2020年、主要都市のキャップレートはどう動いたのか
公開日:2021/03/31
POINT!
・キャップレートは、大きな経済ショックや景気後退期に変動しやすい
・主要4都市では、新型コロナウイルスショックの前後では概ね横ばいか少し下がる傾向で、大きな影響を受けていない様子
不動産投資家が投資をする際の期待利回りのことを「キャップレート」といいます。土地活用として、賃貸住宅を建築したり流通小売店舗を建てたりする賃貸経営は、いうまでもなく不動産投資のひとつですから利回りを期待することになります。
通常キャップレートは、純収益(年間賃料収入―維持管理費など各種経費)÷収益物件にかかる投資費用(不動産価格)で算出します。自ら所有する土地を活用する場合は、不動産価格を概算土地価格+賃貸物件建築価格で計算するといいでしょう。
キャップレートは、不動産種別、立地(エリア)、建て方(工法)などいろいろな変動要素がありますので、ここでのキャップレートの数字は、傾向をつかむためのイメージとして捉えていただきたいと思います。
新型コロナショックの前後で、期待する利回りに変化はあったのでしょうか。大きな経済ショックや景気後退期には期待利回り(=キャップレート)は大きく上昇します。それまで5%程度の利回りで運用できる物件へ投資していたものが、「7%く
らいないと投資しづらい」などと考えるイメージです。
賃貸住宅に関するキャップレートの推移
ここからは、主要都市の賃貸住宅におけるキャップレートの推移をみてみましょう。
以降のデータは、一般財団法人日本不動産研究所が、毎年4月と10月に公表している「不動産投資家調査」によるものです。この調査は、期待利回りを中心として投資スタンスや今後の賃料の見通しなどを各種機関投資家、アセットマネージャー等を対象としたアンケートの結果を基に分析・算出を行ったものです。
主要都市全体では、新型コロナショック前の2019年10月調査までは、キャップレートの低下が続いていました。新型コロナウイルス感染拡大時期の前後では、概ね横ばい、もしくは一部エリアで低下しています。住宅賃料は、多少は市況に左右されますが、短期間ではそれほど大きく変動しません。そこで、賃料やその他の要因が一定だとすると、キャップレートが低下しているということは、不動産価格が上昇しているということを意味します。
それでは、まず東京の状況から見てみましょう。賃貸住宅において東京都心では、城南エリア(目黒区・世田谷区)と城東エリア(墨田区・江東区)の2つのデータがありますが、ここでは城南エリアのデータを掲載します。
図1:賃貸住宅キャップレートの推移(東京_城南)
(一財)日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成
東京城南エリアのキャップレートは、20年4月と10月では変化はなく(横ばい)、依然期待利回りが低い状態が続いています。図1にはありませんが、調査結果には取引利回りのデータもあり、城南エリアのワンルームマンション(1棟モノ)では3.9%、キャップレートは4.2%ですから、その差は0.3%と大きくなっています。つまり、4.2%くらいで想定したものの、それより低い利回り(つまり不動産価格が高い)で取引されているということです。
こうしたことから、この先も投資意欲が旺盛なエリアであり、投資用賃貸住宅価格の上昇が続く可能性があります。
図2:賃貸住宅キャップレートの推移(名古屋)
(一財)日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成
図2は、名古屋エリアです。名古屋市の賃貸住宅キャップレートは、ワンルーム・ファミリーともに横ばいが続いています。ワンルームマンションのキャップレートは、東京(城南エリア)に比べて0.8ポイント高くなっています。
図3:賃貸住宅キャップレートの推移(大阪)
(一財)日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成
図3は、大阪エリアです。ファミリー物件のキャップレートは18年4月以降長く横ばいが続いています。20年の1年間も変化はありませんでした。一方、ワンルームマンションのキャップレートは19年から20年にかけて、少し下がりました。
図4:賃貸住宅キャップレートの推移(福岡)
(一財)日本不動産研究所「不動産投資家調査」より作成
図4は、福岡エリアです。20年の間にワンルームマンションのキャップレートは少し下がりました。
概ね名古屋エリアと同水準です。
主要4都市の賃貸住宅のキャップレートの推移をここまで見てきました。全体的には、新型コロナウイルスショック前の19年10月と20年4月・10月に大きな変化はありませんでした。新型コロナウイルスの影響は日本経済に大きな影を落としていますが、不動産投資の専門家が考える賃貸住宅市況は、現時点では大きな影響を受けている様子ではないようです。