金利の変化で賃貸住宅経営収支への影響は?
公開日:2023/05/31
賃貸住宅建築(投資)においては、多くの方が金融機関からの融資を受けますので、金利の動向は多くの方が気になる事です。金利が上がれば、支払利息が増えますので、これから賃貸住宅建築を行う計画の方、あるいはすでに変動金利で融資を受けている方にとっては、収支に影響があります。
日銀総裁が10年ぶりに変わり、また昨今の物価上昇基調を受けて、「近く借入金利が上昇するのではないか」という報道も散見しますが、いうまでもなく、「総裁が変わったから」や「物価上昇しているから」という理由だけで、すぐに金利が上がることはないと思われます。
どのような状況になれば金利は上がるのか?仮に金利が上昇したら賃貸住宅経営の収支にはどんな影響があるのか?について解説します。
変動金利と固定金利
融資を受ける際の金利には、主に変動金利、固定金利、一定期間固定金利(その後は選択制)の3パターンがあります。金融機関によっては(主に政府系金融機関)、固定金利しか提供していない金融機関もあります。かつては(特に自宅用の住宅ローンなどでは)、固定金利を選ぶ方が圧倒的多数でしたが、史上最低水準の低金利の現在では多くの方が変動金利を選択しています。
固定金利では、返済期間内の金利は、融資実行時(契約時ではありません)の金利が、完済まで続きます。そのため、金利の動向を気にする必要はありません。また、固定金利で元利均等返済を選択すれば、毎月の支払い額も固定されますので、賃貸住宅経営におけるローン返済額は、終始一定です。一方、変動金利を選択すると、「金利が上がるかもしれない」という心配を抱えることになります。
では、変動金利と固定金利は、どのような要因で上下するのでしょうか。
変動金利は何に連動するのか
変動金利は、短期プライムレートに影響を受けます。短期プライムレートとは、金融機関が優良企業と判断した企業に対して短期(1年以内)融資に適用する優遇金利で、政策金利の影響を強く受けます。そのため、変動金利は政策金利の影響を受けると言えるでしょう。ご承知のとおり、日本の政策金利は、2013年5月からは0.0%(ゼロ金利政策)で、2016年1月以降は、いわゆる「マイナス金利政策」で-0.1%となり、現在まで続いています。こうしたことから、変動金利の「史上最低水準」が続いているわけです。
加えて、住宅ローンなどでは、金融機関間での競争が激しく、とくにネット専業銀行や不動産融資に力を入れている銀行などでは、競って低い金利を提示しています。また、メガバンクや主要地銀などでは、店頭金利はどこの金融機関も似たような金利ですが、提携している企業経由の融資の場合は、店頭金利から一定の利率を下げる「優遇金利」を提示している例を多く見かけます。
固定金利を選ぶ方への影響
変動金利と異なり、固定金利は、どの金融機関の金利も横並びの傾向にあります。固定金利は、新規発行される(新発)10年物国債の動向により変動します。現在10年物国債は日銀が指値オペを実施し、一定以上の利率になると買い入れを行っています(イールドカーブコントロール:YCC)。それまで上限利率の設定は0.25%でしたが、2022年12月20日に0.5%に引き上げられました。その兆候が見られた2022年後半から固定金利は上昇、実際に0.5%に引き上げられて、さらに金利上昇となりました。しかし、2023年3月に入り新発10年物国債の金利は0.2%台にまで低下し、これに伴い、上昇を続けていた固定金利は僅かずつですが金利下落基調になってきました。
基本的に固定金利は変動金利より高くなり、返済総額が多くなります。そのため、月や年単位でのキャッシュフローは、相対的に悪くなります。ただし、金利の上下がなく、収支計画における支払い利息に影響はないため、心理的な安心感は大きくなります。
金融緩和政策は継続、しかし金利が上がる条件は見えてきた
植田新総裁、新執行部にとって初めての日銀金融政策決定会合が4月27~28日の2日間開催され、「短期金利マイナス0.1%程度、長期金利をゼロ%程度に誘導する現在の大規模金融緩和政策を維持、また長短期金利操作(=イールドカーブコントロール)を継続、さらにはETFやJREITの買い入れの継続、総じて全面的に現行の金融緩和政策の継続」と決定されたことが発表されました。
毎年4月の本会合で発表される「経済・物価情勢の展望リポート」の中で、物価上昇率の見通しを、コア消費者物価指数(生鮮食料品を除いたもの)では2023年度は前年比+1.8%、2024年度は+2.0%と前回発表から少し引き上げました。日銀が引き続き目標としている「安定継続的な2%程度のインフレ」に近い見通しとなっています。この目標には「賃金の上昇を伴う」とありますので、現在まだマイナス圏の実質賃金(名目賃金÷インフレ率)がプラスの圏内に入れば、金融緩和解除を検討することになりそうです。
新体制下でも、金融緩和政策は全面的な継続となりましたが、その一方で「今後、こうなれば金融緩和政策を解除する」、つまり「こうなれば金利を上げる可能性がある」という条件が見えてきました。具体的には、①コア消費者物価指数(CPI)が2%を超えること②実質賃金が上昇すること、の2つが柱となりそうです。
2つの条件の現状
1つめのコアCPIの2%超えについては、例えば2023年4月28日に発表された東京都区部消費者物価指数(コア)は+3.5%と、すでに超えています。コアCPIについては、この先上昇率が鈍化することが予想されていますが、それでも2%前後は維持するものと思われます。
図1:消費者物価指数(CPI)全国・東京都区部(前年同月比)
総務省統計局「消費者物価指数」より作成
2つ目の実質賃金ですが、毎月勤労統計調査2023年3月分(5月9日公表:執筆時最新)では、前年同月比-2.9%(前月は-2.6%)、これは12カ月連続のマイナスとなっています。ただ、今年の春闘労使交渉では平均3.69%の賃上げ率、そして中小企業にも波及が予想されていますので、時間差で実質賃金も上昇してくるものと思われます。ただ、安定的に、実質賃金の前年同月比がプラス圏に入るかどうかは、もう少し様子をみなければ分かりません。現状では、①②ともクリアし、金融緩和政策を緩めるタイミングは早くても2024年以降になりそうです。
イールドカーブコントロールの変更と不動産市況への影響
今後、仮に金融緩和政策を徐々に緩めるとするならば、現在10年物国債を±0.5%内に誘導している、イールドカーブコントロール(YCC)を解除することから始めると思われます。2022年12月20日に許容幅を±0.25%から±0.5%に、予告なく変更した際には10年物国債の利回りは一気に上昇し、あわせて固定金利が上昇しました。
そして、その後に現在マイナス圏内になる政策金利を引き上げということになりそうです。そのような状況になれば、変動金利から固定金利に変える検討をしてもいいでしょう。
金融政策のゆくえと賃貸住宅経営
ここまで述べたように、日銀の見解をそのまま受け止めれば、金融緩和政策が解除され、金利が上がる時は、「消費者物価指数が上がっている」と「実質賃金が上昇している」ということになります。
金利が上昇すれば、支払利息は増えますが、一方で、家賃上昇の可能性があります。消費者物価指数が上がると、1~2年の時差がありますが、住居費(=家賃と帰属家賃)が上昇します(家賃は消費者物価の構成要素のひとつで、約22%のウエイト)。つまり、賃貸住宅経営においては、家賃が上がる可能性が高いということになり、利息支払いは増加しますが(費用増)、家賃収入も増加(収入増)することになります。
このように考えれば、金利の上昇により(多少の時差がありますが)、賃貸住宅経営の収益が、一気に悪化するということはないと考えていいと思います。