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コラム vol.495-1
  • 土地活用税務コラム

不動産オーナーの法人活用(1)不動産保有会社設立のメリットと注意点

公開日:2024/03/29

相続対策の最大のメリットは収入移転

相続対策としての会社設立の最大のメリットは、本来不動産所有者に入る収入が、家賃・地代又は管理料等として会社に入ることにより、個人財産の蓄積を防ぐことができることです。
個人名義のまま不動産を所有し続けると、その収益はそのまま個人財産として蓄積され、相続税の課税対象となりますが、会社に不動産を移転すると、不動産所有者ではなく会社に財産が蓄積されることになります。
さらに、不動産所有者の子や孫などが最初から出資する、または相続までに会社の株式を子や孫などに移転しておけば、株式は不動産所有者の遺産ではなくなっていますので相続財産にはなりません。もちろん、その子や孫に株式を移転する際には、株式や出資の評価額に対して贈与税が課税されますが、時間をかけて行えば、土地や建物などを贈与するより、容易かつ少ない費用で、贈与税の負担を軽くすることができます。
よって、十分に時間がある場合には、不動産所有者が出資(場合によっては現物出資)し、その株式等の評価を下げたうえで贈与する方が、相続対策上有利な方法といえるでしょう。

所得税対策としてのメリット

不動産所有者の場合には、どうしてもファミリーの中の1人に所有不動産が集中し、結果として所得も集中していることが多いようです。所得金額が1800万円を超えると所得税・住民税合計の税率が50%、4000万円超は55%になります。
会社を設立して収入を会社に移転し、きちんと役員や従業員として勤務している子や配偶者などに、その会社から給与や役員報酬を支払うと所得が分散され、不動産所有者より低税率の所得税・住民税が適用されることになり、ファミリー全体の税額の合計額が減少することになります。
会社契約で従業員や役員の生命保険に加入すると、契約内容にもよりますが、少なくとも掛捨て部分の保険料が費用として処理でき、個人では一部費用化できない土地取得の借入金利子についても、会社では全額費用化できます。青色申告をしている個人の場合には欠損金の繰越控除は3年ですが、会社の場合は最長10年間可能です。
さらに、個人の場合には不動産や株式の譲渡損失を他の所得と通算することができませんが、会社の場合は損益通算できます。

所得金額は695万円超なら効果有

会社を設立するかどうかの判断の単純な目安は、法人税の実効税率と個人の所得税・住民税の合計税率との比較です。課税所得が695万円を超えると法人税率のほうが低くなり、これがひとつの基準です。

会社活用のメリットの1つが個人の所得税・住民税の合計の税率と、法人税の実効税率との税率差です。個人が不動産を所有して賃貸した場合、その賃貸収入から生じる所得は不動産所得として課税され、他の所得と合算して、15%から55%の超過累進税率が適用されます。
超過累進税率のため所得が高ければ高いほど税負担が重くなります。そこで高収益の不動産を会社に移転させ、不動産所得を会社に移転させます。会社に移転した所得について、個人にかかる所得税等と会社にかかる法人税等との差額が節税となります。
次の表は個人の実効税率と法人の実効税率を比較したものです。一定の規模を超える個人の不動産業の場合には、不動産所得の金額が年間290万円を超えると、超えた部分に5%の税率で事業税がかかりますので、これも考慮しなければなりません。 所得税・住民税の税率が法人税の実効税率24.81%(中小企業の800万円以下の所得)を超えるのが課税所得金額695万円を超える場合ですので、課税所得金額695万円が会社設立の1つの分岐点ともいえるでしょう。

表:個人と法人の実効税率の比較(目安)

課税所得金額 個人の実効税率 法人税の実効税率(概算)
195万円以下 15.0%

中小企業の800万円以下

24.81%
195万円超〜330万円以下 17.0%
330万円超〜695万円以下 23.9%
695万円超〜900万円以下 25.9%
中小企業の800万円超 33.58%
900万円超〜1,800万円以下 34.4%
1,800万円超〜4,000万円以下 43.0%
4,000万円超 43%〜55%

(注1)法人の実効税率は事業税を含みます。(注2)復興特別所得税等は考慮していません。

会社設立の留意点(デメリット)

会社設立はメリットだけではなく、デメリットもあります。メリットとデメリットを整理しておきます。

会社設立のメリット 会社設立のデメリット
  • 相続対策
  • ・本来不動産所得者に入る収入が会社に入り、個人財産の蓄積を防ぐことができる
  • ・出資者を将来の被相続人以外にしておけば、会社に相続税はない
  • ・不動産を贈与するより出資持分を贈与する方が、コストもかからず容易にできる
  • ・会社に収益力をつけることができれば、会社を通して相続税の納税資金の準備ができる
  • ・会社で生命保険に加入し、その生命保険金を原資に退職金支給して相続税の納税資金にできる
  • ・「相続もめ」対策として相続人ごとに会社設立
  • 所得税対策
  • ・不動産所得者が高所得のときには、分散することで税率が低くなる
  • ・勤務の実態さえあれば所得を数人に分散することができる
  • ・生命保険の掛金、土地取得借入金利息、その他経営上必要な出費は会社で費用にできる
  • ・個人の場合は欠損金の繰越しや損益通算には様々な制限があるが、会社の場合は欠損金を最長10年間繰り越すことができ、損益通算も可能である
  • ・個人の場合は欠損金の繰越しや損益通算には様々な制限があるが、会社の場合は欠損金を最長10年間繰り越すことができ、損益通算も可能である
  • ・会社設立時の費用が25~50万円程度かかる
  • ・社会保険は強制加入とされており、会社負担分の保険料が余分にかかる
  • ・経理を個人と分離してしっかり記帳しなければならず手数がかかる
  • ・決算・申告が所得税と比べ複雑なため税理士費用が必要となる
  • ・会社には赤字でも法人住民税の均等割がかかる

会社であっても株主の共有

子が複数人いる場合に、不動産を共有で相続させると後々もめることを心配して、不動産を会社に移転することで解決できると思っている人がいますが、会社活用はこの悩みを完全に解決できるわけではありません。株主が複数いると会社は株主の共有という形ですから、会社としての意思決定に際しては株主の過半数の賛成、自己株買いや増資等に関しては3分の2以上の賛成が必要であり、意見が異なり簡単にいろいろなことが実行できないのは、不動産の共有と同じです。
例えば、複数の土地をそれぞれの子ごとに単独に相続させる予定の場合には、1つの会社で実行すると、かえって将来の争いの種を作ることになりかねません。このような場合には、それぞれの子ごとに会社を設立しておき、将来の意思決定を単独で行えるようにしておくことが大切です。

会社に財産を蓄積する

何世代にもわたり、不動産所有者の相続を成功させるには、会社に財産を持たせて子孫はその株式を承継していくという方法が良いでしょう。会社に財産がなければ、長期的な相続対策にはなりません。
長期間にわたり様々な手法を活用にすることにより、株式の評価を下げて移転できます。また、相続発生時に被相続人に死亡退職金を支給する、相続人から相続財産を買い取るなど会社を通じた納税資金の準備もできます。法人税の節税のみを考えるより、ぜひ、豊かで頼れる会社に育ててください。

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