「土地白書」に見る「令和5年度土地に関する基本的施策」国の基本方針を理解する
公開日:2023/08/28
POINT!
・不動産流通市場を活性化させるためにデジタル化を推進
・不動産投資においては「不動産特定共同事業(FTK)」を推進
・土地税制における対応として、令和5年度税制改正での措置を紹介
不動産オーナーにとって、国が施行する「土地に関する施策」は、ご自身の不動産経営に密接に関連します。
国が打ち出す施策の方向性は、現在の社会的な背景や状況を鑑みながら打ち出されるものであり、企業の戦略や商品にも大きな影響を与えます。土地活用を実施、あるいは検討されているのであれば、これからどのような施設、用途が増加していくのか、税務や補助金などの優遇措置の活用など、視野に入れておかなければならないことはたくさんあります。
不動産経営を行うには、国の施策を含めた社会的背景を十分理解したうえで不動産経営に取り組む必要があります。
2023年6月に国土交通省から令和5年「土地白書」が公表されましたが、この中の第3部「令和5年度土地に関する基本的施策」で、令和5年度の不動産に関する国の施策が解説されています。主な内容は以下の通りです。
- 第1章:土地の利用及び管理に関する計画の策定等
- 第2章:適正な土地利用及び管理の確保を図るための施策
- 第3章:土地の取引に関する施策
- 第4章:土地に関する調査の実施及び情報の提供等に関する施策
- 第5章:土地に関する施策の総合的な推進
- 第6章:東日本大震災と土地に関する復旧・復興施策
中でも、不動産オーナーにとって関係が深いのは、「第3章 土地の取引に関する施策」にあたるところでしょう。第3章では、以下の5つに分類し解説されています。
- 第1節:不動産取引市場の整備等
- 第2節:不動産投資市場の整備
- 第3節:土地税制における対応
- 第4節:不動産市場における国際展開支援
- 第5節:土地取引制度の適切な運用
不動産取引市場の整備等
国は、不動産流通市場を活性化させるために、さまざまな施策を展開していますが、筆頭に挙げられるのが、不動産流通市場の整備・活性化を進めるためのデジタル化に関する部分です。不動産取引のオンライン化に向けた適切な環境整備、不動産IDの社会実装など、新たに官民連携プラットフォーム(協議会)を設置し、不動産分野だけではなく、物流、保険、行政等も含めた分野において実証事業を実施するとしています。
ストック住宅(既存住宅)の流通についても促進策が示されています。現在大きな問題となっている「空き地・空き家」の情報に関して、地方公共団体を横断して簡単に検索できる「全国版空き家・空き地バンク」の活用促進。また、既存住宅の流通促進においても、建物状況調査(インスペクション)の活用促進や「安心R住宅」制度等を通じて、売主・買主が安心して取引ができる市場環境を整備するとしています。
そのほかにも、地域福利増進事業や所有者不明土地対策に関する計画・協議会制度、所有者不明土地利用円滑化等推進法人の指定制度等の活用の促進、空き家のリノベーション等の低未利用の不動産の再生の取り組み、といったさまざまな住宅ストックの有効活用をするための方策を講じています。
不動産投資市場の整備
不動産投資においても、オープンで公平な投資市場をつくりあげるために、さまざまな施策が展開されていますが、ここで中心に取り上げられているのが、一般投資家の不動産投資への敷居を下げるための「不動産特定共同事業(FTK)」の推進です。
国土交通省は、2023年7月に、新たに「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」を公表しました。「不動産特定共同事業(FTK)」とは地域の不動産業者等が不動産小口化商品等によって投資家から出資を募り、その資金で不動産を取得。その後リノベーション等を行って賃貸、売却等を行い、その不動産運用から得られる収益を投資家に分配する事業の
ことですが、この事業が適切に運営されるために定められたのが「不動産特定共同事業法」です。
この法律は、社会の変化に合わせてたびたび改正され、デジタル化が進展した2019年に、国は不動産クラウドファンディングの活用促進等を図るための施策を公表。それに合わせて、法施行規則の改正も行われました。
今回の土地白書では、不動産特定共同事業の意義・活用のメリットや好事例、成功のポイントをまとめた「不動産特定共同事業(FTK)の利活用促進ハンドブック」を周知し、地方における不動産証券化に精通した人材の育成と、質の高い不動産ストックの形成促進を図るとしています。
ハンドブックの中では複数の好事例が紹介されており、例えば、不動産開発・改修に係る資金調達難といった課題に対して、FTKを活用し、小口で資金を募ることにより、一般の投資家を含む多様なリスク選好を持つ投資家から、事業への応援・共感という観点からの資金調達を行うことが可能となること。また地方においても、不動産開発に積極的な関与を求めたい場合など、住民や地域に関心のある個人が投資家となることで、まちづくりを自分ごととして捉え、より主体的な参画を図ると紹介されています。
さらに、耐震・環境性能に優れた良質な不動産の形成の促進、不動産分野におけるESGに係る取り組み・投資拡大に向けた取り組みを行うとしています。
土地税制における対応
土地オーナーにとって、税制の改正はとても気になるところです。土地取引の税制上においても、土地の有効利用を促進するために、令和5年度税制改正においては、以下の税制上の措置がとられます。
- ・長期保有土地等に係る事業用資産の買換え等の場合の課税の特例措置について、本社の買換えについてのみ圧縮率を見直した上で、適用期限を3年間延長する。
- ・土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の適用期限を3年間延長する。
- ・優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例について、対象事業等を一部見直した上で、適用期限を3年延長する。
- ・土地等の譲渡益に対する追加課税制度(重課)の停止措置の期限を3年間延長する。
この他にも、「土地白書」では海外における我が国の不動産企業のビジネス展開を支援する「国際展開支援」、適正かつ合理的な土地利用を確保するための「土地取引制度の適切な運用」を紹介しています。
これらの内容は、普段の不動産経営業務に直接役立ったり、活用できたりするものではありませんが、今後の不動産活用戦略や不動産投資戦略のヒントになります。
社会状況を把握しながら、国の施策の方向性をつかんでおくことは、とても意義のあることではないでしょうか。