鹿児島県鹿屋市(かのやし)。料理研究家として活躍される門倉多仁亜さんは
夫の故郷であるこの地に、こだわりの住まいを建てました。
家づくりの秘訣や住まいに表れた人生観についてお話を伺いました。
料理研究家として活躍する門倉多仁亜さんは、日本人の父、ドイツ人の母の間に生まれ、ドイツ、日本、アメリカで育ちました。結婚後も夫の転勤に合わせて度々引っ越しを経験。いつか自分たちの家を、という夢が実現したのは約8年前のことです。
東京から飛行機と車で約3時間、鹿児島県鹿屋市にその住まいはあります。家を建てて以来、東京と鹿児島を行き来し、2拠点で生活中。距離はあっても帰るのが苦にならないのは、こだわって建てた自分の家だから。「当初は夫の従弟が営む設計事務所に依頼して図面を描いてもらったんです。でも、人任せでは生活のイメージが湧いてこず、自分で絵を描いてみたのが始まりです」
とはいえ、初めての家づくりは何からすれば良いのか分からず、多くの建物を見学して研究したそうです。最初は日本らしい和風の家に憧れましたが、畳に座ったり、布団を上げ下げする生活は自分には合わないと思い方向転換。次にドイツ風の住宅も検討しましたが、極寒の冬を意識した家は高温多湿な鹿児島にはふさわしくないと判断し、「風通しのいい家」をコンセプトにしました。特に参考にしたのはアメリカ南部、ミシシッピにある友人宅。日本と同じ高温多湿の地域なので取り入れられる部分が多いと考えたのです。「まず家での暮らし方を考え、その土地に合った生活を想像してみると、自分らしい家の完成形が見えてきます」
台風銀座とよばれる鹿児島。この地域の慣習に倣って、台風の被害を受けにくい平屋としました。「風通しのいい家」がコンセプトなので、間取りの真ん中に広い廊下を設け、風が通り抜けるように。材木は地元産の杉をふんだんに使っています。
住まいの内部には、多仁亜さん自身が世界各地の居住地や旅先で見つけたさまざまな工夫が、あちこちに生かされています。天井が高くつくられているのはロンドンの家を参考に。人口が密集し、広い敷地を確保しづらいロンドンでは広さを演出するため、天井を高くするそうです。
特にこだわったのは窓やドアの枠。既製のアルミサッシはこの家に合わないと思い、大工さんに杉の窓枠の作成を依頼しました。室内外のドアも、職人さんによるものです。塗装も施さない無垢の木材は、時間経過とともに色合いも変わっていくので、楽しみの一つとして見守っています。
同様に、地元の細山田石を家の周りにぐるりと敷き詰めた石回廊も経年変化が楽しめます。年月とともに苔が生えてくるようになり、取り除くなど手間も増えました。でも「生えてきたときは本当にうれしかった」とのこと。家が周囲となじんできた証のようで、苔を誇らしくさえ感じたそうです。
鹿児島に残る洋館をモデルにした外観。平屋建てで台風の影響を少なくする工夫も
幅広くとった廊下は風通しが良く、快適な居場所に
棟梁こだわりのリビング天井。知人から譲り受けたシャンデリアが映えます
ベンガラを混ぜた漆喰が一面に塗られた廊下の壁。古い家具や小物を取り入れることで、新しい住まいが心落ち着く空間に
廊下の壁は刷毛(はけ)目がきれいな赤色。ベンガラを混ぜた漆喰(しっくい)は虫よけ対策になり、自然素材の壁なのでコンセプトにもマッチ。数年に一度塗り替えるので、気分を一新することができます。
「このように細部までこだわった家は日本の大工さんの優れた技術なしには不可能でした」と多仁亜さん。なかでも秀逸なのがリビング天井のデザインです。穴を開けるのはもったいないと思い、付ける予定だったエアコンはなしに。知人から譲り受けたシャンデリアが美しい天井をより引き立てています。こんな名作を生む職人文化が途絶えないよう、日本各地で地元の大工さんが活躍できることを望んでいます。
こだわり抜き、考えつくして建てた住まいですが、まだまだ改善する余地があるのだとか。「火山灰は入ってくるし、暑いし、収納にこもる湿気も気になります」と笑う多仁亜さん。パーフェクトではなくても、自分にとってはとても居心地のいい家です。
「こちらでは“てげてげ”という言葉があります。薩摩弁で、ぼちぼちという意味。家づくりも“てげてげ”の精神が大事です。完璧を目指すのではなく、暮らしの中で家をつくっていきながら楽しめばいいんです」
多仁亜さん邸のもう一つのコンセプトは「客人を招く家」。「遠方から来てくれるお客さんにゆっくりくつろいでほしい」と、長期滞在を念頭に置いた間取りになっています。
玄関から入って右側はリビングやキッチン、ダイニングなどのパブリックスペース。左は寝室や書斎などのプライベートスペースと、浴室やトイレを備えたお客さま用のベッドルーム。共有すると気を遣ってしまう水まわりは別個に設け、お互い気兼ねなく過ごせるようになっています。
自身も家事やおもてなしに力を入れすぎず、来客時の料理はバーベキューのような簡単でおいしいものを振る舞います。「模範的な妻を演じて、家事やおもてなしを完璧にこなすのは大変です。次の来客が億劫にならないように、気楽にできる範囲で工夫しています」 東京から遠く離れていても、大切な友人や親類に遊びに来てほしい。来訪客のおもてなしを前提にした家づくりは、今後の生活で大切にしたいことを考えた結論です。家づくりとはこれからの人生をどのように生きるかを、深く考える契機なのかもしれません。
「将来について自分でしっかり考えること。他人に任せず考え抜くのは楽ではありませんが、後々の後悔も少ないです」
ペーパーナプキン、お皿やスプーンなど、食卓に並べるものもこだわっています
素材そのままの味でもおいしいので、料理はあまり手を加えずシンプルに
豊富な農作物や海産物が鹿屋の魅力。手に入る食材は旬のものばかりなので、自ずと栄養豊富なおいしい料理が作れます。
「東京では季節を問わず何でも売られているので、作りたいものを決めてから買い物に行きますが、鹿屋ではあるもので何が作れるかを考えるのです。これが本来あるべき料理の姿かもしれません。都会育ちで、これまで旬にうとかった私も自然と覚えました」
義姉や知人の畑で穫れた農作物に、地元で作られているソーセージやチーズ。旬で新鮮なものばかり
義姉からは地元の伝統についても教わり、行事ごとに供される郷土の料理にも関心を広げるように。「文化というのは理にかなっている部分も多く、残しておくべきもの。伝統料理など、教えてもらったものを次世代に残したいですね」 現在は地元を盛り上げようと町おこしイベントなどに参加。廃校になった小学校でランチを提供する仮設レストランや、多仁亜さん考案のお料理をホテルのシェフが作るイベントなど、さまざまです。おいしいものや楽しいイベントを通じて鹿屋の魅力を知ってもらえたら、と思っているそうです。
これからも“てげてげ”の精神で、多仁亜さんの家づくり、暮らしづくりは続きます。人生を見据え、考えを巡らせてつくられたこの住まいで、多仁亜さんの笑顔は輝き続けるでしょう。
リビングから見たダイニング・キッチンの様子。引き戸は開放して見通しの良い空間に
基本の配合 : 油3+酢1+塩、こしょう、ちょっとした甘味
- 1.ボウルに酢大さじ1を入れます。
- 2.塩とこしょう少々、はちみつ小さじ1弱を入れて混ぜます。
- 3.味見して、しっかり塩味がきいているか確認します。
※油を入れてからだと、油が邪魔して塩味が分かりづらくなります。 - 4.オリーブ油大さじ3を入れ、泡立て器などで乳化させます。
※うまく乳化できないときは少々マスタードを加えると乳化が進みやすくなります。 - 5.味が均一になったら完成。サラダを乗せ、全体を混ぜます。
- ・塩の代わりに醤油、味噌、アンチョビなどもOKです。
- ・和食には甘めの、洋風には酸味のきいたドレッシングが合うので調味料を工夫してみてください。
- ・鹿屋ではオリーブ油、地元の黒酢やはちみつ、塩、こしょうを使うのが定番です。
料理研究家
兵庫県生まれ。国際基督教大学を卒業後、証券会社に勤務。結婚後、夫の留学のためにロンドンへ。その時にル・コルドン・ブルー(料理教育機関)に通いグラン・ディプロム(学位)を取得する。帰国後、東京で料理教室を開始。著書に「タニアのドイツ式部屋づくり」(ソフトバンククリエイティブ)など。
2018年9月現在の情報となります。