最新データで読み解く
賃貸住宅は、いまバブルなのか?
公開日:2016/08/31
2016年8月18日の日本経済新聞の社説に「バブルの懸念ぬぐえぬ賃貸住宅の増加」という記事がありました。
その実態を検証してみたいと思います。結論を先にいうと、「それほどではない」といえそうです。国土交通省の公表した新築着工戸数のデータを集計したものを下記にまとめました。
2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | |
---|---|---|---|---|
総計 | 882,797 | 980,025 | 892,261 | 909,299 |
106.0% | 111.0% | 91.0% | 101.9% | |
持ち家 | 311,589 | 354,772 | 285,270 | 283,366 |
102.0% | 114.0% | 80.0% | 99.3% | |
貸家 | 318,521 | 356,263 | 362,191 | 378,718 |
111.0% | 112.0% | 102.0% | 104.6% | |
分譲住宅 | 246,810 | 253,931 | 237,428 | 241,201 |
105.0% | 107.0% | 90.0% | 101.6% |
※上段:実数値 下段:前年対比
国土交通省「住宅着工統計」より作成
貸家=賃貸住宅の着工数は、2012年から4年連続前年対比で増加しています。消費税増税にともなう駆け込み需要があった2013年は、総計も大きく伸びていましたが、翌年2014年はその反動減があったにもかかわらず、賃貸住宅は唯一増加しています。また相続税改正のあった2015年は2014年対比で4.6%増となりました。
ここで、もう少し長期的に見てみましょう。
下記の図は、1988年から2014年までの新築賃貸住宅(貸家)の着工戸数の推移をグラフ化したものです。
新築賃貸住宅(貸家)の着工戸数の推移
国土交通省「住宅着工統計」より作成
これを見ると、2007年~2008年のリーマンショック以降の大きな落ち込みからは少しずつ改善しているものの、それ以前と比べるとずいぶん少なくなっています。
1988年から2015年の平均が約52万戸。
バブル崩壊以降の1991年~2015年では、約47万戸が1年間の平均数となります。2015年の1年間で約37.8万戸ですので、この25年間平均に比べて、約10万戸弱少ないという事になります。そして、2016年は、少し減るかもしれないと予測していましたが、上期(1~6月)においてはマイナス金利の影響があったと思われ、前年対比8.7%となっており、これでもまだ、25年間平均よりもだいぶ少なくなっています。
こうしたことから考えると、「賃貸住宅、バブルの懸念」という記事には、疑問を感じます。
25年間の平均着工件数を大きく下回っていても、空き家の増加、人口減少を考えると、「賃貸住宅経営は大丈夫か?」という懸念もあるでしょう。空き家(空室)の約半数は、賃貸住宅であるという指摘もあります。しかし、賃貸住宅の空室が多い理由を探ってみると、日本国内に古い賃貸住宅がいまだ多く存在することが主な原因と考えられます。
賃貸住宅における空室は、築年数の経った物件で多く見られます。
日本には、築35年(旧耐震物件)を超えている物件が数多く存在しています。その傾向は西日本で顕著です。
全国の賃貸住宅の20%を超える物件が築35年を超えており、その割合が30%近い県もあります。その中には建て替えを控えて、募集停止となっている物件もあるでしょう。これらも空室率には含まれています。しかし、建て替える予定のないものも多いようです。こうした、古い物件をどうするのかが今後の課題となるでしょう。
貸家総数の中で築35年超の物件が占める割合
国土交通省「H27年 住宅・土地統計調査」