住宅は購入する際にお金がかかることはもちろんのこと、住んでからもお金がかかります。
具体的には固定資産税、都市計画税、メンテナンス費用(修繕費、設備修理費)、
各種保険費用、自治会費用などが挙げられます。
マンションの場合は、修繕積立金や管理費がメンテナンス費用にあたります。
今回は、長年住むなかで、経年変化により、不定期にかかる住宅メンテナンスの費用に焦点をあて、
住宅とお金の関係を考えていきましょう。
メンテナンス費用の考え方
住宅を購入する際に、戸建て住宅とマンションを比較される点の一つとしてよく挙げられるのは、管理費と修繕積立金の有無です。マンションの場合は物件価格に加えこれらの支払いが必要で、戸建て住宅は管理費と修繕積立金は必要ありません。確かに、戸建て住宅は、一般的に管理費が徴収されることはなく、修繕費を毎月支払う必要はありませんが自己で管理することになります。ただし、最近の戸建て住宅分譲地では管理組合を設立して、管理費を徴収する場合もあります。一方、マンションは、共用部分の管理を管理会社に任せ、積み立てた修繕費で共用部の修繕が行われることが一般的です。そのため、マンションでは修繕費が目に見えて必要で、戸建て住宅は必要がないと考える方がいたり、最初に必要ではないため後回しにする方もいたりしますが、これはよく考えてみると危険な考えということがわかります。
まず、マンションは共用部分のみの修繕費だけとなり、自宅の専有部分の設備の修理や内装補修は自己が管理することに注意しておかなければなりません。また、戸建て住宅は修繕積立金を強制的に支払う仕組みはありませんが、長く住み続けるためにも適切なタイミングでのメンテナンスが必要となり、修繕費はかかってきます。そのため、戸建て住宅の場合は計画的に修繕費を準備する必要があるといえるでしょう。では、戸建て住宅の場合の修繕費について考えてみましょう。
具体的なメンテナンス費用はいくら?
独立行政法人住宅金融支援機構が公表している「マイホーム維持管理の目安」によると、住まいの機能・性能を維持するため依頼したほうがよいメンテナンスがわかります。また、住宅産業協議会が公開している「住まいと設備のメンテナンススケジュールガイド 60年版」の「住まいメンテナンススケジュール」を見るとそのメンテナンス費用のおおよそがわかります。
わかりやすくするため、メンテナンス費用が高額となる屋根と外壁について、一部抜粋した表が下記の通りです。
表1:屋根と外壁の点検や取り替えの目安(「マイホーム維持管理の目安」より抜粋)
部位 | 仕様 | 点検時期の目安 | 取り替えの目安 |
---|---|---|---|
屋根 | 屋根用化粧スレート葺き | 4~6年ごと | 15~30年位で全面葺き替えを検討 |
金属板葺き | 2~3年ごと | 10~15年位で全面葺き替えを検討 (3~5年ごとに塗り替え) |
|
外壁 | タイル貼り壁 | 2~3年ごと | 15~20年位で全面補修を検討 |
サイディング壁(窯業系) | 3~4年ごと | 15~20年位で全面補修を検討 | |
金属板 サイディング壁(金属系) |
2~3年ごと | 10~20年位で全面補修を検討 (3~5年ごとに塗り替え) |
表2:屋根と外壁のメンテナンス費用(「住まいのメンテナンススケジュール」より抜粋)
部位 | 仕様 | 費用 |
---|---|---|
屋根 | スレート瓦・鋼板屋根:表面塗装 | 60~80万円 |
スレート瓦・鋼板屋根:増貼り・葺き替え | 140~180万円 | |
粘土瓦・ステンレス:増貼り・葺き替え | 140~180万円 | |
外壁 | 塗装仕上げ:表面塗装(1回目) | 60~80万円 |
塗装仕上げ:表面塗装/増貼り(2回目) | 60~250万円 | |
塗装仕上げ:表面塗装(3回目) | 60~100万円 | |
タイル仕上げ:タイル洗浄/目地打替え | 5~70万円 | |
サイディング・ALC:目地打替え/塗装 | 2~200万円 | |
サイディング・ALC:目地打替え/塗装/増貼り/貼替え | 30~250万円 |
- ※屋根は勾配屋根120m2を基準に算出。
- ※屋外面積は170m2を基準に算出。
- ※足場代(20~40万円)が別途かかります。
- ※上記費用は延べ面積145m2の2階建て住宅を基準に算出。
- ※使用状況・立地条件・建物条件(仕様)・周辺環境により、上記と異なる場合があります。
仕様によって作業内容が変わるため、一概にいくらかかるとは言えないのですが、外壁の表面塗装をした場合、50年間に3回のメンテナンスを行ったとして、最低金額では180万円(60万円+60万円+60万円)、最高金額だと430万円(80万円+250万円+100万円)となります。この費用に加え、足場代が20~40万円かかります。メンテナンス費用には幅があるといえますが、多くの場合10~20年ごとに数百万円単位での高額な費用を準備しなければならないことは明らかです。この数字は、外壁のみの費用です。特に20~30年目には多くの部位が取り替えと補修の時期を迎え、メンテナンスすべきとされていることから高額な費用の準備が必要です。
しかしながら、同じ仕上げ方(仕様)でもメンテナンスに必要な金額に大きな差があるのはなぜでしょうか。環境による劣化の進み具合の違いや依頼する業者の価格設定の違いよるものとも考えられますが、仕上げ方(仕様)の違いで費用がかなり変わります。外壁が金属板サイディング壁である場合、点検のサイクルが早いことが読み取れます。
また、建設時のそもそもの住宅の構造躯体や仕様の差により、住宅の寿命を延ばし、次のメンテナンスまでの期間が長く取れる場合もあります。つまり、メンテナンス費用があまりかからない住宅もあるのです。
住宅のアフターサービスと保証
冒頭で、住宅を購入する際に、マンションは物件価格(諸経費含む)+修繕積立金+管理費がかかることが一般的で、戸建て住宅は物件価格(諸経費含む)以外の費用(修繕費等)を購入時に支払う必要がないと考え、必要になった時にためたお金で支払えばよいと後回しにする方について言及しました。しかし、新築住宅(分譲住宅、戸建て住宅、マンション等含む)には、ハウスメーカーや工務店によるアフターサービス基準に基づいた定期点検や保証が付帯しています。無償、あるいは有償での定期点検で不具合があった場合に初めて、保証により無償で修繕ができるのか、または、修繕費が必要となる可能性があるのかという話になり、ここでお金のことを意識することになります。つまり、この定期点検と一体になって、メンテナンス費用の話が出てくるのです。
そして、メンテナンス費用があまりかからない住宅というのは、そもそもの住宅の品質と、定期点検および補修の保証期間や内容によるところが大きく、これらはハウスメーカーによって差が出てくるのです。
なお、2000年(平成12年)に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)では、「住宅の柱や壁など構造耐力上主要な部分」、「屋根など雨漏りを防ぐ部分」に、瑕疵(工事不備、欠陥など)が見つかった場合について、「引き渡し後10年以内に見つかった場合は、売主(または施工会社など)が無償補修などをしなくてはならない」とあります。そのため新築住宅では、構造欠陥や雨漏りに関しては、売主は、買主への引き渡した時から10年間、瑕疵担保責任免責を負わなければならず、どのハウスメーカーでも10年間は保証しています。
この法律に基づいた保証のことを長期保証といいます。各ハウスメーカーや工務店などの建設会社によって若干の違いはありますが、それ以外の保証はハウスメーカー独自のアフターサービスの保証として分けて考えられています。
この長期保証は、ローコスト住宅や建売住宅(注文住宅並みの高品質住宅は除く)では定期点検および定期点検後の補修をきちんと行っている条件下で、10~30年に設定されている傾向があります。つまり、各ハウスメーカーで長期保証を打ち出していますが、期間の違いなどはあるものの、どのメーカーも「条件付き保証」という点は共通です。そのため、初期保証期間に関しては、その保証期間に対する条件もしっかり確認しておきましょう。大手ハウスメーカーの高品質な注文住宅の場合、60年や永年の長期保証をしているハウスメーカーもあります。このように手厚い長期保証を備えているハウスメーカーは、防蟻や住宅設備機器などの長期保証以外の保証においても1~2年といった短い保証ではなく、10年間の手厚い保証を付けていることが多いです。
表3:住宅の種類による保証別保証年数の傾向
住宅の種類 | 保証 | 保証年数の傾向 |
---|---|---|
ローコスト住宅 | 長期保証 (構造欠陥、雨漏り) |
10~30年が多い |
長期保証以外の保証 (防蟻、住宅設備機器) |
1~2年が多い | |
高品質住宅 | 長期保証 (構造欠陥、雨漏り) |
30~60年、永年と記載が多く、60年以上の保証が多い |
長期保証以外の保証 (防蟻、住宅設備機器) |
10年が多い |
参考:優良ストック住宅推進協議会の会員であるハウスメーカー10社ホームページおよびSUUMOにて坪単価40万円未満で建築可能であるハウスメーカー各社ホームページより作成
なお、ここでは、高品質住宅とは丈夫な構造躯体を持つ住宅であることに加え、適切にメンテナンスを行っているハウスメーカーと定義させていただきます。具体的には一般社団法人優良ストック住宅推進協議会(高品質を保つ住宅の流通の活性化を行う会)にて活動を行っているハウスメーカー10社が高品質ハウスメーカーの代表といえます。これに対し、ローコスト住宅とは、材料や保証面などでコストカットを行っているハウスメーカーとなります。おおよその目安として、住宅金融支援機構の2020年度の調査によれば、注文住宅の建築費の平均は2,961.2万円、土地付き注文住宅面積の平均111.1m2(約33.6坪)となり、1坪あたり約89万円となります。この平均金額よりも大幅に安く建てられるハウスメーカーがローコスト住宅といえるでしょう。
一般社団法人 優良ストック住宅推進協議会「スムストック」 (sumstock.jp)
このように住宅の種類により、保証年数が変わり、その影響により、メンテナンス費用が変わることがわかります。メンテナンス費用は高額になる場合もあるため、住宅購入検討時に具体的な物件で想定し、メンテナンス費用を含んだライフプラン表を作成し、資金計画に組み込んでおくことが重要です。
まとめ
自然な経年劣化によって、建物や設備の修繕、交換が必要になれば、所有者の判断と負担で行わなければなりません。また、建てた当初の性能を維持していくには、計画的なメンテナンスも欠かせません。こうした点検、メンテナンス、修繕、交換などを適切に行うかどうかで、建物の寿命が大きく変わってきます。それは、建物の資産価値にも当然、差がつくようになるでしょう。
そこで、長期保証に加え、長期的な視点を持ち、充実したアフターサービスがあるかどうかについて確認し、あらかじめメンテナンスに必要な資金を想定し、準備することが必要となってきます。長い目で見れば、きちんと修繕を行っていけば、住宅は長持ちすることにより、老後の住宅費を軽減させることにつながり、資産ともなります。そのためにも良質な家を選び、計画的な維持管理をしていきましょう。
執筆者
山田健介
FPplants株式会社 代表取締役社長
住宅メーカーから金融機関を経て「お客さまにお金の正しい知識や情報をお伝えしたい」という思いからFPによるサービスを行う会社を設立。現在は全国のFPを教育する傍ら、執筆、セミナーを行う。特にライフプラン作成、住宅、保険に関する相談を得意とする。
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