不動産領域のデジタル化を賃貸住宅経営にどう生かすか
公開日:2023/08/31
POINT!
・重要事項説明や契約書の署名など、オンラインで行うケースが徐々に増えているため、賃貸住宅経営をしている方は、不動産取引のオンライン化について理解しておく
・地震や気候変動に備えて、国のWebサイト等を活用して事前準備をしておくことも必要
2023年6月に国土交通省から「令和5年版土地白書」が公表されました。「土地白書」は、土地基本法に基づき、毎年1回国会に提出されるものです。地価や土地の現状や動向の分析などから始まり、国や地方自治体の「土地」おける今後の基本的な方向性を示し、報告するものです。
令和5年の「土地白書」は、国土交通省の報道資料に「本年の白書は、適正な土地の利用・管理及び円滑な取引に向けたデジタル技術の活用について取り上げております」とあるように、デジタル化についての言及が多く含まれています。このコラムでは、「デジタル化」関連の内容から、賃貸住宅経営に関係がある項目を取り上げます。
不動産取引におけるデジタル化の推進
不動産取引におけるデジタル化・DX化は、「業務全体の改善・効率化の追求」が目的となっていますが、取り組み・導入状況は業務フェーズによって差があるようです。
最も進んでいるのは、プロモーション(集客)フェーズで、ポータルサイトなどによる物件検索システムやオンライン価格査定のシステムの導入です。特に集客においては、大手、中小、都市、地方問わず、デジタル化・オンライン化は一般的な状況になっています。ただし、実際の物件査定などに関しては、現場に足を運ぶことは必要です。
集客の次の案内フェーズでは、VR内見、オンラインモデルルーム見学などが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、一気に広がりました。特に、投資用賃貸住宅など、あまり細かく建物を見ることが少ない建物・施設においては、かなり広がりを見せています。しかし、居住目的の中古マンションや中古戸建住宅の売買などにおいては、「実際に見て判断したい」と考える買主が多く、判断材料のひとつにはなるものの、オンラインのみで契約に至るケースはまだまだ一般的とは言えないようです。
不動産取引のオンライン化の現状
最後の契約フェーズ、不動産取引(売買や賃貸)のオンライン化は、宅建業法の改正も行われ、不動産DX化策の象徴ともいわれているところです。しかし、大きな法改正が行われた割には、進展状況は「まだまだ」のようです。
不動産取引のオンライン化は、実験参加企業を募ってから社会実験などを経て、本格導入まで慎重を期して2022年5月よりスタートしました(令和4年5月18日に宅建業法改正)。オンラインでの重要事項説明は、賃貸借において2017年10月から、売買においては2021年から(法人間契約は先行して実施)本格運用されました。また、重要事項説明書、契約書などの書面交付については、2022年5月から双方の承諾があればメールなど(電磁的方法)が可能となりました。これにより、契約関連の業務では、時間的にも物理的にも効率化が期待されました。
しかし、大手不動産流通会社などでは、一般住宅における不動産売買契約において、重要事項説明・契約書の締結も、未だほとんどが対面で行われているのが現状のようです。また、これら関連書類を事前にメールなどで送って署名してもらう方法も、本格化はこれからのようです。電子化された書面での契約書の締結によって印紙税が免除されるなどのメリットがあるものの、売主買主とも「高額な契約なので、対面で確認し、重要事項説明書や契約書に慎重に署名する」という意識が働くようです。ただし、売主との間で交わす媒介契約での一定期日を経た後に再度結ぶ「媒介延長契約」については、オンラインで実施される機会も増加しているようです。
一方、賃貸借契約においては、オンライン(=非対面)で重要事項説明や契約書の署名などを行うケースが徐々に増えているようです。もともと賃貸借契約は都道府県を跨ぐ移動の際に行われることが多く、「オンラインで行わざるを得ない」という契約者も多いためでしょう。徐々に広まりつつある現状を考えると、賃貸住宅経営を行っている方は、不動産取引のオンライン化について理解しておくべきではないでしょうか。
自然災害対策におけるDX
近年、地震や大雨など、異常気象と思われる気候変動が続いています。気象予報でも、「過去に経験したことのない○○が・・・」といった報道を耳にすることも増えました。不動産を所有している方にとっては、こうした報道を見るたびに、「自分が所有している不動産のあるエリアの治水はどうなっているのか」と不安になることでしょう。
こうした中、国土交通省では、DXにより防災・減殺対策の高度化・効率化を推進しています。
台風や大雨の時にテレビでも目にするようになった河川の洪水予測など、国土交通省のWebサイトで「川の防災情報」を公開しており、本川・支流も含んだ細かな情報をはじめ、デジタル技術を活用したイノベーション推進のために過去の推移や流量などのデータも提供しています。
経営する賃貸住宅の近くに川がある場合はもちろん、少し離れた場所に川があれば、決壊で水が迫ることも考えられますので、こうしたWebサイトを活用して事前準備をしておくことも必要ではないでしょうか。