新居を建てたらグリーンや花などの植物を置いて、
緑あふれる暮らしをしたいと憧れる方は多いでしょう。
植物が身近にあると気持ちが穏やかになるだけではなく、
植物のお世話をすることで心のゆとりにもつながります。
植物の選び方やお世話のコツ、センスのいい飾り方について、
フラワー&グリーンスタイリストのさとう ゆみこさんにお伺いしました。
Profile
フラワー&グリーンスタイリスト
さとう ゆみこさん
「green&knot」主宰。フラワーショップ、インテリアショップ、専門学校の講師を経て、現在はフラワーコーディネートから空間スタイリング、グリーンアドバイザーまで植物にまつわる幅広いジャンルで活躍中。レッスンも定期的に開催。
植物が身近にある暮らしの良さとは?
観葉植物や切り花、枝ものなど、植物を使った空間スタイリングやレッスンを行っているさとう ゆみこさん。ご自宅には切り花や鉢植え、ハンギンググリーンがセンス良く飾られ、思わず深呼吸をしたくなるような心地よい空気に包まれています。さとうさんが植物に魅せられたきっかけは何だったのでしょうか。
「高校生の時に、庭のある戸建てからマンションへ引っ越しをしたんです。身近に土や植物がないことを初めて実感して、ベランダで植物を育てるようになりました。それ以来、植物は私にとって良きパートナーに。
私たちの衣食住を支える食べ物や衣服、家具なども植物からできているものが多いですよね。人間にとって植物はとても身近でありながら、謙虚な気持ちにさせてくれる存在。定年退職後に畑仕事を始める方が多いのも、植物の持つ力に引きつけられるからではないかと思うんです」
さとうさんに植物のある暮らしの良さを教えていただきました。
植物に触れると元気になる
「今日はなんだか頭が重いな、気分がすぐれないなという日でも、水やりをしたり草むしりをしたりしているうちに、いつの間にか元気になっていることが多いです。植物のお世話を通じて、自然と心身がリセットされるのかもしれませんね」
植物のお世話で暮らしが整う
「インテリアのアイテムとして、置き物や絵画などは一度飾るとあまり動かすことはありませんが、室内用のグリーンは風通しのいい場所やお日さまを求めて移動させるので、掃除をするきっかけになります。水やりをしてイキイキとした植物に囲まれていると、部屋の空気まで凛と整う気がします。植物を育てている方の部屋が散らかっているという話はあまり聞かないですよね」
植物の成長に発見や喜びがある
「屋外で育てる植物は成長に動きがあるのが魅力。果樹なら新芽が吹いて花が咲き、実をつけて葉が落ちて…という植物の1年の営みが目に見えるのでワクワク感があります。一方、室内用グリーンはベッドサイドやキャビネットの上など、暮らしの空間で植物の存在を身近に感じられます。亜熱帯や乾燥地帯の植物のように、日本には自生しない植物を育てられるのも室内用グリーンならではの楽しみです」
品種は?サイズは?室内用グリーンを選ぶときのポイント
植物を選ぶときは「初心者でも育てやすいものを」と考えがちですが、さとうさんは「自分が好きと感じるものを選んでほしい」と言います。
「料理を始めるときに、最初はゆで卵から覚えなくてはいけないということはないですよね。初心者でもビーフシチューが食べたいなら、ビーフシチューから作ればいいと思います。植物を育てるのも同じで、自分が育ててみたい、飾ってみたいと感じる好きなものを選んでほしいです。そして選んだ植物について、よく調べること。どんな気候の国から来たのか、どんな癖があるのか…好きなものだからこそ個性や特性を深く理解してあげることが大事です。
とはいっても、初心者の方にとって育てやすい品種はあります。下記では取り入れやすい室内用グリーンをご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください」
育てやすい品種は?
「ウンベラータやベンジャミンなどのゴムノキの仲間やポトス、アイビーなど、昔から観葉植物として長く親しまれてきた品種は育てやすいものが多いです。水やりなどの管理のしやすさでは、リプサリスやペペロミアなどの多肉質の植物もいいかもしれません」
おすすめのサイズは?
「リビングには2m近くになるような大型の観葉植物を置くもの、というイメージがあるかと思います。しかし日照のために毎日移動させることを考えると、むしろ大き過ぎない鉢のものを飾る方が初心者にはおすすめ。わが家にも大型の観葉植物はありません。4~7号鉢(直径12〜21cm)くらいのサイズだと保水力もあり扱いやすいです」
切り花やハーブから始めてもOK
「植物に触れる入り口はどんな形でもいいと思います。観葉植物だと枯らしてしまいそうで不安と感じるなら、切り花や枝ものを飾るだけでも。料理が好きならハーブでもいいと思います」
最近はネットでも観葉植物を入手できますが、できれば店頭で実物を確認して、育て方などのアドバイスをもらうのが安心だそうです。
水やりや光量調整など、室内用グリーンのお世話のコツ
写真はすべてさとうさん宅で撮影したもの。これだけたくさんの緑に囲まれていると、さぞかしお世話が大変なのでは…と思いますが、さとうさんの基本的なお世話は1日1回、必要な箇所だけ水やりを10分程度行うだけだとか。それぞれの季節や必要に応じてお世話の仕方は変わりますが、それほど負担に感じることはなさそうです。室内用グリーンの場合、特に気を付けてほしいのは光の量と風通しです。
日差しや風通しを求めてローテーションさせる
「定位置を決めるのではなく、屋外も含めたいろんな場所にローテーションさせると植物が元気を保ちやすいです。1週間洗面所に置いたら、次の1週間は窓辺に、次の1週間は屋外にといった具合です。住む人にとっては日当たりがいいと感じているリビングでも、植物にとっては日照が足りないことも。4月~10月の春から秋にかけては積極的に屋外に出してみましょう。ただし、観葉植物の多くは直射日光では葉焼けしてしまうので明るい日陰に置くようにしましょう(サボテンなど一部、直射日光を好むものもあります)。
大切なことは日頃から植物に触れてよく観察してあげること。移動させたり、手に取ることで、土の表面や葉の裏側など異常があれば早めに対処することができます。屋外に出したときにはシャワーで表面を洗い流すのもいいですね。ホコリが取れ、虫の発生を防ぎ、葉の表面もリフレッシュします」
定期的に枝を切り戻して大きさをキープ
「長い間育てていると、鉢底から根があふれ出ていたり、水はけが悪くなったりと植え替え時期がやって来ますが、一回り大きな鉢に植え替えると植物全体も比例して大きくなります。もしそのままの大きさを保ちたいのなら、同じ植木鉢に植え替えするのがおすすめ。根を一回り切り戻して植え替え、同時に上部の枝葉も剪定すれば、下部はリフレッシュしてよみがえります。また、室内で育てると間延びして根元がスカスカになりがちなので、定期的に切り戻してキレイな樹形を保ちましょう」
植物を飾るテクニック。
人気のハンギンググリーンの注意点は?
高低差をつけて飾る
「床置き、椅子の上、チェストの上、天井からつるすといったように、高低差をつけて飾ると立体感が生まれます。成長すると垂れ下がるつる性植物は、ハンギングや高い場所へ。小さい植物でも、高い位置にあると目線に入るので背の高い観葉植物のような存在感が出ます。わが家では天井に専用のアンカーを打って植物をハンギングしていますが、水やり後は重くなるので、必ず耐荷重を確認の上、安全性を考えて、軽量で割れないプラスチック鉢そのままか、ブリキや木製などを選びましょう。ワイヤーひもでつるすとおしゃれな雰囲気に」
まとめて飾る
「バラバラに飾る方法もありますが、小さめの植物をいくつかまとめて配置するのもおすすめ。私は大きなアルミのトレーに複数の植物をまとめて飾っています。受け皿は不要ですし、一つ一つの植物の形が多少崩れてもまとめて飾れば目立たず、寄せ植えのような趣になります」
陶器の鉢カバーを流用する
「植物が増えるたびにすべて陶器の鉢を用意すると、植え替えや移動が大変です。お店で売られているプラスチックの鉢のまま、陶器の鉢カバーに入れるだけなら簡単。屋外に出すときは中身だけ取り出せばOKです」
植物と暮らすために最適な住まいとは?
これから家を建てる方に向けて、植物と暮らすために適した間取りやあると便利な住宅設備についてお聞きしました。
「まず、ハンギンググリーンを楽しむなら、下地の補強は必要です。また、バルコニーに植物を置くなら、フェンスの素材で日照がかなり変わってくるので注意しましょう。たとえば植物に映えるウッド素材は光を通さないので、その陰になった植物の日照が不足しているかもしれません。ローテーションさせたり、配置する角度を工夫しましょう。
もし私が家を建てるなら、バックヤードは必ず作りたいですね。わが家は専用庭がついたマンションの1階の角部屋ですが、鑑賞する庭(南向き)と洗濯物を干す場所(東向き)が独立しています。リビングに面したウッドデッキにはそのときに美しい状態の植物を飾り、切り戻した植物や花が終わった後の植物は洗濯物を干している東向きのスペースにと使い分けています。眺めるバルコニーとバックヤードを使い分ければごちゃごちゃしません。
リビングとウッドデッキの段差がなく、内と外がシームレスにつながっているのもいいですね。窓の外から数メートルの範囲はリビングの延長として視界に入るのでとても重要。室内から外を眺めたときの景色も考えて設計するといいと思います」
さとうさんのマンションの専用庭には、リビング外のウッドデッキにローテーションさせている植物たちが置かれ、その向こうにはウッドフェンス、落葉樹のアオダモの木やビワの木が育ち、その先に芝生が広がっています。家の中と外が緑でつながり、外の景色も家の一部のよう。
「もし建てようとしているおうちの庭部分が日陰になるなら、デッキを広めに取るのがおすすめです。いずれ地面に植物を植えようと地面の部分を大きく取る方が多いのですが、日陰だと植栽だけでなく、芝生も敷けないので、あえてその分デッキを伸ばし、季節に応じて植木鉢や屋外家具を置くと良いです。広いスペースで、作業や食事などがしやすい多目的な屋外リビングになります」
まとめ
「枯らしてしまったら…と躊躇する方も多いですが、私もたくさん失敗してきて、実際に育てたから分かることもたくさんありました。まずは小さなものから育ててみて、植物との暮らしをたくさんの方に経験してほしいと思います」と、さとうさん。植物を心地よくしてあげることで、自分自身も心地よくなる。そんな毎日を始めてみませんか。