空き家所有者の意向調査 ~空き家を今後どうする?~(後編)
公開日:2021/03/01
POINT!
・空き家の腐朽・破損状態によって、利用意向は変わってくる
・空き家、空き室を賃貸する際の課題には、リフォーム工事も」選択肢に
空き家所有者は、空き家を今後どうする意向なのでしょうか。
全国の空き家の利用状況を国土交通省が公表。空き家所有者は、どう考えているのか?(前編)に続き、5年に1度大規模に実施される、「空き家所有者実態調査」(調査主体:国土交通省)の分析の後編をお伝えします。
空き家の状況別の今後の意向
繰り返しになりますが、「空き家」を「空き家」のままにしておき、利用しない物件が増えると、防犯、景観、街づくり等あらゆる観点でデメリットがあります。
はじめに、空き家全体の調査において、興味深い項目をいくつか取り上げます。
「空き家を今後どうするか」という問いに対して、図1で空き家の腐朽・破損の状態別にみると、腐朽・破損の程度が大きい場合は「取り壊す」の割合が大きくなっています。特に、「屋根の変形や柱の傾きなどが生じている」では29.1%、「住宅の外回りまたは室内に全体的に腐朽・破損がある」では39.4%の方が「取り壊す」意向を示しています。
図1:今後の利用意向(総数・腐朽・破損の状態別)
国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査報告書」より作成
では、この「取り壊す」費用は、どう捻出するのでしょうか?
図2のアンケート結果では、「貯蓄から捻出する」が55%、「融資を受けて」は4.7%、各自治体が上限を設けて行っている「補助金の利用」は17.1%に留まりました。各自治体は、もう少し積極的に広報を行ったほうがよいのかもしれません。
腐朽・破損の程度が進むほど「売却」の割合が大きくなっているようですが、建物の主要部分まで不具合(屋根の変形や柱の傾きなど)が進むと、売却の割合が小さくなっています。反対に、腐朽・破損なしでは、「セカンドハウスなどとして利用」の割合が大きくなっています。
図2:除去費用の用意(n=516)
国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査報告書」より作成
また図3では、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づく「特定空家等への措置」を「知っている」世帯ほど「空き家にしておく」の割合が小さくなっています。この法律には、空き家対処促進に一定の効力があるようです。法律制定時には、メディアもかなり報じましたが、このところはあまり聞かれなくなりました。こちらも、行政によるアナウンスが必要のようです。
図3:今後の利用意向(総数・特定空家等への措置の認知状況別)
国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査報告書」より作成
空き家を賃貸あるいは売却する際の課題認識
次は、空き家を今後、「貸したい」あるいは「売りたい」と考えている所有者への課題の調査です。
「賃貸」「売却」の利用意向を持つ人に、賃貸・売却するうえでの課題を聞くと、「買い手・借り手の少なさ(42.3%)」が最も大きくなっています。空き家の所在が、地方都市や郊外に多いためではないかと思われます。しかし最近では、郊外や地方でもさまざまな土地活用のパターンがあるため諦めずに多様な可能性について大和ハウス工業などの土地活用の専門家に相談してみるといいでしょう。
ほかの課題では、「住宅の傷み」が30.5%、「設備や建具の古さ」が26.9%、「リフォーム費用」21.4%となっています。
図4:賃貸・売却する上での課題(n=885)
国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査報告書」より作成
空室の賃貸住宅のリフォーム状況と今後の意向
ここからは、賃貸住宅の空き家(空き室)にフォーカスします。
「建て方別の最近5年間のリフォーム工事の状況」の結果を図5で見ると、全体では約18%の空き家物件で5年以内にリフォームが行われています。しかし、これを共同住宅(アパート・マンション)に限ってみれば、約24%と大きく上昇しており、他の建て方に比べて最も多くなっています。
マンションの中には販売中の空き家も含まれていると思いますが、リフォーム工事を行った物件の多くは、賃貸住宅だと推測できます。それは、賃貸住宅に多い鉄骨造のほうが、主に10階建て以上の大型マンションで使われる鉄筋コンクリート造に比べてリフォーム工事を行っている割合が多いことから推測できます。
図5:建て方別の最近5 年間のリフォーム工事の状況
国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査報告書」より作成
次に、「建て方別の今後のリフォーム工事の実施意向」の結果を図6で見ると、全体の10%が「今後リフォームを考えている」と答えています。しかし、これを共同住宅(アパート・マンション)に限ると2倍以上の約21%の方がリフォームを考えているようです。
図6:建て方別の今後のリフォーム工事の実施意向
国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査報告書」より作成
賃貸住宅の空室をどうするか
賃貸住宅の空室は、築年数が一定年経過した物件で多く見られます。
「賃貸住宅経営は、スタートから20年くらいは順調だったが、20年を超えるころから空室が続き、収支計画が崩れ始める」などという可能性が高まります。
また、空室が長く続くと、「賃料を下げてでも入ってもらいたい」という心理から、「安い賃料で貸す」ことが増え、長期的な収益構造が崩れます。
立地エリアに今後も賃貸需要が見込めるならば、単に「賃料を下げる」という選択肢のほかに、今後の収支計画を立てたうえで、「リフォーム工事を行い、賃料を維持する」という選択肢を解決策の一つとして検討してもいいと思います。