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コラム vol.507-6
  • 土地活用税務コラム

相続対策としての「短期対策」(6)生命保険

公開日:2024/11/29

被相続人の死亡により各相続人が取得した生命保険契約の保険金等の合計額が500万円に法定相続人の数を乗じて算出した金額以下であるときは、相続税は課税されません。この保険金の非課税限度額をフルに活用することが相続税の納税資金対策にとっては必須項目といえます。
しかし、既に加入していた生命保険がすでに満期を迎えたりして、相続税法に定める保険金の非課税限度額をフルに活用するだけの保険に加入していない人も多くいます。

また、高齢であったり、病気であったり、一般の生命保険に追加加入が困難な場合には、以下のような方法を検討します。

告知不要の生命保険への加入

保険会社によっては、契約年齢90歳まで加入することができる生命保険を販売しています。この場合、健康状態等の告知や医師の診査がなく、原則として、入院中でないなど一定の条件を満たす場合には、簡単な手続で生命保険に加入することができます。 このような生命保険を活用すれば、生命保険金の非課税枠の確保ができていない人が、容易に相続税の課税財産(現預金)から非課税財産へ組み換えることができます。

生命保険契約を第二次相続対策に役立てる

実質的に相続とは、第一次相続及び配偶者の第二次相続を経て、すべての財産が子や孫などの次の世代へ移転されたときに初めて完了したことになります。したがって、相続対策を考える場合も、第一次相続の被相続人のみについて対策を講じるだけでは十分な対策とはいえません。
現時点では夫のみが資産家で妻には資産が少ないケースでも、先に夫の相続が発生し、法定相続分を妻が相続すると、妻も一気に資産家となって相続対策が必要となる事態に陥ります。さらに、夫の相続が発生してから妻が生命保険に加入しようとしても、年齢や健康状態によっては加入できないということも考えられます。したがって、配偶者についても、保険料が安く健康状態も良好な若いうちに生命保険に加入し、第一次相続の被相続人と同様に第二次相続の配偶者も生命保険金の非課税枠の確保などの対策をとった方が良いでしょう。
この場合に、配偶者本人が保険料を負担して自らを被保険者とする終身保険に加入することができれば問題はありませんが、配偶者にそのような資力がない場合も少なくありません。その場合には、第一次相続の被相続人が保険料を負担して、第二次相続対策のための保険を準備するようにします。
第一次相続の被相続人が配偶者を被保険者とする生命保険契約の保険料を負担していた場合、第一次相続においては「生命保険契約に関する権利」として評価され、契約者又は遺産分割協議により相続することとなった相続人がその権利を取得することとなります。その後はその権利を取得した者がその保険料を負担したものとして取り扱われることから、生命保険契約に関する権利を相続する者を工夫することにより、第二次相続において受け取った生命保険金に対する課税の軽減を図ることが可能となります。

生命保険契約を遺産分割対策に役立てる

生命保険を利用して、他の者に遺留分の放棄をさせずに、特定の者に多く財産を相続させることができます。生命保険はみなし相続財産と呼ばれ、保険金受取人の固有の財産とされます(被相続人の遺産ではありません)。したがって、相続が発生した場合でも、遺産分割協議を経ることなく財産の取得者が確定します。よって、現預金を生命保険に組換えることによって、確実に特定の者に当該財産を相続させることができます。
しかし、相続発生直前においては、健康状態に問題があり生命保険には加入できない状況下にあると思われます。そこで、被保険者を被相続人以外の者とすることによって、現金を生命保険契約に組み換えます。
この場合に留意すべきことは、保険契約者を特定の相続人にしておくことです。このことにより、保険契約者固有の財産として遺産分割協議を経ることなく当該保険契約の取得者が確定します。相続によって取得した後は保険契約を解約して現金化する方法もありますし、もちろん保険契約を継続しても構いません。解約を前提として保険契約に組換える場合には、あらかじめ解約返戻率の高い保険商品を選ぶようにします。

  • <契約形態>
  • ・保険契約者 長男
  • ・保険料負担者 父
  • ・被保険者 長男の子
  • ・保険金受取人 父
  • (注)父死亡後は当該保険契約を継続する場合には、長男を保険金受取人に変更しておくようにします。

以上のような保険契約であれば、契約者である長男固有の財産となることから、遺産分割協議を経ることなく、長男が取得することができます。なお、相続税においては当該保険契約の解約返戻金相当額が、みなし相続財産(「生命保険契約に関する権利」)として相続税の課税対象となります。

死亡保険金の受取人を変更する

若いころから加入している生命保険に関しては、受取人を配偶者にしているケースが一般的です。夫が亡くなったあとの妻の生活保障という観点からは、この契約形態が理想的です。
しかし、相続対策で加入する生命保険は主に相続税の納税資金に充てる目的のために加入するものですから、配偶者は法定相続分又は1億6000万円までの財産を相続したとしても、配偶者の税額軽減により納付税額が生じないため、配偶者が生命保険金の受取人となっている契約形態は最適な選択とはいえません。また、相続税の計算においても、第二次相続まで考慮すると第一次相続で、たとえ非課税で配偶者が生命保険金を受け取ったとしても、第二次相続でその保険金相当額の金銭が課税されることとなり、通算相続税では不利になってしまいます。 そこで、配偶者の老後生活資金が十分用意されている場合には、死亡保険金の受取人を配偶者から子へ変更し、通算相続税額を軽減するようにします。

  • 【ケース】
  • 1.第一次相続の被相続人 父(令和6年3月死亡)
    • イ 相続人 母・子
    • ロ 遺産の額 5億円
    • ハ 上記のほか、父が保険料を負担していた生命保険金1億円が支払われた。
    • ニ 父の遺産は、相続税の課税価格(生命保険金等の非課税考慮後)が法定相続分となるように分割した。
  • 2.第二次相続の被相続人 母(令和6年10月死亡)
    • イ 相続人 子
    • ロ 母の財産は、父から相続した財産のみで、固有の財産はなかった。
    • ハ 母の財産は、父の相続時から変動はなかったものとする。
  • 3.比較案
    • ケース1:父の死亡保険金の受取人は契約当初から母のまま
    • ケース2:父の死亡保険金の受取人を子に変更
  • 4.対策の効果
    • ケース1とケース2の場合で父の第一次相続及び母の第二次相続までの相続税を比較してみます。
    • ※ケース1の現預金は第一次相続で母が受け取った父の死亡保険金である。

このように、第一次相続では母が受け取った生命保険金のうち1000万円は非課税となり、9000万円の生命保険金が課税の対象となりますが、第二次相続で1億円の財産として課税されることとなってしまいます。
また、その他の財産に現預金がなく、また物納に適した財産もない場合、ケース1では子は納税資金がないため、母に相続税を立替払いしてもらうか、延納を申請しなければなりません。 したがって、ケース2のように相続税の納税資金対策として加入している生命保険については、受取人を子に変更しておくことが肝要です。

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