土地価格動向・賃貸住宅市況を業界関係者はどう見ているか?~不動産市況DI調査を読み解く~
公開日:2022/01/11
POINT!
・土地価格の動向では、新型コロナウイルス感染症によるネガティブな影響はほとんどなくなっている傾向にある
・居住用賃貸物件の賃料の動向は、全国的におおむね横ばい。空室動向では地域によりばらつきが見られた
不動産市況DI調査
DI(Diff usion Index)は、景気の動向や市況感を見る際に、分かりやすく指数化したものとして、さまざまな調査で用いられる手法です。内閣府の景気ウォッチャー調査や日銀短観(日本銀行の全国企業短期経済観測調査)などのDIはメディアも大きく報じるのでご存じの方も多いと思います。今回は、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)が年4回公表している不動産市況DI調査の最新版「第23回調査」(注:調査時点2021年10月上旬、公表11月。不動産関連企業むけのアンケート調査で有効回答数は257)をもとに、このところの不動産市況や賃貸住宅市況について見てみましょう。
この不動産市況DI調査は、アンケートを行いその結果にウエイトをかけて算出しています。アンケートは、⑤大きく上昇(あるいは改善などポジティブなワード)、④やや上昇(同)、③横ばい、②やや下落(あるいは減少などネガティブなワード)、①大きく下落(同)の5段階の回答から選択する方式となっています。ここでのDI指数は、ポジティブ回答順に⑤-④-③-②-①とすると、(⑤×2+④)-(①×2+②)÷2÷全回答者数×100の式で算出しています(「横ばい」回答=③は、0として計算します)ここでの算出では「大きく」に対して2倍のウエイトをかけていますが、他の調査ではウエイトのかけ方が異なることもあります。また、DI調査は主にアンケートを行うというシンプルな調査方法ですが、関係者にダイレクトに聞く手法ですので実態が見えやすいともいえ、把握しやすいと思います。
土地価格の動向
まず全国の土地価格の動向について見てみましょう。
全国の土地価格においては、前回(21年7月)と比較してDI指数は5.6でした。2020年4月、7月、10月、2021年1月の調査ではマイナスでしたが、前回調査より少し下がったものの、3回連続(おおむね9カ月)のプラスとなりました。この全国平均の数字を見る限り、土地価格においては新型コロナウイルス感染症によるネガティブな影響は、ほとんどなくなっている傾向が見られます。また、この先3カ月後の動向予測値は全国で2.9となり、この先の伸びは鈍化する予測となっています。エリア別に見ると、関東地区では現在のDI指数9.8でトップ、また3カ月後のDI指数は6.0でこちらは近畿地区に次ぐ値となっています。
一方で、中部地区では「やや下落」という回答が他エリアに比べて多かったため、現状のDI指数はマイナス2.6、この先3カ月後の予測値においてはマイナス7.7となりました。このほかのエリアのDI指数は全てプラスの値(中国・四国地区は±0)となっています。
居住用賃貸住宅賃料の動向
次に「居住用賃貸物件の賃料の動向」の項目を見てみます。全国では、75.4%が「横ばい」、6.3%が「やや上昇」、17.4%が「やや下落」と回答しています。
関東地区では、「やや上昇」が11.9%と回答、また、北海道・東北・甲信越地区で25.8%が「やや下落」と回答していることが突出している点ですが、他のエリアではおおむね「横ばい」との回答が圧倒的です。また、3カ月後の予測ですが、全国では79.2%の回答が「横ばい」で、関東地区と中部地区を除くエリアでは、80%以上の回答が「横ばい」となっています。
関東地区では12.2%、中部地区では7.7%が「やや上昇」と回答しており、この二つの地区では家賃上昇の可能性を見込んでいる業界関係者が他地区に比べて多くいるようです。
居住用賃貸住宅の空室動向
最後に「居住用賃貸物件の空室率の動向」です。
全国では、10.3%が「やや改善」、54.0%が「横ばい」、32.1%が「やや悪化」と回答しています。空室率の回答は全国でかなりばらつきがあり、例えば、「やや悪化」と「大きく悪化」の
合計が最も多いのが九州・沖縄地区で、次に多いのが関東地区になっています。これら2エリアでは、「横ばい」+「改善」の合計が60%を切っています。これら地区は好調が続いていましたが、その調整局面に入っているのかもしれません。
しかし、この先3カ月後の予測では、全国・そして各エリアとも現状よりもネガティブな回答の割合が減り、ポジティブな回答の割合が増えていますので、一時的なものと考えてよいでしょう。