脱炭素社会と不動産(7)木造建築
公開日:2023/06/30
木は光合成により大気中の二酸化炭素を吸収し酸素を排出します。木は燃やさない限りCO2を取り込み蓄えるので「炭素の貯蔵庫」とも呼ばれ、2021年には木造化推進法が定められるなど脱炭素社会実現のため広範な利用が叫ばれています。木材は、鉄やコンクリート等の資材に比べて製造や加工に要するエネルギーが少ないことから、製造及び加工時のCO2の排出量を削減する特徴があります。(参考:林野庁「森林・林業白書」)
森林は「炭素の貯蔵庫、缶詰」といわれている
森林の木々は、光合成(光エネルギーを化学エネルギーに変換すること)によって大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収します。光合成で吸収したCO2は炭素(C)としてブドウ糖となり、デンプンとして貯蔵され、幹や枝、葉など樹体を形成するといわれています。そのため、樹木内部に多くの炭素が貯蔵されるようになります。こうした木々の特徴から、森林(木)はCO2の呼吸源になっており、炭素の貯蔵庫、炭素の缶詰などと呼ばれています。(参考:森林・林業学習館)
木は伐採されて家具や住居などとなって使用された後も、燃やさない限り炭素は外部に放出することなく、そのままの形で貯蔵(固定)された状態を保ちます。つまり、建築物や家具などで木材を使うことは環境保全に一役買うことになるのです。
2021年に「木促法」が制定される
国土の3分の2以上を森林が占めるわが国では、地球温暖化防止のCO2削減策として森林を有効活用し、地球環境の保護に努める活動が展開されています。国は2010年、公共建築物における木材利用の促進をうたった「公共建築物木材利用促進法」を2021年に改正、公共建築物から民間の建築物にまで広く木材利用を促す法律に改めました。これを「木促法」とし、旧来法を「旧木促法」と言い換えることがあります。
木促法の狙いは、①国産木材の適切な供給と利用の確保②森林の適正な整備と木材の自給率向上③脱炭素社会の実現――などです。わが国は2020年に「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」という、カーボンニュートラル宣言を表明しました。この目標を実現するには森林資源の循環利用が不可欠で、「伐採」→「利活用」→「植林」→「育林」のサイクルを維持する必要があります。木は生き物で、適切な時期に伐らずに放置すると炭素の吸収力は低下します。また定期的に間伐しないと森林の全体に陽が届かず育成に支障をきたします。
公共から民間へ建築の木造・木質化を促進
旧木促法は公共建築物に限定して木造化や木質化を促すものでした。公益財団法人 日本住宅・木材技術センターの資料によれば、低層階の公共建築物は2010年度からの10年間で17.9%から29.7%と年々増加しており、木造建築の受注機会は増えています。木造建築は間取りの変更が比較的容易で、他の用途に転用されることが多いといわれています。また資材を調達できる地域が広く、職人・大工が地域ごとに一定数存在しているので増改築がしやすい特徴があります。
2020年度の公共建築物の木造率
出典:「木造低層小規模建築物の実践方策の手引き~非住宅建築物の木造化に向けて~」(公益財団法人 日本住宅・木材技術センター)
コスト・工期の面でも木造はメリット多い
2021年に北米からの輸入木材が高騰する「ウッド・ショック」と呼ばれる時期があり、2022年前半まで続きました。しかし現在は終えんし、逆に木材需要が低迷期に入っているとの見方が出ています。住宅の新規着工件数が伸び悩んでいる現在、木造住宅の建築も増加しているとはいえません。しかし住宅以外で木造建築需要の伸びが期待される分野があります。それが前述した低層木造建築です。
林野庁の調査「非住宅建築物の規模別整備床面積と木造率(2017年度)」によれば、500m2未満の事務所(989千m2)の39%、店舗(1,074千m2)の31%が木造によって建築されているなど、木造化の波が高まっているのです。林野庁は2018年から「JAS構造材実証実験支援事業」をスタートさせ、上限1,500万円(大規模物件は3,000万円)を助成しています。
木造はコスト面でもメリットがあり、「一般社団法人 中大規模木造プレカット技術協会」によると、2階建て事務所(延床面積約430m2)で比較した場合、鉄骨造と比べて9.53%のコストダウンになると試算しています。木造の分だけ木工事が発生してコスト増になりますが、土工事や鉄筋、型枠コンクリート工事の点で鉄骨建築は経費増になり、左官工事や内装でも木造のほうが低価格になっています。
日本人は代々、日々の暮らしの中で木の温もりを大事にしてきました。職場の環境改善のために木造建築のオフィスが登場したり、コンサート会場や集客力の高い大規模商業施設の一部で木造建築を見たりすることが少しずつ増えています。森林資源の循環を守るために木の利活用を拡大することは、脱炭素社会の実現という目標において建築・不動産業界に課せられた重要な使命のひとつといえるのではないでしょうか。