地震や台風などの災害が発生したときに備えたい。
そう思っていても、防災グッズや非常食を備蓄し続けるのは、
収納スペースの確保や、保存期間に応じた入れ替えが必要で、簡単ではありません。
そこで注目されているのが、「日常時」と「非常時」のフェーズ(状態)を分けずに、
普段の暮らしで使っているものやサービスを生かす「フェーズフリー」の考え方。
通常の生活をしながら可能な防災対策について、具体例を交えてご紹介します。
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Part1
フェーズフリー
(備えない防災)とは? -
Part2
フェーズフリーな
防災グッズ4選! -
Part3
フェーズフリーな住宅
とは?
あるとうれしい
設備や空間を解説 -
Part4
これからの住宅(家づくり)に
フェーズフリーの
考え方を取り入れよう
Part1フェーズフリー(備えない防災)とは?
普段の暮らしで使っているものを災害時にも活用する、フェーズフリーは「備えない防災」とも呼ばれます。どうしてこの考え方が注目を浴びるようになったのか、その背景にはどんな問題があるのでしょうか。また、そもそもフェーズフリーという言葉の意味や、どうやって実践するのがよいのかも簡単にまとめました。
災害のためだけに備えるのが難しい
世界でも地震の発生回数が多い日本では、今後も大きな被害が予想される巨大地震の可能性があります。気候変動の影響と考えられる台風や豪雨による災害の頻度も増しており、防災への意識が社会全体で高まっているのは間違いありません。その一方で、災害の種類と規模、被害の状況によって、必要な防災グッズや備蓄する食料品の量も変わってくるため、何をどれくらい備えれば万全か、判断が難しいところがあります。
もし被災した場合に、支援物資が届けられるまで自宅で過ごせるかどうか、避難場所にすぐ行く必要があるのかなど、その時にならないと分からないこともあるでしょう。これはそれぞれの家庭だけではなく、災害時に対応する地域の自治体を含めた社会全体の問題といえます。災害のためだけに十分な備えをすることは、費用的にも大きな負担が生じるため現実的ではないかもしれません。そんな共通理解によって、フェーズフリーが注目されるようになった背景にあると考えられます。
フェーズフリーとは?
「フェーズ」という言葉には、段階、局面、状態などの意味があります。「フェーズ」に「フリー」を合わせることで、日常時と非常時のフェーズ(状態)の垣根をなくし、普段活用しているものを、非常時にも役立てるという意味で使われています。すでにあるものをフェーズフリーに生かすケースもあれば、新たにデザインして作り出すケースもあります。無理なく、負担感を抑えながら、日常時も非常時も生活の質を向上させることが目的となっています。
例えば、自宅で食べている食料品のうち、常温保存できる缶詰などを多めに備蓄し、賞味期限切れを防ぎながら使った分を買い足していくローリングストックも、フェーズフリーの方法の一つ。非常用持ち出しリュックにしまったままの懐中電灯やラジオなどは使う機会がなく、本当に必要なときに故障や電池切れということもあるかもしれません。しかし、趣味のアウトドアグッズを購入する際、非常時に有用な機能を兼ねたアイテムを選択すれば、フェーズフリーに活躍の機会が増えるはずです。
Part2フェーズフリーな防災グッズ4選!
実用的で便利でないと、結局は利用しなくなってしまうもの。納得できる価格かどうかも重要なポイントでしょう。ぜひ自分の暮らしに合ったものを選ぶようにしてください。なお、一般社団法人フェーズフリー協会では、商品やサービスが日常時も非常時も価値を持つことを認証する「フェーズフリー認証(PF認証)」を推進していますので、その認証があるものを参考にするのも良いでしょう。
ランタン/カセットコンロなど(アウトドアグッズ)
アウトドアグッズにはそのまま防災グッズになるフェーズフリーなものがたくさんあります。電気が止まると、夜の時間帯は真っ暗になってしまいますが、LEDヘッドライトやランタンがあればケガを防ぐことができ、精神的にも安心して過ごせます。カセットボンベが使えるカセットコンロなら、災害時でも温かい食事が用意でき、暖房の熱源としても利用することが可能です。使用する電池やカセットボンベなどもローリングストックをしておけば、いざというときに耐用年数が過ぎていたということを防げるでしょう。
寝袋やマット類は、自宅はもちろん、避難所での睡眠の質を高め、快適な生活をサポートしてくれます。そのほかにも、クーラーボックス、携帯浄水器、非常用ブランケットなどは、さまざまな用途に活用できるでしょう。キャンプなどで日常的に使う頻度が高いものほど、コストパフォーマンスが向上し、メンテナンスもされるので安心感が増すかもしれません。
ただし、避難所のスペースで個人用テントを使用するのは、他の人の迷惑になるのでやめましょう。特別に許可されたスペースや、車中泊時の駐車場での使用なら、着替えるときなどに活用できそうです。
モバイルバッテリー/ポータブル電源
最近はモバイルバッテリーを普段から使う人が増えていますが、アウトドア用の大容量のポータブル電源にも人気を集めているようです。ソーラーパネルと組み合わせることで、天候が良ければ長期間にわたり充電して使い続けられ、とても便利です。容量の大きいタイプなら、停電時でもさまざまな電気製品を使用することが可能です。特にスマートフォンは災害時の情報収集などに必須のアイテムですので、充電して常に使用できるようにしたいところです。
これらのバッテリーで注意したいのが、いざ使いたいときに十分に充電されていないと使用できないこと。ガレージや倉庫にずっとしまっておかず、キャンプなどで利用したら満充電の状態に戻しておくようにしましょう。なおポータブル電源を長期間使用せずに放置した場合など、過放電により充電できなくなることがあります。この点に気を付けて使用するとともに、できれば過放電対策がされているタイプの製品を選ぶようにしましょう。また、必要な容量やサイズは、使いたい機器や家電によって変わるので、この点にも注意しましょう。
ウェアラブルメモや耐水メモ
自宅やオフィスにあると便利なアイデアグッズの中にも、フェーズフリーに活用できるものがあります。腕に巻くシリコンバンド型の「ウェアラブルメモ」は、看護師など動きながら仕事をする人のために作られましたが、緊急時に電話番号などメモする際に活躍しそうです。また、100円均一ショップでも販売されている「耐水メモ帳」や、圧縮空気がインクを押し出す「加圧式ボールペン」があれば、悪天候時に雨に濡れても問題なく文字を書くことができ安心です。ちなみに、自分の持ち物にガムテープを貼って油性ペンで名前を書いておくと、避難所での紛失や、他の人の持ち物との混同を防げます。
撥水バッグ
スポーツ、園芸、屋外作業など、普段の暮らしのシーンと非常時の両方で活躍しそうなアイテムが、バケツとしても使える「撥水バッグ」。雨の日に買い物をしたときや、大切な仕事の荷物を持ち歩くときなど、中身が濡れないように保護するだけでなく、災害時には水を運搬するバケツとして利用できる優れものです。断水してしまうとトイレの使用や洗濯などもできなくなりますので、災害時に給水所から水を入手する手段を確保しておくことはとても重要です。キャンプで使用するウォータージャグなども、給水を受けるときに重宝します。
フェーズフリーに防災グッズを備えるには、まずそもそも防災グッズとして何が必要かを知ることも重要です。その上で「これならアウトドア用品で準備できそう」など、フェーズフリーにつながるアイデアを膨らませていきましょう。
Part3フェーズフリーな住宅とは?
あるとうれしい設備や空間を解説
日頃あまり意識せずに使っている電気や水道ですが、災害時は停電や断水などで止まってしまう可能性があります。住んでいる家に、それを補うことができる設備があれば、どれだけ心強いでしょうか。また、支援物資が届けられるまでの間に必要な食料品や生活用品などを備蓄できる収納スペースも、ぜひ確保したいところです。
わが家を注文住宅で新築したり、建て替えたりする予定があるなら、フェーズフリーの概念を取り入れた家づくりを検討してみてはいかがでしょうか。耐震性や断熱性などの基本性能が優れた住まいに、以下でご紹介するような設備、間取り、収納を採用することで、日常時も非常時も快適に暮らせる住まいにできそうです。
太陽光発電システムや蓄電池
太陽光エネルギーを電気に変換する太陽光発電システムと、発電した電気をためておける蓄電池が住まいにあれば、災害で停電してしまっても普段通りに電気が使えます。ラジオやテレビで災害情報を得たり、スマートフォンを充電したり、さらに冷冷暖房や給湯にも利用できるでしょう。設備を設置する際は費用がかかりますが、普段の生活にかかる電気代を抑えられ、環境に配慮したエコな暮らしができるというメリットもあります。
パントリー(食品庫)
賞味期限切れを防ぎながら、使った分を買い足していくローリングストックの際に、大活躍するのがパントリーです。食料品だけでなく日用品もまとめて備蓄できれば、地震や台風、さらにはロックダウンの際にも安心です。キッチンの近くに設けると使い勝手が良いですが、買い物から帰って荷物を運び入れたり、非常時に出入りしたりすることも考えて設けるようにしましょう。パントリーは収納量と動線が大切なポイントになります。
土間スペース
天候を気にせず、子どもやペットと遊んだり、DIYなどの趣味を楽しんだり、土間スペースがあれば普段の暮らしで多目的に活用できます。ベビーカーやアウトドアグッズなど、外で使うものを置いておくにも便利です。ある程度の広さを確保しておけば、台風や豪雨のときに、プランター栽培している植物や、自転車などを一時的に避難させることもできます。
EV用設備
ガソリン代や環境への影響を気にして、EV(電気自動車)に乗り換える人が増え、充電設備を自宅に設置するケースも増えているようです。一般的な住宅にあるEV用の充電設備は、EVに搭載されたバッテリーへ電気を供給するだけです。これに対して、最近注目を浴びているV2H(Vehicle to Home/ビークル・トゥ・ホーム)のシステムでは、EVに搭載されたバッテリーにある電気を、自宅に送って使うことができるようになります。
双方向に電気の受け渡しができることで、災害などによる停電時に非常用電源として役立てられます。太陽光発電システムやエネファームで発電した電気をEVのバッテリーに充電するだけでなく、停電していない地域まで車で充電をしに行き、自宅に持ち帰ることも可能です。家庭用蓄電池よりも容量の大きいEVのバッテリーを有効に活用することで、日常時の電気代の節約に加えて、非常時の電気の確保もできる、まさにフェーズフリーな仕組みといえるでしょう。
「住まい」と「電気自動車」で電力を共有し合うエコな暮らし 「V2H」で私たちの暮らしはどう変わる?
造作家具
自分の好みやライフスタイルに合わせたオーダーメイドの造作棚や造作家具ならインテリアの統一感が生まれ、余分な家具や収納を置く必要がないので室内を広く使えます。造り付けでない家具は、地震に備えて固定するための用具が必要ですが、造作家具なら最初から固定されているため安定感があります。地震が起きたときに、書棚や食器棚などが倒れたり、避難経路をふさいだりすることを防げます。
雨水タンク
降った雨をためておける雨水タンクを設置して、普段ガーデニングの水やりや洗車などに使うことで、水道料金を節約できます。なお、雨水タンクの費用については、地域によって自治体などから補助金が出ることもあるようです。地震などで水道が断水してしまったときは、生活雑用水として利用が可能です。災害時は、飲料水以外の水の確保が難しいこともあるようですが、下水道が破損していなければ、トイレに流したり、清掃用に使ったりと多目的に利用することができます。
飲料水貯蓄システム
断水した場合、給水車の到着まで約3日はかかるといわれているため、飲料水も確保しておけるとさらに安心です。そこで注目なのが「飲料水貯留システム」で、家族4人分×3日分の飲料水(36リットル)を備えておくことができます。「飲料水貯留システム」は普段使用する水道に設置するため、水を清潔に保つことができ、メンテナンスが必要ありません。また、床下空間に設置できるため、居住スペースを狭めることもありません。
36リットルの水を居住スペースで備蓄するのは大変ですが、「飲料水貯留システム」はいつも通りの暮らしで飲料水を確保できる、まさにフェーズフリーなアイテムといえるでしょう。
※4日以上水を使用しなかった場合、貯留水の水質が低下している恐れがあるので、取水用器具の使用を再開する際、最初の110リットル(全開使用で15分程度)を飲料以外で使用してください。一部対応できない地域があります。
回遊性の高い動線
アイランドキッチンや、ウォークスルー型の収納、出入り口が複数ある水回りなど、効率的に回遊できる動線があれば、普段でも家事がスムーズにこなせます。通路部分の横幅に余裕を持たせて設計すれば、家事を家族で一緒にしたり、行き来したりするのにも便利です。この室内の移動のしやすさが、災害時に行き止まりに追い込まれて逃げ遅れたり、いざというときに防災グッズを取り出せなかったりすることを防ぎます。
Part4これからの住宅(家づくり)に
フェーズフリーの考え方を取り入れよう
非常時にどんな状況になるか、イメージするだけでは分からないからこそ、防災訓練が行われているのかもしれません。災害時に取る行動を、日常的に体験できるフェーズフリーを進めることで、実地での対応力を高められ、心理的な負担も軽減できそうです。経済的なメリットもあるので、できることから取り入れてみてはいかがでしょうか。
これからの住まいは、防災がますます重要なキーワードになってくるでしょう。耐震性や断熱性の高さに加えて、災害でインフラが停止しても自宅で生活できる、十分な備蓄品と電気の確保ができる住まいが求められています。
大和ハウスでは、阪神・淡路大震災クラスの衝撃を基にテストした構造や、類焼の被害を防ぐ構造、さらに地震による電気火災を未然に防ぐなどの非常時対策が取られた住まいを提案しています。
また、太陽光パネルとエネファームで使う電気を蓄電池にためる「全天候型3電池連携システム」で停電時も電気の自給自足を可能にしています。そしてV2H(Vehicle to Home/ビークル・トゥ・ホーム)のシステムで、EVに搭載されたバッテリーにある電気を自宅で使えるようにするなど、フェーズフリーにも対応。安全・安心な暮らしを送りたいと考えるなら、大和ハウスで家づくりを検討されることをおすすめします。
お話を伺った方
和田 隆昌(わだ たかまさ)さん
災害危機管理アドバイザー。感染症で生死をさまよった経験から「防災士」資格を取り、災害や危機管理問題に積極的に取り組んでいる。専門誌編集長を歴任し、長年のアウトドア活動からサバイバル術も得意。主な著書に『きょうから始める生活防災』(ワニブックス)他があり、講演会ほかTVなどマスコミ出演多数。