第5回 法人で収益不動産を購入することがリスクヘッジに!? ~実体験に基づいた法人活用の極意~
公開日:2017/07/28
収益不動産を新たに取得する際に、個人で購入すべきか法人で購入すべきか迷われたことはありませんか?
法人の方が税務対策の幅が広いなど、色々なメリットはありますが、今回はまったく違う視点から法人で物件を購入するメリットをご紹介します。
購入した収益不動産を10カ月で売却
これは実際にあった事例です。Aさんは下記のような収益不動産を法人で購入しました。
所在地 | 埼玉県 |
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構造 | RC 3階9室 |
築年数 | 築22年 |
物件価格 | 146,000,000円 |
年間家賃収入 | 9,360,000円(表面利回り6.4%) |
金融機関 | S銀行 |
借入金額 | 146,000,000円 |
期間 | 32年 |
金利 | 3.3% |
物件購入に伴う諸費用 | 7,574,000円(自己資金でまかなっています) |
総投資合計 | 153,574,000円 |
上記の物件を購入した翌事業年度には次のような臨時費用の支払いがありました。
不動産取得税 | 2,660,000円 |
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修繕費 | 900,000円 |
このような支払いが無くても毎月のキャッシュフローは20万円ほど赤字となり、非常に苦しい経営状況となってしまいました。
そこで、わずか10カ月ほどしか保有しないまま売却することになったのです。
売却の内容は次の通りです。
売却価格 | 140,000,000円(内、消費税が4,258,000円) |
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仲介手数料 | 4,456,000円 |
残債 | 144,266,366円 |
簿価 | 146,944,000円 |
見ていただくとわかるとおり、簿価よりも売価の方が低いので売却損になってしまいます。
そして、売価より残債が多いので、売却代金を買主からもらっても金融機関へ残債を返すにあたり自己資金を追加で入れないといけません。
さらに問題だったのは、売却した事業年度は消費税を納めなければならない納税事業者だったため、売価の中に含まれている消費税を納めなければならないのです。
つまり、物件保有時のキャッシュフローは赤字、物件売却してもキャッシュフローは赤字、そして、消費税と法人税の支払いをしなければいけない状況だったのです。
次の表が物件を売却した事業年度の貸借対照表です。「役員借入金」は、社長個人が会社のために立て替えている金額を示しています。
しかし、法人には、税金を支払うお金もなければ、役員借入金を返してあげるお金もありません。そこで、今回の場合には消費税と法人税を払わないで、法人を解散させることにしたのです。
☆賃借対照表
資産の部
普通預金 | 300,000円 |
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負債の部
未払消費税 | 4,258,000円 |
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未払法人税 | 70,000円 |
役員借入金 | 14,350,000円 |
純資産の部
資本金 | 1,000,000円 |
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剰余金 | △19,378,000円 |
消費税と法人税を払わず法人を解散
本当に払わなくて大丈夫なのかと思われるかもしれませんが、「払わない」のではなく「払えない」から払わないだけなのです。
もう少し具体的にお伝えすると、納税義務者である法人が払えない場合、第二次納税義務(納税義務の拡張)により、一定の者が納税義務を負うことがあります。
ただ、法人に財産が特にない場合は、法人が税金を支払えなかったとしても、社長などに第二次納税義務は及ばないので、個人として支払う必要がないのです。
この根拠条文を記載しておきます。
法人税を滞納のまま解散・清算結了した場合の納税義務[平成27年4月1日現在法令等]
Q:法人が法人税を滞納したまま残余財産を分配して解散・清算結了した場合、当該法人税の納付義務はありますか。
A:法人が納付すべき法人税を納付しないで残余財産を分配して解散・清算結了した場合には、当該法人に滞納処分をしてもなお徴収すべき税額に不足が生じると認められる場合に限り、清算人及び残余財産の分配を受けた者等に、その分配をうけた額等の範囲内において第二次納税義務が生じることとなります。
法人は、解散の登記をして残余財産を分配し、清算結了の登記をすることによって消滅することになります。しかし、租税債務を納付しない場合には清算手続きを終了したことにはならず、清算結了登記をしてもその登記は無効と解されています。
法人税法基本通達においても、法人が清算結了の登記をした場合においてもその清算の結了は実質的に判定すべきものであるから、当該法人は、各事業年度の所得に対する法人税等を納める義務を履行するまでは、なお存続するものとされています。
従って、法人は解散・清算結了の登記はしたものの滞納税金がありますので、残余財産の分配を受けた者等について、第二次納税義務が生ずることとなります。
参考条文等:国税徴収法第34条 法人税法基本通達1-1-7
ホームページ支援:日本税理士共済会
なぜこれが法人で物件を保有するメリットかというと、もし個人で物件を保有していたら、消費税の納税義務を免れることは難しかったからです。個人であれば、税金の支払いが出来ないとなると、預金や自宅や車などの資産を差し押さえられてしまいますので、分割してでも払っていかなければなりませんが、このような場合だと、法人だけで話が完結できるのです。
つまり、別人格としてみられるので、個人には納税義務が及ばず、更なる出費は無いわけです。
ただし、一点気を付けておきたいのは、税金を支払わない代わりに、税務署等から督促状がきたり、税務署(徴収官)から電話連絡があったりします。
それにより任意捜査に移行し、日時を設定して、その法人本店の捜査が開始されます。財産調査のうえ、捜査調書を作成してもらい、財産が無いと判断されれば、数カ月後に滞納処分の停止措置がとられます。このように、税金を支払わない代わりとして多少面倒な対応があることは覚悟しなければなりません。