛けています」
賃貸住宅の新築や建て替え時に、信託を組み合わせた相続対策も有効
大和リビング信託は不動産の管理を中心に行う信託会社のため、賃貸住宅やマンションを経営されている方やこれから建築を計画されている人にとって利便性の高い信託と言えるでしょう。
賃貸住宅の新築+信託、あるいは、賃貸住宅の建て替え+信託の組み合わせは、相続時の有効な手立てになりそうです。建築中に認知症になることもあるでしょうし、相続が起こる可能性もあります。そのようなとき、信託があれば安心して次世代への承継もできますので、信託の活用を検討する価値はありそうです。信託だけでは相続対策にはなりませんが、遊休地の活用などで建築施設を建てることによる相続対策も可能です。
また、大和リビング信託は大和ハウスグループの一員であり、賃貸住宅やマンションの施工から管理まで、ワンストップで窓口対応が可能です。
現在の建物が老朽化したから建て替えたい、あるいは新たに賃貸住宅経営を始めたい、新築で施設を建築したいなど、新しくチャレンジしたい方々にとって、信託契約を組み込んだ賃貸経営の新たな枠組みは、検討に値するソリューションでしょう。
信託を利用するうえで気を付けておきたいこと
このようにメリットが多い相続時の信託の活用ですが、注意すべき点もあります。特に不動産や有価証券を信託契約した場合の代表的な点として、リスクがあるということです。
「受益者」とは利益を受ける者と書くため、得するだけと理解しがちですが、実は「損も得も両方持ってもらう」というのが受益者です。値上がりも値下がりもあります。
不動産賃貸の場合、災害による被害や周辺環境の変化による空室リスクの可能性があります。
その場合でもローンを組んでいれば返済しなければなりません。ですから、受益者は、益だけではなくリスクを負う場面もあることを正しく認識しておく必要があります。
何よりも重要なことは、相続財産を保有する人は、まず「自分の財産を将来、どうしたいのか」を考えることだと、三本木氏は言います。
「どのような財産をお持ちなのかは客観的に評価できますが、重要なことは、お客様がその財産をどうしたいかという思いです。もちろん、疑問点や不安な点は、信託会社に問い合わせていただき、対話を重ねることで、少しずつ明確になっていくケースもあるでしょう。そして、その思いに応えるためにはどうするかが、私たちからのソリューションでなければならないと思っています」
相続財産を整理し、その財産をどのように活用し、子どもや孫の世代までどのように遺しておくことが理想なのかを考えておくことで、自分に合った提案を受けることができるでしょう。
取材協力:大和リビング信託株式会社 営業部長 三本木 芳彦氏